お姫様の新たな修行
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
マキューロに入り、“不気味な唸り声”を警戒しながら歩を進める一行。
リエネが“邪魔な木を焼き払いたい”と漏らすと“他のマキューロ人の前では言うな”と諫めたレピは、休憩がてら足を止め、マキューロにおける自然の存在の大きさや、それを巡るマキューロ人同士の確執を語る。
その場で一晩を明かすことにし、見張りを買って出たリエネを除き、眠りについた。
見張りのリエネを残し、四人が眠りについてから数時間後。
「ん…」
「あらレピさん、お目覚めですの?早いですわね」
「…おはようございます、リリニシア様」
「えぇ、おはようございます」
レピが目を覚ますと既にリエネは眠りについており、交代したリリニシアが周囲を警戒しながら、仲間たちを起こさぬよう小声で語りかけた。
「もう少しお休みになったらいかがですの?」
「いえ、もう充分に休めました」
「そうですの?ご無理はなさらないでくださいね」
「もちろん。そういうリリニシア様こそ、途中で起こされて寝足りないのではありませんか?僕が代わりますよ」
見上げると、木々の隙間から垣間見える空はまだ暗い。
気を遣ったレピの言葉に、リリニシアはむくれて答えた。
「もう、またお姫様扱いですの?レピさんは未だにワタクシを、一人の仲間として見てはくれないんですのね」
「そういう訳では。シェリルさんでもスウォルくんでも、同じ提案をしましたよ」
「…でしたら構いませんけれど」
信じるかどうか悩ましげに、横目でジトッとレピを睨んだリリニシアだったが、突如何かを思い付いたように表情を変えた。
「そうだレピさん、お休みにならないなら、魔術の手解きをお願い出来ませんこと?」
「えぇ、ヤクノサニユやハリソノイアよりも環境に恵まれていますし。…とはいえ、あまり騒がしくすることも出来ませんが。──でしたら、そうですね」
眠っている三人にチラリと視線を投げた後、リリニシアに向き直った。
「“媒介”を作る練習をしてみましょうか。せっかくマキューロにいるんですから」
「そりゃあ環境はこの上ないでしょうけれど…出来ますの?ワタクシに。まだ回復と火、あと氷しか扱えませんのに」
恵まれた環境にいたり、精神力に余裕のある時のみ、優れた魔術師が作り出すことが可能な、用いれば本来は困難な状況下に置いても魔術の発動を助ける“媒介”の作成──。
訝しげに顔をしかめ、首を傾げるリリニシアに、レピは微笑みを崩さず、穏やかに続ける。
「もちろん、“すぐに一人でやれ”と言っても難しいでしょう。僕が補助しますからご安心ください」
「頼りにしておりますわ」
「ではリリニシア様。まず媒介の作り方をおさらいしておきましょうか」
「分かりましたわ」
緊張の面持ちを浮かべたリリニシアが頷き、レピを見つめる。
対するレピも、何も言わずにリリニシアを見つめ続けた。
「…あ、ワタクシが言えってことですの?では──“偉大なる自然に敬意と畏れを捧げ、手にするモノに魔術の礎を封ず”…ですわよね」
「はい、合ってます。聞く分に単純極まりないですねぇ」
「正直、ワタクシにしてみれば“その封じ方を教えんかい”って感じなのですけれど」
不服そうに唇を尖らせるリリニシアに、レピは小さく吹き出した。
「ふふっ…今からお教えしますよ。──と言っても、これは理屈で説明できるものでもありません。実際に試しながら、感覚を身に付けて行きましょう」
「了解ですわ。それで、なんの魔術の媒介を作るんですの?火?氷?回復…は、ちょっと想像もつきませんけれど」
自らの手札を挙げていくリリニシアに、レピは一瞬、唇を歪め、不敵な笑みを見せた。
「…嫌いですわー、そのニヤケ面してる時のレピさん」
「おや、辛辣ですねぇ。そうおっしゃらずに。せっかくですから、まだリリニシア様が扱えない魔術の媒介を作ってみましょうか」
「は!?何言ってんですの!?…あ」
「お静かに。皆さん起きてしまいますよ」
言われるまでもなく、リリニシアは咄嗟に口を抑え、眠っている仲間たちに視線を移すが、幸い目覚める様子はない。
ほっと胸を撫で下ろすと、気を取り直し、改めて小声で尋ねた。
「んん…こほん。そもそも扱えない魔術の媒介なんて作れるモンなんですの?」
「さっきも同じことを言いましたが、基本的に一人では不可能です。が、リリニシア様ほどの才能をお持ちなら、僕の補助を前提とすれば充分に実現可能かと」
「ホントですのぉ…?」
明確に才を誉められたにも関わらず、リリニシアは舞い上がって喜ぶことはせず、ジロリと目を細めた。
「もちろんです。それどころか、媒介を作る過程で理解が進み、その魔術自体をご自身のモノにしてしまうかも知れない…と期待しての提案です」
「…ふぅん。そんな強引な教え方するんですの?マキューロって」
かと言って誉められて悪い気はせず、口角が持ち上がるのを堪えきれていないことを自覚しているリリニシアは、それを誤魔化すため、あえて素っ気なく問う。
レピは察し、しかし追求せずに首を横に振った。
「いえ、普通はしません。補助があったところで、到底出来ることではありませんから。──並の才能の者では、ね」
「…ふぅ~ぅん?そこまで言うなら、やったろうじゃありませんの!」
「お静かに」
「あっ」
眉をピクピクと上下させ、リリニシアは陥落した。
「さて、まずは何を媒介とするか、ですが…言うまでもないことですが、持ち運べる大きさのモノというのが大前提になりますね」
「そりゃそうですわね。媒介にしたって持ち運べないんじゃ、使いたい時に使えませんもの」
「不可能、という訳ではないんですが、まぁ意味はないですよね、使えないと。やはり魔術の補助が目的という性質上、常に身に付けている物だと好都合です」
「でしたら…これかしら」
そう言うと、リリニシアは懐から輝く宝石を一つ、取り出した。
「これは?」
「最初に旅立つ直前、商人が売っているのを見掛けたモノですわ。シェリルとスウォルには却下されましたけれど…帰ってきてから見てみたらまだ残ってましたから、コッソリ買ってしまいましたの」
「資金を個人的に使い込んだのですか?それは流石に…」
「ち、違いますわよ…!」
白い目を向けるレピに、リリニシアは慌てて、しかし騒がず、小さな声で反論する。
「城に請求するよう言いました。ワタクシが使い込んだのは旅の資金ではなく、国の予算ですわ」
「それはそれで問題では…?」
「これが媒介になって魔王を討つ旅の役に立つのですから安いモノですわ」
「そのつもりで買った訳じゃないでしょう?結果論じゃないですか」
「う、うるさいですわね。もし媒介にならなかったとしても、ワタクシのやる気には大きく影響しますわ」
「…拝見させていただいても?」
“やれやれ”と言わんばかりのため息を露骨についてみせながら、レピは右手を差し出した。
「丁重に扱ってくださいましね、気に入ってるんですから」
「承知しております。──火の魔術」
左手に小さな火の玉を灯して光源を確保し、レピは右手に収まる宝石を、様々に角度を変え、眺める。
「氷の魔術の止血といい、細かい制御を修めると便利ですのね」
「えぇ、暑かったらグレクォ、寒い時にはオレム、なんて使い方も出来ます。リリニシア様も遠からず、でしょう。…なるほど、これはいい石です」
「あら、レピさんは宝石の価値が分かる男ですのね?スウォルなんかダメですわアレ。興味も示さなくて──」
「んおぅ?」
「!」
“ダメ”と断じられたスウォルの声が響くと、二人は即座に口を閉じ、彼に目をやる。
「…zzz」
「ほっ…。寝てますわね」
「まぁ彼ならダメと言われても怒らないと思いますが、心臓には悪いですね。それよりリリニシア様、生憎ですが僕も宝石の価値が分からないダメな側の男ですよ」
「え、でもいい石って──」
納得が言っていないリリニシアに、レピは首を横に振りながら遮った。
「僕は“宝石として”ではなく、あくまで“媒介として”という尺度で言っているだけです。その尺度で言えば、これはかなり上質と言っていいですよ。いい目をお持ちですね、リリニシア様。お返しいたし──どうしました?」
「なんっでもありません…わっ」
レピが差し出した宝石を、リリニシアは不満げな顔で引ったくるように奪い取り、頬を膨らませふて腐れながら尋ねる。
「それで?なんの魔術の媒介を作りますの?」
「そうですね、今の環境を考え…オディヌにしましょうか」
「風、ですわね」
「えぇ。現在の環境において、水や雷よりもとっつきやすいでしょう?」
「まぁ“本当にそんなことが出来るのか”って疑問は拭えませんが、試してみればわかることですわね。では早速、お願いいたしますわ」
──二時間後。
「ぜんっぜん分からんのですけれど!?」
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次回は1月12日20時にXでの先行公開を、13日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
リリニシアの絶叫でシェリルが目を覚ますと、レピはリリニシアの進捗を認めながらも、負担を理由にその日の修業を切り上げ、残る二人も起こすことにした。
リエネはすぐに目を覚ますも、スウォルは中々目覚めない。
そんなスウォルを起こすためレピは──。
次回「お姫様と勇者(弟)」




