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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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46/49

勇者一行、初めてのマキューロ

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。

以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

レピとリエネを引き連れ、馬車を無事に預けたリリニシアが道場に帰還した後、デギンズが持ってきた食事を済ませた一行。

翌朝、名残惜しみながらも旅立つ一行をデギンズと共に見送ったグラウムは、彼の言動に違和感を覚えていた。

一方、一行は三日と少しをかけ、いよいよマキューロとの国境に辿り着く。

「ここから先が…マキューロですわ!」

「なるほど、これが…!」


 高く登った太陽を背にリリニシアが力強く宣言する後ろで、リエネは国境より先の様子に感嘆の声をあげた。

 レピの予告した通り、歩みを進めマキューロに近付くに連れ木々が多くなって来てはいたが、リリニシアの目線の先はまさしく鬱蒼と生い茂った森そのものだった。


「わぁ…すっごい…」

「こりゃあ確かに馬車通れねぇな」


 ここまでの道中で前向きさを取り戻したシェリルとスウォルもリエネに続き、その様に圧倒された。

 一方レピだけはその景色に、どこか声色が弾む。


「僕にとってはこれが当たり前なんですけどね。僕も初めてハリソノイアとの国境を見た時は驚きましたから、逆の立場だとそうなんでしょう」

「レピさん、マキューロってどこもこんな感じなんですか?」


 シェリルが興味深げに尋ねると、レピは声を弾ませたまま、楽しそうに答えた。


「そんなことはありませんよ。人が住んでいる場所は流石にもう少し拓けてますし、人が通らないようなところはこんなものじゃありません」

「これよりスゴいんですか!?」

「流石に“魔術の国”だけあるというか…この環境なら、確かに自然の力も借りやすそうですものね。こと魔術において“マキューロでの一年は他所の十年に値する”というのも大袈裟ではなさそうですわ」


 シェリルに続いたリリニシアは、“魔術師として”の観点から、旅の途中でレピから聞いた言葉を引用し、感動と共に大きく頷く。


「さて、ここから先は僕が先陣を切りましょうか。これまで以上に歩きづらいと思いますが、皆さん足元に気を付けて着いてきてくださいね」


 レピがリリニシアの横を通り抜け先頭で国境を越えると、仲間たちもそれに倣い、次々にマキューロへと足を踏み入れた。


「気を付けるのが足元だけでよければ、どれだけ楽でしたかしらね…」


 リリニシアがボソリと、吐き捨てるように呟くと、リエネはキョロキョロと辺りに注意を払いながら、それに答える。


「魔物か獣か…例の“唸り声”の主が、不意に現れるかも知れません」


 ──マキューロとの国境までの道中、立ち寄った集落で得た情報。

 なんでも“時折マキューロ側から、地響きのような不気味な唸り声”が聞こえるという。

 聞こえるようになったのはつい最近のことで、マキューロ近くに住む住人はおろか、国境を超えて行き来する少数の者も、その正体は見ていない。

 マキューロ人のレピも、心当たりがないという。


「魔物なら(こいつ)と姉ちゃんの剣が教えてくれるから、いっそ気楽なんだけどな」

「スウォル…師匠(せんせい)も言ってたでしょ?油断しないでったら」


 聞いた話を思い出したスウォルが苦笑しながら漏らすと、シェリルはため息と共に呆れた声で言い聞かせる。


「分かってるって。なんにせよ、さっさと人がいるっていう拓けたとこまで行きたいとこだなぁ。どんくらい掛かるんだ?」


 台詞と裏腹に緊張感を感じさせないおどけた声で、スウォルは続けて尋ねた。


「分かってるならもっとシャキッとしてよ…。レピさん?」

「そうですね、単純な距離で言えばヤクノサニユ城から国境までよりも短いはずですが…具体的には正直、ちょっと読めません」


 シェリルに話を振られ、レピは答えるものの、その回答は歯切れが悪い。

 スウォルは依然、シャキッとすることなく、気の抜けた声と共に頷いた。


「そりゃそうか。こんだけ歩きづらいと時間掛かるよな~」

「それに加え、平坦な道と比べて体力の消耗も激しくなりますから、休息の頻度も増えるでしょう。馬車を預けてしまっているので、一人二人を休ませながら進むことも出来ません」

「かと言って預けてなかったら動きづらくて仕方ねぇしなぁ」

「やむを得なかったと思いますよ。ともかく体力的に無理のない範囲で急ぎましょう。…リリニシア様」

「へ!?な、なんですの?」


 唐突に名を呼ばれ、興味深げに木々を見回しながら歩いていたリリニシアがビクッと体を震わせて驚く。


「これまでは極力、リリニシア様が寝ずに見張りをする状況は避けてきましたが…もしかしたら、そうもいかなくなるかも知れません。心の準備だけはしておいていただけると」

「なーにを水臭いことおっしゃるんですの!ワタクシだって旅の仲間ですもの、どーんとお任せあれ!ですわ!何かあったら皆さんを叩き起こせばよろしいんでしょ?」

「ははは…頼もしい限りですよ」


 リリニシアの間違ってはいないが豪快な結論に、レピは苦笑いを浮かべている一方、リエネは警戒しながらも頭上高くそびえる木々を見上げた。


「しかし暗いな…。葉に遮られて、ほとんど日光が届かん」

「そうですね。ただでさえ歩きづらい上に、木とか葉っぱが邪魔で視界が悪いのに…」


 顔周りの葉を鬱陶しそうに払いながら、シェリルも同調する。


「いっそすべて焼き払いたくなるな」

「それは流石に…。分からなくはないですけど」

「…リエネさん、それから皆さんも、他のマキューロ人の前でそういった言葉は口にしないでくださいね」

「む?」


 リエネの愚痴を、歩みを進めながらも耳をそばだてていたレピが戒めた。


「マキューロでは自然こそ至高無上の存在である、という考え方が一般的です。切り拓くにしても本当に必要な場合に、本当に必要な範囲だけを、と考えます。今のリエネさんの言葉は、自然への冒涜と受け取られてしまうでしょう」

「…ふむ、分かった。気を付けるとしよう。だが──」


 口では理解を示しながらも、腑に落ちていない様子で、リエネは続けた。


「必要があれば必要な分だけ、自分たちの都合で切り拓くのだろう?“自然こそ至高無上”だと言うならそれすらせず、むしろ自分たちの都合を自然に合わせるべきなんじゃないか?」

「なかなか痛いところを突きますね。確かにそう考えている者…いわば原理主義者も少なくはないようですが」

「ほう、マキューロ内にも対立が?」


 眉根を寄せ、渋い顔で答えたレピの言葉に、リエネは興味を示す。


「えぇ。内戦というほど大きな物ではありませんが、対立がない、とは口が裂けても言えませんね。…ちょうどいい、皆さんにも理解しておいてもらった方がよさそうですし、話がてら少し休みましょうか」


 先頭を歩くレピが、やや草木が少ない空間を見つけ休憩を提案すると、一行はそれに従い、各々木に体を預けて座り込み、各々が持ち込んだ食料を取り出し、口に運ぶ。


「さて、どこから話しましょうか」


 仲間が座ったのを確認し、レピは言葉を探しながら口を開いた。


「原理主義というのは、まさしくリエネさんの言う通り、“自然の在り方に自分たち人間が合わせるべき”という考えです。例えば住む場所が必要なら木を切り倒すのではなく、切らずに住める場所を探せ、ということですね」

「あれ?でもさっき、人がいるところは拓けてるって…」


 国境を越える直前のレピの言葉との矛盾にシェリルが首を捻ると、レピは頷きながら答える。


「えぇ。それが原理主義者と対立する、革新主義の考えです。“自分たちも自然の一つであり、自分たちの行いもまた自然の摂理である。故に住む為に木を切り倒しても自然への冒涜には当たらない”という考え方ですね」


 レピによる革新主義の抗議を受け、リリニシアは立てた人差し指を顎に当て、首を傾げた。


「それ…って、さっきリエネさんが言ったことにも適用できませんこと?」

「突き詰めて言えば、“本当に焼き払う必要がある”という前提の元であれば可能です」

「なのにリエネさんは冒涜だって言われてしまいますの?」

「“焼き払うかどうか”よりも、肝心なのは“自然への畏敬があるか”なんです。その点、先のリエネさんのお言葉を聞いて、自然の敬意を感じるマキューロ人はいないでしょうから」

「なぁ、その“必要があるかどうか”ってのは誰が決めるんだ?前に言ってた…なんだっけ、元老院(げんろーいん)?」


 次いでスウォルが疑問をそのまま、旅の途中でレピから聞いた単語を用いてぶつける。


「いえ、違います。元老院は五名すべてが原理主義者ですので。そしてスウォルくんの言うそれが、革新主義側における最大の問題点なんです」


 レピが残念そうに、首を横に振りながら言うと、リリニシアは難しい表情で、視線を伏せながら話を引き継ぐ。


「各々が“必要の有無”を判断するのなら革新主義者の間でも意見が割れ、やがて対立が起こる。かと言って意志決定を個人に委ねれば、“自分にとって必要なのに無視された”という者が現れ、それもまた対立に…ということですわね」

「はい。今は“自然への畏敬”が暴走を抑えてくれていますが、それもいつまで持つか…」


 “畏敬”を持たず自然を“冒涜”したと断じられたリエネは意趣返しとばかりに、嗜虐的にほくそえんだ。


「いくらでも恣意的に解釈出来てしまうからな。そして都合のいい解釈を重ね、自然を切り拓くにつれ、徐々に薄れていくんだろうなぁ…その“畏敬”も」

「実際、原理主義者たちはそれを強く恐れています。その先に待つのはマキューロの崩壊のみだと。…すみません、今日は少し疲れました。このまま休ませていただけますか」


 疲労を訴えるレピの意を汲み、リエネが見張りを名乗り出る。


「先頭で特に神経を使ったろうからな。まずは私が番をしよう。みんな休んでくれ。交代は…誰にするか」

「でしたらワタクシにお任せあそばせ!」

「…リリニシア様、しかし──」

「さっきのお話、聞いておりましたでしょう?それともリエネさんは、ワタクシではアテにならない…とお考えですの?」

「そういう訳では。…分かりました、しばらくしたら起こします」


 強い自薦の末、リエネを観念させたリリニシアに、シェリルとスウォルは迷わず見張りを託した。


「流石リリニシアというか。任せるね」

「なんかあったらすぐ起こしてくれよ」

「…貴方たちは起こしたらすぐ起きてくださいましね。ではひとまずお休みなさい」


 そうしてリエネを除き、一行は深い森の中での、初めての眠りに付いた。

お読みいただき、ありがとうございました。

温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は1月5日20時にXでの先行公開を、6日20時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

翌朝、仲間たちより早くにレピが目を覚ますと、既にリリニシアと交代し、リエネは眠りについていた。

リリニシアに二度寝を勧められたレピが断ると、“それなら”と魔術の手解きを頼まれる。

仲間たちの眠りを妨げずに済むよう、レピが考案した手解きは──。


次回「お姫様の新たな修行」

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