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勇者が二人産まれたら  作者: みそすーぱー


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教育と常識

閲覧いただき、ありがとうございます。

みそすーぱーです。

以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。


~前回のあらすじ~

後から現れたデギンズと僅かに言葉を交わした後、馬車を預ける件で城に向かう前に王とグラウムの関係や思惑を論じたリリニシア、レピ、リエネ。

水面下で対立していると結論付け城に移動すると、レピはリリニシアのみを王の元に向かわせ、自らはリエネと二人、更に議論を深める。

グラウムが反乱を企んでいる可能性を指摘し、リリニシアに伝えるのは酷とした一方、道場では──。

「あーゆーの止めてくれっつったじゃねぇか、デギンズさん」

「なんの話だ」


 レピとリエネを引き連れ、リリニシアが城に向かうべく道場を発ってまもなく、スウォルは険しい顔でデギンズに詰めよった。


「とぼけないでくれよ。思いっきり睨み付けてたじゃねぇか、リエネさん」

「それは…」

「ハリソノイア人だからおもうところはあるかも知れねぇけど、今は俺たちの仲間なんだ。これもさっき言ったはずだぜ」

「デギンズさん」


 スウォルの追及に、バツが悪そうに視線を逸らしたデギンズの名を、シェリルは冷静な、落ち着いた声色で呼んだ。


「なんだ」

「リエネさんと面識はあるんですか?」

「いや、ない」

「初対面なのに、どうしてあんな目で?」

「…」


 答えに窮し黙り込むデギンズに、シェリルは追撃の手…いや、口を止めない。


「ハリソノイア人だからですか?」

「…悪かったよ」

「謝るのはリエネさんが戻ってから本人にお願いします。今は私の質問に答えてください」

「…姉ちゃん?」


 シェリルの矛先が、自分のそれと少しズレていることに気付き、スウォルは戸惑いを見せた。


「これシェリル、どうしたんじゃ」


 同じく困惑しながら、グラウムも間に入る。


師匠(せんせい)…。知りたいんです、私。会ったこともない人を、なんであんな目で睨めるのか。…レピさんもそうでした」

「え、レピさん?」


 姉の口から不意に出た思わぬ名前に、スウォルは目を点にする。


「そう。レピさんもカロニアちゃんのことを、冷たい目で見てた。さっきのデギンズさんみたいに」

「…」

「それだけじゃない、ヤクノサニユに帰ってきても、みんなリエネさんを…!教えてください、デギンズさん。どうして初対面の人を、あんな冷徹な目で睨めるんですか」

「シェリル…?」


 睨んだことを気取られた時点で糾弾されることは覚悟していたデギンズだったが、想定と異なる様子のシェリルに、やはり動揺を隠せない。


「何者じゃ、そのカロニアってのは。それも仲間かの?」


 他方グラウムは、新たに飛び出た聞き覚えのない名前に意識を向けた。


「いや、そういう訳じゃねぇんだけど…。帰ってきてから会った女の子でさ」

「ふむ?あの若造がのぉ…。そいつらも初対面なんじゃろ?話の流れで言うと」


 スウォルの説明を受け、グラウムは意外そうに首を捻ると、シェリルも驚きに同調する。


「はい。レピさんがあんな目で誰かを見るの、初めてで…」

「俺は気付かなかったな…。信じらんねぇよ、レピさんが」

「一瞬だったし、スウォルは“カロニアちゃんがティサン人”って話の方に食い付いてたから」

「…なるほどの、そういうことか」


 双子の会話に答えを見出だし、グラウムは一人、深く頷いた。

 シェリルは問う。


「え?どういうことですか?何か分かるんですか、師匠?」

「あの若造、マキューロ人なんじゃろ?なんのことはない、シェリルの言う通り、デギンズがリエネ──ハリソノイア人を睨むのと全く同じということじゃ」

「…ティサン人だから、ってことか?」


 次いでスウォルが尋ねると、グラウムはもう一度頷き、続ける。


「古くからマキューロとティサンの対立は根深いからのぉ…。今でこそハリソノイアに対抗するため三国で組んでおるが、ヤクノサニユが間に入らねば、国防の為と言えど組むことはなかったろうの」

「…」

「まして魔物が現れてからハリソノイアからの攻撃は鳴りを潜めた上、そのハリソノイアとの同盟まで為ろうとしとるんじゃろ?形骸化しておる同盟を破棄して、いつ再び争い出しても驚きはせぬわ」


 惨い見通しを淡々と語るグラウムに、シェリルは食って掛かる。


「でも…それって国と国の間での話じゃないですか…。個人同士の関係にまで持ち込まなくても…」

「そう簡単には行かぬ。国同士が憎み合っておる以上、国民にもそういう教育を施すからの。幼き頃から植え付けられた先入観は、容易には捨てられぬ」

「そんな…」


 シェリルがか細い声と共に肩を落とすと、グラウムは一息つき、デギンズに向き直った。


「デギンズ。お前、ハリソノイア人の仲間がおることは聞いとったんじゃろ?腹の底で何を思おうが勝手じゃがせめて隠せ、阿呆」

「…返す言葉もございません」

「シェリルや、デギンズの気持ちに共感しろ、とまでは言わん。じゃが実際に命を賭して前線に立ち、これまで殺し合って来ておる。警戒するな、というのが酷な話だとは、理解してやってくれんかの」

「…」


 グラウムはまずデギンズに、次いでシェリルに視線を移しながら諭し、彼女の肩に優しく手を置いた。


「マキューロとティサンもそうじゃが、何時(いつ)からかも分からぬほど古くに始まった(いさか)いが、教育を経て根付き、憎むことが国にとって、国民にとっての常識になって久しい」

「常識…」

「うむ。そしてそれは無論、ヤクノサニユとハリソノイアとて同じこと。お前たちだって、ハリソノイアでは“あんな目”を向けられたじゃろう?」

「…はい」


 ユミーナの策がハマるより以前のハリソノイア人たちの目付きを思い出し、シェリルは弱々しく頷いた。

 一方、今度はスウォルが疑問の声をあげる。


「待ってくれよ師匠、俺たち別にハリソノイアを恨め、なんて教育されてねぇぞ」

「それはお前たちが“予言の子”だからじゃ」

「…どういうことだ?」


 思わぬ単語が理由として挙げられ、スウォルは戸惑いながら尋ねた。


「厳密に言えば、お前たちの“予言”を受けて以来、陛下は方針を改めた。魔物の攻撃が激しくなって人間同士の争いが減ったことを、陛下は和睦の好機と見たんじゃ。聞いておろう?」


 グラウムの問い掛けに、二人は剣と盾を手にした直後、旅立つ前の挨拶での一幕を思い返し、揃って頷く。


「その為の布石としてハリソノイアを敵視する教育を止め、既にそうした教育を受けてきた者に対しても、公共の場で反ハリソノイアを叫ぶことを禁じ、罰を定めた」

「…ってことは、俺たちが産まれるより前は──」

「そりゃあもうバリバリにしておったぞ、反ハリソノイア教育。のう、デギンズ?」

「…はい」


 その教育を、()()()()()()()()()()張本人は、重々しく肯首した。


「マジかよ…」

「シェリルの言う“あんな目”は、そうした教育の結実。いくら法で禁じ罰則で押さえつけたところで、縛れるのは言動だけじゃ。人の心を縛ることは出来ん」


 自らの言葉を噛み締めながら、グラウムは首を小さく横に振った。

 納得が行かないシェリルは食い下がる。


「…私たちが帰ってきて、村や町で“ハリソノイアが同盟に応じてくれそうだ”って伝えた時、みんな喜んでくれましたよ…?」

「そ、そうだ!あれも全部、罰が怖いから嘘ついてたってのか!?」


 スウォルもそれに乗っかると、グラウムは二人を見つめ、少し寂しげな目で微笑む。


「完全に嘘ではあるまいよ。同盟が為れば、少なくともハリソノイアに怯える必要はなくなるからの。それに対する安堵はあるじゃろうし、喜びもしよう。じゃが──」


 一度言葉を区切って息を吸い、続けた。


「それとは別に、心に宿した敵愾心(てきがいしん)もまた、確実に残っておるじゃろう」

「…」

「でなくば、リエネを睨む必要はなかろう?」

「そんな…」


 互いを見合い、悲しそうに俯くにシェリルとスウォルに対しグラウムは、今度は明るい笑顔を見せる。


「じゃが、それも変わるかも知れん」

「え?」

「反ハリソノイア教育を受けてきたのは陛下も同じ。それも国の長として、民衆よりも苛烈な思想で…。その陛下自身が和睦を見据え、周囲の反対を押し切ってまで“常識”を捨てたんじゃ。予言を──お前たちを信じてな。容易に下せる決断ではなかったろうに」

「そっか、陛下も…そうだよな…」


 スウォルがグラウムの言葉を反復し、噛みしめる一方、シェリルはグラウムに尋ねた。


「師匠は…?師匠も反対したんですか?」

「…そうじゃな。反対した」

「師匠もハリソノイアに、その…敵愾心を?」

「否定はせん。実際に戦ってきたのはワシだって同じじゃ」

「じゃあ、師匠も隠しているだけで、リエネさんを…?」


 シェリルが歯軋りをしながら重ねた質問に、グラウムは答え続ける。


「いや、そんなことはないぞ?」

「…違うんですか?」

「ワシが戦い、警戒しておるのはハリソノイアという“国”じゃ。まさしくさっきお前が言った通り、個人に対する感情はないわ」

「…」

「むしろ例のユミーナとかいう小娘との闘い、確かに血沸き、肉躍った。リエネもなかなか筋がいいしの。むしろ好感すらあるわ」

「そう、ですか…」


 表情はやや暗いものの、シェリルの声色は少し明るくなる。


「話してる間に、すっかり日も落ちたの。そろそろ火を灯すか。デギンズ、お前は飯の準備を頼む」

「承知しました」

「ハリソノイアのお客人の分もじゃぞ」

「無論、心得ております」


 デギンズが一度、頭を下げ退出していく姿を見送りながら、グラウムは壁のロウソクに一つ一つ、火を点けて回る。

 その間シェリルとスウォルは見つめあい、自らの旅に託された王の思いを、改めて心に刻み付けた。


「なんか意外だったな」


 すべてのロウソクに火を灯し、二人の前に戻ったグラウムに、スウォルは呟く。


「なにがじゃ?」

「さっきの言い方で、あんまり陛下を好きじゃねぇのかなってさ」

「あ、私も。でも今の話だと、そういう訳でもなさそうだし」


 シェリルがすかさず同調すると、グラウムは一度大きく笑い、答えた。


「そう聞こえたか?言うたろう、乳飲子(ちのみご)の頃からの付き合いじゃ。好きか嫌いか、なんて単純なものではないわ。いずれお前たちにも分かる日が来るはずじゃ」


 そう言うと、二人の頭をゴツゴツとした大きな手で、優しく撫でた。

お読みいただき、ありがとうございました。

温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。

次回は12月22日20時にXでの先行公開を、23日20時に本公開を行う予定です。

よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。


~次回予告~

デギンズと入れ替わりに、馬車を預かってもらうよう話をつけたリリニシアが、レピとリエネを引き連れて道場に戻ってくる。

一方、城に泊まる件は断られたと告げた。

デギンズがいないことに気付いたリエネに、グラウムは代わりに詫びる。


次回「勇者一行、二度目の旅立ち」

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