国防の長と国王
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
グラウムに旅での出来事を告げるシェリルとスウォル。
その中で、ボロザブガリや禁じられた魔法について、グラウムの見識を聞く。
リリニシアとレピ、リエネが“馬車を預けたまま”であることを理由に再び城へ向かおうとしたところ、報告を終えたデギンズが道場に現れた。
軽く言葉を交わし、三人は再び秘密の場所へ向かう。
リリニシアはそこで、グラウムと王の関係について、二人に問う。
まもなく日が沈みきろうという空を背に現れたデギンズに、グラウムは続けて尋ねる。
「今日はどうじゃった?」
「はい、いつもと変わらず…二人から聞いておられませんか?」
デギンズはシェリルとスウォルを指し示し、小さく首を傾げた。
「聞いておるが、“何もなかった”と報告するだけにしては、こやつらが来てから時間が掛かったと思ってのぉ」
「…今後の方針などについても、陛下と論じておりまして」
「ほぉ。そうじゃったか」
「お久しぶりですわね、デギンズさん!」
二人の間に、リリニシアがズイッと割り込むと、デギンズはその場で即座に跪く。
「これは殿下。ご無沙汰しております。シェリルやスウォルから聞いておりましたが、ご健勝とのこと、喜ばしく存じます」
「…なんか久々ですわ、こんなしっかり姫として扱われたの。ワタクシたち、これから一度お城へ向かうところですの。戻ってきたらお話しましょうね」
「“ワタクシたち”というと…そちらの。お二人のことも聞いております」
デギンズはチラリと、リリニシアの後ろに立つ二人に視線を送る──特にリエネをほんの一瞬睨み付けると、二人はそれを察しながらも動じず、小さく頭を下げた。
「リエネ・セキュトノクです」
「レピ・エルトナと申します。ご挨拶は後程、改めて。…さぁ。リリニシア様」
「えぇ、参りましょう。ではデギンズさん、失礼いたしますわ」
「はっ」
デギンズが道を空け再び頭を下げると、三人はその横を通り過ぎ、扉の外へと去って行った。
外から扉を閉めた三人は再び“秘密の場所”へ向かい、到着してすぐ、リリニシアが問う。
「グラウム様とお祖父様のことですわよね、要件って」
草木が風にそよぐ中、リリニシアの問いかけに、まずはリエネが口を開く。
「私には、ある程度の距離があるように感じましたが」
「ですわよね…。レピさんは?」
リエネの言葉に頷きながら、リリニシアは次いでレピに問う。
「僕も同意見です。表立ってではなくとも、腹の底では対立している、とまで言っていいと考えています」
「た…対立、ですの…」
想定よりも重い単語に、リリニシアは動揺を露にした。
「馬車の件だけで余り長い時間を掛けるのもおかしな話なので要点だけ。まずグラウム様は、“最終的に陛下に逆らえない”とおっしゃいました」
「あぁ、そうだったな」
「そして廃村のことも、シェリルさんたちのお父様の秘密に関しても…“自分からは話せない”と。つまり──」
レピが言葉を途切れさせると、リリニシアはその後を引き継ぎ、呟いた。
「話すな、と命じられている…」
「えぇ。この国においてグラウム様に命令を出せるような立場の方、陛下の他におられますか?」
「…強いて言えばワタクシくらいですが、それもあくまで“お祖父様が王だから”に過ぎませんわね」
リリニシアは僅かに考え込み、力なく首を横に振る。
「そのリリニシア様に対してまで話せないということは、陛下が指示を下していると見て間違いないかと」
「その通りだと思いますわ」
「これはつまり、これらの情報が漏れることが、陛下にとって不都合であることを意味します」
「…なるほどな」
リエネは腕を組み、続ける。
「にも関わらず、グラウム様は知らないフリなどせず、“話せない”と自らの立場を示唆した」
「はい。陛下が探られるのを嫌っていることが明白なのに、です。加えてスウォルくんが、“陛下が禁じられた魔法を知らなかった”と伝えた時の反応…」
レピは目を閉じ、その時のグラウムを──あからさまに驚き、念を押して確認するように呟く姿を思い返しながら続ける。
「考えすぎかも知れませんが、言外に“陛下が嘘をついている”と伝えてくれたのではないか…そう考えています。あるいは──いえ…」
レピは何かを言いかけながら、リリニシアにチラリと目線をやり、自ら踏みとどまった。
「な、なんですの?気になりますわよ、中途半端に切り上げられると」
レピは一瞬、リエネに目配せし、強引に話を切り上げる。
“余計なことは言うな”という合図だと、リエネは受け取った。
「今は止めておきましょう」
「は!?」
「さほど重要なことではありません。それよりも早く馬車の件を済ませて戻らなければ」
「私たちもあのデギンズとかいう男のように、“時間が掛かったな”とせっつかれてしまいますよ、グラウム様に」
「なんなんですの、二人して…。まぁいいですわ」
レピとリエネに手を組まれ、リリニシアは口惜しそうに頬を膨らませる。
「レピさん、ハリソノイアでお伝えしたこと、忘れていませんわよね?」
リエネの加入を打診した際を回想し、レピは力強く頷いた。
「もちろんです。“確証が持てなくても、それを含めて気になることは共有しろ”。承知していますよ」
「それを踏まえて尚、今は話してくださらないの?」
「今は馬車の件を手早く済ませなければなりませんので、また折を見てお話しします」
「なら構いません、信じますわよ。…ではお城に向かいましょう」
月光に照らされる草木を掻き分け、ため息と共に先頭を歩くリリニシアの後ろで、レピとリエネは互いに見合わせ、一度静かに頷いた。
不意の遭遇に備え、念のために道場を迂回して通り過ぎた末、三人は城に辿り着く。
馬車を預けたい旨、番兵にでも伝えればいいと考えていたリリニシアに対し、レピは“長期間になる為、王に直々に話を通すべき”と主張。
また、“シェリル・スウォルが同行するならともかく、他国人の自分たちだけが一緒では心証を損ねる恐れがある”と、門の先にはリリニシア一人で向かわせ、自分たちは門の外で待つことを提案した。
戸惑いながらリリニシアが了承し、門の奥へ消えていくのを見届け、適当な岩に腰掛けながら、先にリエネが口を開いた。
「ハリソノイアでそんな話をしてたのか?」
「えぇ、リエネさんの加入をユミーナ様にお願いした時に」
「あぁ、お前がえらくニヤついてた件か」
レピは苦笑いしながら頬を掻く。
「あの時、僕は“ユミーナ様は断らないだろう”と高みの見物を決め込んでいたんですが…“分かっていたなら、確証がなくても言え”と、皆さんから怒られまして」
「隠し事をされる立場としては当然の話だと思うが」
「その理屈だと昼に話した件について、リリニシア様も僕たちと一緒に、シェリルさんとスウォルくんに“隠し事”をしてることになるんですけどね」
「む、それは…まぁそうだな」
レピの返しに対し、リリニシアを擁護しようとしたリエネだったが、言葉が出てこず、飲み込んだ。
「場合によっては、嘘や隠し事も必要だと思いますよ。…ですが、今回はそもそも事情が違います。一応、声を落としてください」
レピは小声で話ながら、口許で人差し指を立てる。
「分かってる。お前が言い掛けたのは──“神槍が、謀反の手駒として私たちを利用するつもりかも知れない”…で合ってるか?」
「…おっしゃる通りです。推測と言えど、気軽に口に出来る話ではありません」
「ましてリリニシア様は、その標的であろう、王の孫だからな。いくら可能性の話と念押ししたところで、心穏やかではいられんだろう」
リエネは険しい表情で、俯きがちに呟いた後、顔をあげて問いかける。
「だが、伝えないというのもどうなんだ?いくら信用できないと結論付けたとは言え、リリニシア様にとってはそれでも肉親だぞ」
「もし仮に、彼が本当にそのつもりであったとして」
レピは慎重に周囲に気を配りながら、いざという時に言い逃れの余地を残すよう曖昧な言葉を選び、続ける。
「…僕たちを手駒に加えようとしているのなら、少なくとも現時点で力に訴えるつもりはないのではないか、と考えます」
「ふむ、戦力の問題ではないと。確かに彼の立場なら接近は容易く、能力的にも仕損じることはないだろうな」
何度か首を縦に振り納得した素振りを見せるリエネに、レピは少し言いづらそうに視線を落とした。
「…それが当然のハリソノイア人にはピンと来ないかも知れませんが、他の国では“倒せば交代”なんて単純な話じゃないですよ?」
「む、そうなのか」
「特にヤクノサニユは、およそ千年前から今に至るまで世襲で続いてきていますからね。つまり──」
レピは更に周囲への注意を深めながらリエネに顔をよせ、続ける。
「彼の狙いは命ではなく“椅子”。戦力としてではなく、旅を終えた…つまり魔王を討った後の、“英雄”を懐に抱き込みたいのかも知れません」
「あくまで“失脚させたい”ということか」
「…その可能性がある、というだけの話です。だとすれば、少なくとも近々に荒事になることはないはずです」
「急いでリリニシア様にお伝えせずとも、と?」
「様子を見てもいいでしょう。これも推測、あくまで"可能性の話"ですし。──陛下も怪しいが、彼の言うことを全面的に信用するのも危険。今はそれでいいかと」
レピとリエネはそう結論付け、月を背負ってそびえるヤクノサニユ城を頂点を見上げた。
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「あーゆーの止めてくれっつったじゃねぇか、デギンズさん」
三人が道場を発ち、扉を閉めてまもなく──スウォルがデギンズに詰めよった。
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次回は12月15日20時にXでの先行公開を、16日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
仲間のリエネを睨み付けたデギンズに対しスウォルが詰め寄ると、シェリルもそれに乗っかり、しかしやや違う角度から“初対面なのにあんな目で見た”理由を尋ねる。
他の面々が困惑する中シェリルはおもむろに、“カロニアを見るレピも同じ目をしていた”と独白する。
次回「教育と常識」




