立場と情報
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
“他言無用”として、デギンズからグラウムの不調を聞かされたシェリルとスウォル。
複雑な思いを抱えたまま道場への道を歩む一方、当のグラウムはリエネとの手合わせに挑み、勝利を収めていた。
レピは続けて、グラウムにゼオラジムとの間柄について尋ねる。
“陛下とは懇意なのでしょうか”。
「…そうじゃのぉ」
“ゼオラジム王と懇意なのか”とレピに尋ねられ、グラウムは意味深げに唸った。
「陛下が乳飲子の頃から知っておるから、古い仲なのは間違いないのぉ」
「そうでしたか。今も親しくなさってるんですか?」
「どうかの。互いの立場もあり、それなりにお会いもするし話もするが…よく思われてはおらんじゃろうの」
「え、そんなことありませんでしょう?そんな話、お祖父様から聞いたことありませんわよ?」
グラウムの言葉に、リリニシアは首を捻る。
「そりゃあ一応、ワシは国防軍の長ですからの。表立っては言わんでしょうが…互いの立場が故、意見が対立することも少なくはございませんでしたのぉ」
「それはそうかもしれませんけれど…グラウム様だって国を思ってこそ、対立してでも意見なさってたのでしょう?」
「無論。ですが…陛下からすれば、黙って従わぬワシは邪魔で仕方がないでしょうな」
「そんな…」
「とはいえワシも、最終的には陛下のご命令に逆らえませんがの」
祖父との確執を聞かされ、リリニシアはしょんぼりと身を縮める横で、レピは質問を重ねる。
「ハリソノイアとの国境にある村が滅んでしまった時のことについて伺いたいのですが…覚えておられますか?」
「あの時か、覚えておるよ…」
「グラウム様は当時から国防軍の団長を?」
「うむ。魔物が現れたとの報せを受け、ワシも部下と共に村に向かったが…着いた頃には、すべて終わっておった」
言葉を途切れさせながら、グラウムは噛みしめるように答えた。
「生存者は?」
「分からぬ。なにせ国境の向こう側じゃからの。危険がなかった以上、勝手に国境を侵して調査することなど出来なんだ」
「そうですか…」
「あぁ。あの村について、ワシから話せるのはこれだけじゃ」
「…!」
グラウムが意味深に目配せすると、レピはわずかに目を見開いた。
「質問は以上かの?」
「…いえ、もう少々。シェリルさんとスウォルくんのお父様の件については、なにかご存知ですか?」
「クーヤイ…。いや、陛下から聞かされた以上のことは知らぬ。ワシの部下が小屋の様子を見に行っとるんじゃが、特にめぼしい成果もないと聞いておる」
静かに聞いていたリエネが、おもむろに口を開いた。
「では、やはり二人のお父上はハリソノイアに…?」
「かも知れんの。無事でおればよいのじゃが」
「大切なお子様の為なら、あれだけ恐れていたハリソノイアにでも行けてしまうんですのね…」
感銘を受けたリリニシアが何度も頷き、呟くと、質問に答えていた立場のグラウムが、逆に質問を返した。
「恐れていた?クーヤイがですか?」
「えぇ、クーヤイ様はハリソノイアとの戦いに参加なさっていたのでしょう?その時の心の傷から、お伝えした時大きく震えて──」
「しておらんはずですが」
「…え?」
グラウムの言葉を理解できず、リリニシアはすっとんきょうな声で聞き返した。
「クーヤイは前線に出たことはなかったはずですぞ」
「え、いや、だってご本人が参加したと…。兵士としてお祖父様に仕えて…」
「陛下に仕えていたことは事実ですが、側近として常にお側におりました。…クーヤイがそう言ったのですか?」
「え、えぇ…。どういうことですの…?」
当時の状況を知らないレピとリエネは口を開くに開けず、静かに話の流れを見守る。
「姫様、クーヤイのヤツめはシェリルとスウォルに何か…秘密を打ち明けましたか」
「秘密?いえ、特にそういった話はしていなかったかと思いますが…」
「どんな話を?」
グラウムの問いに答えるべく、リリニシアは数ヶ月前の記憶を掘り起こす。
「えと…ハリソノイアに行くってお伝えしたらクーヤイ様が震えてしまって…。“戦いに行く訳じゃないから安心して”というようなことを言いましたわ」
「ふむ…震えて…」
話が行き詰まったと見て、レピがおずおずと切り出した。
「グラウム様は、その“秘密”についてご存知なのですか?」
「…ワシからは話せぬ」
「そうですか。…ありがとうございます」
レピは礼を口にしながら、力強く一度、頷いた。
次いでリエネが顎に手を当て、確認するように呟く。
「では…お父上が二人やリリニシア様に嘘をついた…ということになるのか?」
「広く捉えれば、陛下の側近として後方から参加した、と言えなくもありませんが…リリニシア様やお二人から聞いていた怯えようを考えると、疑問が残りますね」
レピも腕を組み、これまで情報を整理すべく考え込む。
クーヤイが嘘をついた可能性を受け入れられないリリニシアは食い下がった。
「ぐ、グラウム様の記憶違いってセンはありませんの?お歳ですし!」
「失礼じゃの本人の前で…。生憎ですが、これは断言できますぞ。クーヤイに戦場で戦った経験はありませぬ」
「そ、そうですの…」
しかし一歩も譲らぬグラウムの反論を受け、がっくりと肩を落とした。
「グラウム様から見て、陛下は──」
レピが続けて質問しようとした瞬間、外から道場の扉が開かれ、夕日と共に現れた二人の影が声を揃える。
「師匠!」
「シェリルにスウォルか。…元気そうじゃの」
「はい、二人とも元気です」
「そういう師匠も…げ、元気そうじゃねぇか!」
「あ、あぁ、元気じゃが…?」
スウォルの態度に若干の違和感を覚え、グラウムは困惑しながら頷いた。
「そ、そっか。よかったよ元気で!なぁ姉ちゃん!」
「う、うん…!本当に…」
「なんじゃ急に、気持ち悪いのぅ…。それよりお主ら、クーヤイの小屋に行っておったんじゃろ?デギンズとは会わなんだか?」
スウォルに話を振られたシェリルの態度も不審に思いながら、続けて尋ねる。
「はい、会いました。陛下の所に報告に行くからってお城へ」
「ふむ、そうじゃったか。なにか分かったか?」
「いえ、なにも…」
シェリルがグラウムの問いに答える一方、スウォルはしばし離れていた仲間に目をやり、無理に元気な声を作った。
「…ん?リエネさん、頬っぺたに何くっ付けてんだ?」
「これか?止血の為の氷だ」
「止血?…師匠に?」
「あぁ、手も足も出なかった」
「そっか、リエネさんでも無理だったか。見たかったなぁ…。──あれ?リリニシア、なんか落ち込んでる?」
そのまま視線を動かし、沈んだ表情のリリニシアが目に映る。
「あ、いえ、これは…」
事前にシェリルとスウォルには話さないよう打ち合わせていた王への不信のみならず、クーヤイが嘘をついていたことについても明かすべき迷ったリリニシアがレピに視線を投げると、レピは横から助け舟を出した。
「リエネさんの頬の氷は僕が魔術で作ったのですが、リリニシア様は“自分ではまだこんな繊細な制御は出来ない”と落ち込んでしまわれたんですよ」
レピが咄嗟に、これまでのリリニシアの言動に準えた弁明を繰り出すと、リリニシアは即座に乗った。
「そ、そうなんです!もう悔しくて悔しくて…!」
「なんだよ、またレピさんに対抗してんのか?まだ無理だろ~」
「やかましいですわよ!」
「…グラウム様、先程の話は──」
「あぁ、分かっておる」
スウォルとリリニシアがじゃれる隙にリエネが耳打ちされ、意図を察したグラウムは、リエネが言い切るより前に頷く。
「師匠?」
「シェリル。…顔付きが変わったの。旅の中で、自らの“心の問題”と向き合うたか」
「…はい」
「じゃが、まだ割り切れてはおらんと見える」
「…」
二度経験し、多少慣れたとはいえ未だ拭いきれない殺害への抵抗を見抜かれ、シェリルは視線を伏せた。
「私は、やっぱり──」
「その気持ち、忘れるでないぞ」
「…え?」
予想と異なるグラウムの言葉に、シェリルは思わず気の抜けた声を漏らす。
「その心の問題を克服する、というのは何も、相手が魔物であろうと“殺しを楽しめ”とかそういう話ではない。命を奪う重みを受け止める強さを備えよ、と言うておるのじゃ」
「強さ…」
「そうじゃ。殺しを楽しむようなヤツになどなって欲しくはないのぉ…ヤクノサニユ人として、な」
「…はい!」
師の激励を受け、シェリルは拳を握りながら、しっかりと頷いた。
他方、言葉にトゲを感じたリエネは、眉根を寄せる。
「…今のはハリソノイア人への皮肉でしょうか?何もすべてのハリソノイア人が──」
「分かっておる、そういう意味ではない。例のユミーナって小娘も、殺しを好んではおらんかったようだしのぉ」
「え、師匠ユミーナ様知ってんの!?」
グラウムの口から飛び出た思わぬ名前に、スウォルは大きな声で聞き返した。
「うむ。かつて戦でやり合ったことがあるらしくての。…どれ、旅の途中の詳しい話でも聞かせてもらおうかの?」
「え?みんなから聞いてないんですか?」
首を捻るシェリルに、グラウムは笑いながら答える。
「もったいつけられてのぉ、“お主らが来るまで”、って。もう日が暮れる。発つのは明日でもよかろう?ゆっくり話を聞かせてくれ」
シェリルとスウォルは仲間たちに視線をやり、無言の承諾を得ると、揃えて首を縦に振った。
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次回は12月1日20時にXでの先行公開を、2日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
グラウムの言葉に従い、ヤクノサニユで一泊することに決めた一行。
久しく師と再会したシェリルとスウォルは、これまでの旅での出来事を語って聞かせる。
旅の最中で湧き出た疑問もぶつけ、老兵の見解を問うのだった。
次回「双子の勇者、師匠と再会」




