リエネと勇者のお師匠様
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
以下、前回の内容を覚えていらっしゃれば、本編までお読み飛ばしください。
~前回のあらすじ~
シェリルとスウォルが“父を捜索する”という王の言葉を信じるしかないと小屋へと走る一方、“王は信用ならない”との見解を共有したリリニシア、レピ、リエネ。
三人はひとまず“今は答えが分からない”と結論付け、双子の師である“神槍”グラウムの元へと向かう。
「こちらです。…失礼いたしますわ~!」
リリニシアは大きな声で呼び掛けながら、返事を待たず、古びた扉を開けた。
「む、リリニシア様?お戻りになられたのですな」
扉に違わず年季を感じさせる道場の中からしわがれた老人の声が、床板の軋む音と共に出迎える。
「ご無沙汰しておりますわ、グラウム様!」
「えぇ、よくぞご無事でお戻りになりました。シェリルとスウォルは…しばらく見ぬ間に、ずいぶんと雰囲気が変わりましたな?」
リリニシアが威勢よく中に飛び込むと、後ろに続くリエネとレピを見て、グラウムは笑った。
「ご冗談を…紹介いたしますわ。マキューロからいらしたレピさんと、ハリソノイアのリエネさんです。お二人とも、ワタクシたちと共に旅をしてくださっておりますの」
「レピ・エルトナと申します」
「リエネ・セキュトノクです。お見知りおきを」
リリニシアの紹介を受け、二人は順に名乗り、頭を下げる。
「ふむ、マキューロに…ハリソノイアから。また珍しい客じゃのう。長生きはしてみるモンじゃ」
グラウムは二人の客、特にリエネを、見定めるように眺めた。
一方、リエネもまた、見下ろす背丈のグラウムを、頭から爪先までくまなく観察する。
「神槍グラウムの武名、ハリソノイアにも轟いております。お会いできて光栄です」
「自分で名乗ったことないけどの、ソレ。…時にリリニシア様、シェリルとスウォルは?」
リエネの世辞を笑い飛ばし、グラウムはリリニシアに問う。
「そのお顔、二人とも旅で死んだ…などと言う訳ではありますまい?」
「もちろんですわ!二人は…その、クーヤイ様の小屋に行っておりますの」
「クーヤイの…なるほど、そうでしたか」
グラウムは察して、静かに頷いた。
「後からこちらに合流する予定ですわ」
「では、諸々問うのはその後にいたしますか。あやつらと会うのも楽しみじゃのう。少しは成長しておればよいが。…しかしあの二人がおらぬなら、なぜお三方だけがコチラに?」
グラウムは首を捻り、リリニシアを見つめる。
「“ワタクシたちだけ先に来た理由”なら、姉弟だけで話したいこともあるだろう、と考えたからですの。そもそも“来た理由”ということなら、ご挨拶と──」
リリニシアはさっと身を横に引き、変わりにリエネが一歩前に出た。
「グラウム様にお目にかかりたく、私がどうしてもと」
「ほう、ワシに?楽しくお話、という目付きでもなさそうじゃのぅ」
グラウムは呟き、楽しげに目を目を細める。
「ユミーナ・クオシャーという名、聞き覚えはございませんか」
「ユミーナ…?はて、ないのぅ。ハリソノイア人か?」
「はい。かつて敵として貴方と対峙したことがあると、本人から聞いております」
「えっ、そうでしたの!?ワタクシ初耳ですわよ!?」
リエネの唐突な告白にリリニシアは目を丸くし、レピも声には出さずとも、驚きの表情を隠せずにいる。
二人の反応を想定していたリエネは、淡々と答えた。
「敢えてお話しすることでもないかと」
「戦じゃからのぅ。戦ったハリソノイア人など、何人おるかも分からぬわ」
グラウムも同じく、些かの動揺も見せず、ただ答える。
「リエネ殿と申したか。そのユミーナ、というのの敵討ちが目的か?ハリソノイア人にしては珍しいのぅ」
「いえ、ユミーナ様は存命です。現在、ハリソノイアの大王として国を治めております」
「なんじゃ、違うのか。…本人から聞いとるんだから、ワシが殺した訳ないか」
「…今から18年ほど前、ハリソノイアとの戦で、幼い少女と相まみえたことは?」
「…!」
リエネの追及に、グラウムは目の色を変えた。
「おったわ、やたらと腕の立つ幼子が…!あれがその、ユミーナとやらか!」
「はい。18年経った今でも尚、貴方との一戦ほど楽しかった戦いはないと、ことあるごとに口にしております」
「そうか、あの幼子が…今ではハリソノイアを治めておるのか…。時の流れってものは恐ろしいモノじゃのう」
グラウムは噛み締めるように、何度も頷いた後、鋭くリエネを睨み付ける。
「して?それを伝える為にどうしても…という訳ではあるまいの?」
「…どうか私と、お手合わせいただきたく」
リエネが口にした途端、空気が張りつめた。
「手合わせ、のぅ。ワシのような老体を相手にか?」
「出立直前のスウォルが敵わず、譲ってもらってやっと引き分け、と聞いております。老いて尚…でしょう?」
「何故ワシと手合わせを?」
「シェリルとスウォルの師のお手前が気になる、というのが一つ。もう一つは…単に貴方が強者であるが故」
睨み合う二人を中心に静寂が場を支配し、落ち着かない様子でリリニシアの視線が二人の間を往復する隣で、レピは緊張感に固唾を飲む。
ニヤリと笑みを浮かべ、口を開いたのはグラウムだった。
「カッカ…お手柔らかに頼みたいのぅ」
「まさか。全霊を持って挑ませていただきます」
「得物は背負っておる斧かの」
「ある程度なら剣も扱えますが…グラウム様には是非、この斧で挑ませていただきたい。これが私の“全霊”です」
「ちょ、ちょっとお待ちになって!?」
リエネが斧に手を伸ばすと、慌ててリリニシアが割って入った。
「それ使うんですの!?なんかこう…木製のヤツとかじゃなくて!?」
「えぇ、これが一番手に馴染みますし」
「普通に死にますわよね!?」
「僕も、流石にそれは不味いのではないかと…」
リリニシアが勢いよく捲し立て、対照的にレピは穏やかながら、同じく待ったをかける。
当のグラウムは、止める二人を手で制した。
「ご心配なされまするな、姫様。うっかり殺めてしまうような力量ではございませぬて。のぅ?リエネ殿」
グラウムは問いながら、顎でクイと、道場の中央に移動するよう促す。
「そのように自負しております」
リエネは頷き、斧を抜きながら足を踏み出す。
「ちょ、ちょっと!本当にソレでやるんですの…!?」
「…止めても無駄なようですよ、リリニシア様」
あわあわと困惑するリリニシアを、レピは首を横に振りながら諌めた。
「あれ?レピさんもう諦めてる感じですの?」
「諦めてると言うか、シェリルさん、スウォルくんより腕の立つリエネさんと、その二人の師であるグラウム様ですので…。仰る通り、相手に怪我を負わさせぬお力はお持ちかと。…リリニシア様もこちらに」
魔術増幅の実験の際、真剣で手合わせし、実際に傷を負わせず刃を止めたシェリルとスウォルを見ていたレピは、それを上回る二人の腕を信用することにし、邪魔にならないよう、端に移動する。
「そうは言っても!ワタクシたちの魔術だって、死んでしまえば回復させられませんのよ!?」
「落ち着いてください。二国の同盟が成ろうとしている今、相手を殺してしまうのはお互いにとって不利益になります」
「いやそれまだ──」
「同盟?ハリソノイアと?」
リリニシアが渋々、といった様子でレピと共に引き下がる中、本身の槍を握ってリエネと対峙するグラウムは、驚きの声をあげた。
「…まだ伝えてないのに不利益も何もありませんわよ」
「ははは…そう言えば…」
「レピさん、たまーに抜けてますわよね…。ユミーナ様のご了承を頂いて来ましたの。後はお祖父様との間でのお話になりますが」
レピが面目なさそうに背を丸める横で、身をやれやれ、とばかりに肩をすくめ、リリニシアはグラウムに語って聞かせた。
「あのハリソノイアが…?いったい何が──いや、それは後で聞くことにするかの」
目を丸くしていたグラウムだったが、自分に言い聞かせるように呟き、ゆっくりと瞼を閉じる。
わずかな間の後に目を開くと、斧を握り締めるリエネを睨み付けた。
「始めるかの。いつでもよいぞ」
穂先を天に向け石突を床につき、無造作に片手で槍を握ってまっすぐと立つグラウムに対し、リエネは力を抜いて腰を落とす。
「…では、参ります!」
────────
「…やっぱりおかしいと思わない?だって私たちがハリソノイアに行くって伝えた時、あんなに震えてたのに」
リエネがグラウムと睨み合うのと同じ頃、シェリルは息を切らせながら呟いた。
スウォルも同じく小さな声で、自らに問いかけるように答える。
「だからわかんねぇって…!変だけど、そうじゃなきゃいなくなった理由なんて──見えてきた。扉は…開いてる?」
二人が辿り着くのと同時に、一人の男が小屋の中から姿を現した。
「姉ちゃん、あれ…」
「デギンズさん!?なんで父さんの小屋に…」
“デギンズ”と呼ばれた男も、二人を見て目を丸くする。
「シェリル!?スウォルも…!戻ってきてたのか!」
お読みいただき、ありがとうございました。
温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。
次回は11月10○日20時にXでの先行公開を、11日20時に本公開を行う予定です。
よろしければフォローいただけますと大変嬉しいです。
~次回予告~
ついにグラウムと対峙したリエネは、リリニシアとレピが見守る中、斧を振るい、グラウムに襲い掛かる。
一方シェリルとスウォルは、クーヤイの小屋の様子を確認しながら、デギンズと言葉を交わす。
次回「“神槍”グラウム・イブキミチ」




