勇者一行の帰国
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
シェリル・スウォルの師の名を言い当てリエネが驚愕する一方、レピは興味なさげに話を戻し、一行から四足の魔物の特異性を募り、纏めた。
その中でリリニシアが、かの魔物に名前を与えることを提案し、以降はスウォルの案“ボロガブザリ”と呼ぶことに。
その後、村の滅亡の手掛かりを求めて調査を再開するもめぼしい成果は得られない。
改めて集合した一行に、レピは僅かながら、日記の解読が進んだと告げる。
「本当ですか!?」
ボロボロに朽ちてしまった16年前の日記の解読が進んだと告げるレピの言葉に、発見者であるシェリルが食い付いた。
「先に言っておきますが、分かったのは本当に些細なことです。村が滅びてしまったことに繋がるような情報は見付かりませんでした」
「気になるっすよそれでも」
声を挙げたスウォルをはじめ、他の三人も興味深そうに見つめる中、レピは無為に期待を煽らぬよう前置きし、日記を開きながら続ける。
「この日記の主である女性は、おそらく村が魔物に襲われたと思われる日の少し前に出産なさっているようです。仮に毎日書き続けていたとしたら、二週間ほど前になります」
レピが指し示した文字は、掠れてしまってはいるが、確かに辛うじてそう読み取れた。
「じゃあ、その赤ちゃんはたった二週間で…?」
「…そう考えるのが現実的でしょう」
声を震わせるシェリルに、レピは躊躇いがちに同意した。
「…惨たらしい話ですわね」
不快さを隠さず、リリニシアは呟く。
「…」
一方、口を開かず視線を伏せて考え込んでいる様子のリエネを訝しみ、続けて問う。
「リエネさん?どうなさいましたの?」
「…はい。仮にレピの言う通り、防衛線を抜けて魔物が突然現れたとして、何故この村を襲ったのだろうか、と。敵国との国境という意味で、我々にとっては国防上、重要な地ではありますが、魔物が狙うような場所かと思いまして」
「そこは僕も疑問です。魔物にとって特別な何かが、当時はあったのでしょうか…」
レピも頷き、同じく考え込む。
「少なくともワタクシは、特別っぽい物は見付けられませんでしたわ」
「俺も」
「私も、その日記以外はなにも」
「仮に今もそれが残っていたとして、僕たちから見ればなんら変哲のない、普通の物だったりするかも知れません。見付からなくても無理はないですよ」
成果があがらなかったことを口惜しそうに報告する三人を慰めるレピに、彼の言葉を聞いて切り替えた様子のリエネが尋ねた。
「それで、分かったのは出産したことだけか?」
「そうですね、後は…旦那さんと思しき方のお名前が断片的に、くらいでしょうか」
「断片的?」
「途中で紙が崩れていたり、文字が掠れていたりで…“ディ”から始まり、“ピ”を含むお名前のようです」
「…断片的だな」
「そう言ったじゃないですか」
レピの返答を受け、リエネはため息と共に言葉を絞り出した。
「もっとも、名前が分かったところでな…」
「ですから最初に言ったんですよ、些細なことだって。…今出来る調査はあらかた終えたと思いますので、そろそろ終えましょう」
リエネとの話を打ち切ると、レピは全員に向き直る。
「初めて会った時と同じくここで夜を明かし、明るくなったら念のためもう一度、簡単に調査する。何も見付からなければ出発…という流れで構いませんか?」
「異議なしですわ」
リリニシアに続き、三人も賛同しながら頷く。
「では皆さん、お休みになってください」
「お前は寝ないのか?」
自身を除くような口振りに、リエネが疑問を呈する。
「僕は少し考えを纏めたいので、警戒も兼ねて起きておきます」
「なんかレピさんが起きてること多くないですか?偏っちゃってる気が…」
次いでシェリルがこれまでの旅路を振り返り、申し訳なさそうに口を開いた。
「僕が好きでやっていることですし、明日の移動中に荷車で眠らせてもらいますよ。気にしないでください」
明るく笑うレピに、スウォルはキョロキョロと、寝床となる廃屋を探しながら言う。
「やっぱあの家かな~…。しんどかったら起こしてくださいね、見張り代わるんで」
「はい、心得ました」
「ではお言葉に甘えて、ワタクシたちは休ませていただきますわね」
「えぇ、お休みなさい」
レピを除く四人は、やはり初めて会った晩に夜を明かした、比較的損傷の少ない家屋を目指し、レピに背を向け歩いて行った。
四人の背を見送ったレピは一人、焚き火の灯りとぬくもりに包まれながら、日記をペラペラと捲り続けた。
翌朝、例によってスウォルが最後に目を覚ますと、決めておいた通りに明るい状態で村を捜索。
やはり新たな手掛かりが見付かることはなく、一行は廃村を出て、ヤクノサニユ領へと足を踏み入れた。
「帰って来たんだなぁ、俺ら…」
「長かったような短かったような」
レピが眠る馬車と共に歩みを進めながらシェリルとスウォルは目を細め、しみじみと呟いた。
「まぁここから結構歩きますけどね…!」
心底嫌そうに吐き捨てるリリニシアに、リエネはあえて尋ねる。
「どの程度掛かる見込みなのですか?」
「ワタクシたちが来た時は五日くらいでしたわ」
「ふむ、国境から中央まで五日ですか…」
「今“ヤクノサニユって狭いな”とか思いませんでした?」
想定より鈍いリエネの反応に、リリニシアは目を細めた。
「…いえ」
「言っておきますけれどね!ハリソノイアがだだっ広いだけですわよ!!」
「しょ、承知しております」
「リリニシア、ちょっと声抑えて…レピさん起きちゃう」
「それもそうですわねッ!」
シェリルに諌められたリリニシアは、彼女の主張を認め、しかし鼻息は荒い。
リエネは苦笑いでやり過ごした。
その後、レピと出会う前の三人が辿った足跡をそっくり辿った一行。
途中で通った、最も国境に近い集落にはハリソノイアの態度が軟化し協力関係を結んだことは伝わっていなかったが、一行によりそれが伝わると、やはり大いに歓迎された。
一方、ハリソノイア人であるリエネに向けられる視線は厳しく、一行は改めて、敵国との和睦の難しさを痛感した。
以降はリエネがハリソノイア人であることを伏せる案もあったものの、既に一つの集落で招待を明かしている以上、遠からず伝わってしまうであろうことと、“ハリソノイア人の仲間”という存在自体が和睦の象徴となることを期待し、却下された。
レピと出会う前の三人が通った道のりをそっくり引き返し、同じく廃村を出てから五日後、一行はヤクノサニユの城下町へと帰還した。
「流石ヤクノサニユ、賑わっているな」
四方八方、常にどこかで誰かが喋り、誰かが走っている。
リエネは辺りを見回し、その喧騒に面食らっているようだ。
「えぇ、想像以上でしたね。──あれがヤクノサニユ城ですか…」
賑わい様に加え、高くそびえる城の姿に、レピも目を丸くし驚いている。
「ハリソノイアもスゴかったですけれど、こっちも捨てたモノではないでしょう!?」
その様子に、リリニシアは嬉しそうに顔を綻ばせる。
そんな喧騒の中でも、馬車を引き連れる一行は目立ち、当然ながら注目の的となってしまった。
「失礼、リリニシアが通りますわよ!道をお空けくださいな!!」
リリニシアは声高に名乗ると、ごった返す民衆を口々にその名を呼びながら道を空ける。
そこ姿を見ながら、スウォルはシェリルに耳打ちした。
「流石お姫様、こういう時助かるよな。…っつーか、流石にここで呼び捨てにすんのマズいよな?」
「うん。事情を話せば分かってもらえそうだけど、騒ぎにしたくないしね」
「なーにをコソコソ話してますのお二人とも!お城行きますわよ~!」
他国人二人の反応に上機嫌なリリニシアが号令を掛け、一行がいざ動き出そう、としたその時。
「どいてどいて~!!!」
高く、かわいらしい声が響く。
声の主は群がる民衆を掻き分け、走り、そして──。
「きゃっ」
「おっ…と」
レピの背中にぶつかり、跳ね返され尻餅を付いた。
「いったた…ちょっとアンタ!どこに目ぇ付けて歩いて──」
「歩いてなかったんですが…」
突如降って沸いた難癖に困惑しつつも、レピは助け起こそうと振り返る。
「大丈夫で──…!」
その先には、幼い少女がいた。
手を伸ばす途中、レピは微笑みは失せ目を見開き、一瞬動きを止めた。
「…大丈夫でしたか?」
一度目を瞑り、次に開いた時には普段通りの微笑みを浮かべ、少女が手を伸ばせば届く位置にまで手を差しのべる。
しかし少女はレピの顔を見つめ動かない。
「かっ…こいい…」
「え?」
「あっ、あの!」
かと思えば、目の前に差し伸べられた手を両手でしっかりと握った。
戸惑いながらも力を込め、レピが少女を立ち上がらせた途端、少女はズイッと身を乗り出した。
「あ、あたし“カロニア・ケミナック”って言います!貴方は!?」
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次回は9月29日20時にXでの先行公開を、23日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
カロニアと名乗る少女はしばらくレピの手を握ったまま離さなかったが、人混みの外から男の声が聞こえた途端、手を離し姿を消した。
男たちは人混みを掻き分け、一行に“女の子を探している”と語りかける。
カロニアが逃げ出したことも合わせ、リリニシアは──。
次回「勇者一行と少女カロニア」




