勇者一行の命名会議
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
自らの体で剣の挙動を確認したレピは再び魔術増幅を発生させ、制御出来る現象ではないと、シェリルに残酷な“現時点での結論”を突き付けた。
レピの明かした条件とは簡単に言えば、“魔術を纏った状態の時、シェリル以外を弾く代わりに増幅する”というもの。
発生する度に強くなる為、適度な威力を保つことは出来ない、という結論だった。
しかしレピは、“条件は分かったが原因は不明”とし、これが分からない以上、不可能と断定することは出来ないとシェリルを慰める。
同時に刃では弾く現象が起こらず、斬ろうとすれば魔術増幅も発生しないことを明かし、剣に対し“性格が悪い”と表現したスウォルに感銘を受けた。
一方リエネは話の流れで、シェリルとスウォルに剣を教えた師が“神槍”グラウムであることを知り、驚愕する。
「えぇ、その通りですわ」
ヤクノサニユの国防の長──その情報からシェリルとスウォルの師の名を言い当て、驚愕するリエネに、リリニシアはさも当然のように頷いた。
「そうか、お前たちは神槍に教えを受けたのか…」
「は、はい」
「ホントに有名なんだな…」
リエネが目をやると、シェリルは反応の大きさに目を白黒させながら頷き、スウォルは少し誇らしげに呟いた。
「若いのに大した腕だとは思っていたが、そういうことなら頷ける」
「…話を戻しても?」
目を瞑り腕を組み、噛みしめる大きく頷くリエネに、レピは呆れ顔で尋ねた。
「む、すまん。二人とも、神槍の話は今度ゆっくり聞かせてくれ」
二人が口々に肯定し頷くのを確認し、レピは仕切り直した。
「では改めて──先の魔物たちの特異性ですが、他に何かありましたか?」
「あ、俺二つあります。特異性ってほどのモンじゃないかも知んねぇけど」
レピの問いかけに、スウォルは自信なさげに、小さく手を挙げた。
「構いませんよ。何が答えに繋がるか分かりませんからね」
「じゃあ、えっと…そもそも姉ちゃんじゃなくて俺が斬ったのに死んだのがおかしいよな、ってのが一つ」
魔力核を叩いた訳ではなく、仮に偶然、核に当たっていたとしても、シェリルの剣でなければ再生されるだけ──のはず。
レピは顎に手を当て、考える。
「考えられるとしたら、既に魔力が切れ掛かっていた、ということになるでしょうか?そうは見えませんでしたが…検討するのは後にしましょう。もう一つは?」
「気のせいかも知んないっすけど、再生が遅かった気がしました」
レピに促され、スウォルはやはり自信なく答えたが 、リエネも彼に賛同した。
「お前も気付いたか」
「あ、リエネさんも?」
「遅い?再生し始めるまで時間が掛かった、ということですか?」
「それもそうなんだけど、始まってからも、傷の大きさに対して治るのが遅ぇな、と思って」
「ふむ…」
今度はレピが腕を組み、考え込んだ。
「俺、これまで三匹…三種類か、魔物が再生するの見て来たんです。レピさんと会う前に一回、会った時とさっきの…あのちっこい魔物が一回と、ユミーナ様の依頼で。全部さっきのヤツらより速かったよなぁ、って」
スウォルが経験から来る見解を述べ、レピは頷きながら聞いている。
手持ち無沙汰になったリリニシアは、邪魔しないよう小声でシェリルに尋ねた。
「…気付きました?」
「ううん、分からなかった。というか、そんな余裕なかったかな…」
「ですわよねー」
そんな二人を横目に、リエネも挙手した。
「スウォルの見解に関連して、私も一つ。これまで防衛の為、何度も魔物と戦って来たが、死に瀕しても逃げようとしない魔物は見たことがない」
「なるほど、再生の為の魔力すらも尽き掛けているなら逃げるはずだ、と」
「あぁ。加えてリリニシア様の火は効いていたようだが、ヤツらには逃げようという姿勢すら見えなかった。その気になれば逃げられたのに、だ」
「…」
「確かにワタクシたちが最初に会った魔物も逃げて行きましたわ!」
レピが黙り込んで考える中、今度は大きな声で、リリニシアが話に参加した。
「あれはどっちかっつーと食うの諦めた、じゃねぇかな…」
「今回も諦めてくれればよかったんだけど」
実際にその様を見ていたスウォルは苦笑し、シェリルは前回との差を悔やんだ。
まもなくレピは腕組みを解き、全員に問いかける。
「ありがとうございます。他に何かありますか?」
「…」
全員が全員の顔を見た後、首を横に振る。
「では現時点で分かっている、あの魔物たちの特異性をまとめておきましょう。まずは魔物同士で戦っていたこと。人間が知らなかっただけかも知れませんが、少なくとも聞いたことがない出来事です」
一様に真剣な顔で、スウォルなど指を追って数えながら聞く。
「次にスウォルくんの盾と…魔術増幅が発生したことから逆説的に、魔術が掛かっていなければ、剣の側面にも触れないと思われます。僕たちが見てきた、触れる魔物たちと明確に異なる点です」
「とはいえ、それも三種のうちの一種に過ぎん。触れる二種がむしろ希少だった、という可能性もある」
リエネの補足に、レピは頷きながら続けた。
「そこは追って検証する必要がありますね。三つ目に再生が始まるのも、始まった再生自体の速度も遅かったこと。四つ目が死ぬ瞬間まで退こうとしなかったこと。スウォルくんの剣で容易く死んでしまったことが五つ目です」
「命の危機でなくとも、てこずれば食べるのを諦めて撤退するのはワタクシたちが実証済みですわ」
リエネに続き、今度はリリニシアが補足すると、シェリルも続いた。
「それに、あんまり小さい魔物を食べようとしてる感じでもなかったよね。どっちかって言うと遊んでるみたいな…」
「それも特異性の一つと言っていいかも知れません。そして最後が、死体が崩れてしまったこと。…以上が、現時点で判明している、先ほどの魔物たちの特異性です」
レピが話を纏め、各々が情報を反芻する中、リリニシアが声を挙げた。
「提案があるのですが」
「はい、どうしました?」
「名前付けておきませんこと?」
「名前、ですか」
全員の視線を集めながら、リリニシアは続けた。
「これだけおかしな点がある魔物ですから、きっとこれからも話題に上がることになると思いますの。新たに出会った魔物と比較したり…。名前がないと不便じゃありません?」
「確かに、今は特異性を持つ唯一の魔物で通りますが、今後また別の特異性を持つ魔物が現れることも考えられます。僕も賛成です」
レピは賛同を示し、まずスウォルに目線をやると、既にシェリルと顔を向き合わせていた。
「名前ってもなぁ…どうやって考えたらいいんだ?」
「やっぱり特徴を並べる、とか?」
「特徴ね…」
「要はヤツらのことだと分かればいいんだろ?」
反対する様子がないことを確認すると、そのまま話に混じったリエネに視線をズラす。
「数字でいいんじゃないか?特異種一号とか」
「それはちょっと、生き物相手の呼び方じゃないような…」
シェリルはリエネの案を、苦笑いしながらやんわりと退ける。
「ダメか?分かりやすいと思うが」
「俺、二号とか三号になったら、どれがどれだか分かんなくなる自信ありますよ」
「胸張らないでよそんなので」
「ふむ、ではダメか…」
スウォルにも別の角度から却下され、リエネは肩を落とした。
「良案が出なさそうであれば、ワタクシから」
リリニシアは、そんな三人の様子を一通り眺めた後、フフンと鼻を鳴らしながら切り出した。
「シェリルの言う通り、やはり分かりやすい特徴を示すべきかと思います。そこで──“キモクズレ”と呼ぶのは如何でしょう!」
反り返る勢いで胸を張るリリニシアに、しばし誰も口を開けずにいた中、シェリルが小さく声をあげた。
「えっ、なに…?」
「あの魔物たちの死体が崩れるの見たでしょう?キモかったでしょう?だから“キモクズレ”!これならスウォルが混乱することもありませんわ!」
「生き物に付ける名前じゃないってば!」
「じゃあシェリルは何が良いと思いますの?」
抗議を受け、リリニシアは不貞腐れるように唇を尖らせ、逆に問う。
「え、わ、私?私なら…えっと──“火ヲモ恐レヌ異端ナル四足ノ獣”とか?」
「だっさ」
「あと長い。そういうスウォルはどうですの?」
「俺も?そうだな~──」
二人がかりで一瞬に切って捨てられ、リエネに背を撫でられながら“一生懸命考えたのに”と膝を抱き、指で地にグリグリと不服を刻み付ける姉をチラリと見ながら、スウォルは考える。
「“ボロガブザリ”とか?」
「…なんで?」
「こう、ボロッと崩れる感じとか、ガブッて噛んできたり、爪でザリッと、みたいな」
「…悪くないじゃありませんの、スウォルの癖に」
「そうかなぁ!?」
「嬉しいけどちょっと言い草気になるな」
思い切り不服そうなシェリルを他所に、リリニシアは少し納得行かなさそうな、複雑な表情を浮かべながらもスウォルの案を認めた。
「レピさんは?」
「え?いえ、僕はなんでも…あ、分かりやすくて呼びやすければ」
「シェリルはダメと」
「レピさん!?」
「…」
「レピさぁん!!」
そんなやり取りの末に多数決を取った結果、スウォル案4対リリニシア案1で、かの魔物の呼び方が決まった。
「…さて、ボロガブザリについてはこの辺りで。皆さんがよろしければ、改めてこの村の調査に取りかかってください」
「レピさんはどうするんですかぁ…」
シェリルは項垂れながら、弱々しい声で尋ねた。
「僕はボロガブザリについてもう少し考えたいのと…これをもう少し解読してみます」
レピは懐に仕舞い込んだ本を、やはり丁寧に取り出して見せた。
見慣れない本に、リエネが首を傾げる。
「それは?」
「ここに住んでらした方の日記のようです。シェリルさんが見付けてくれました」
「へぇ~!どんなこと書いてあるんすか?」
スウォルも興味を持ち、ぐっと体を寄せ、覗き込む。
「実のところ、ほとんど読み取れません。分かったのは、この村が滅びたのはおそらく、スウォルくんたちが産まれたのと同じ日だろう、と言うことくらいです」
「え…」
レピは書かれている最後のページを開き、日付であろう数字を指で示しながら、シェリルに聞かせた推察を繰り返した。
「…」
「僕の考えが正しいとすれば、やはりリリニシア様が教わった歴史は正確ではなさそうです」
「の、様ですわね…。どういうことですの?本当に…」
リリニシアはヤクノサニユ城の方角を、チラリと睨み付けた。
「他にも何か見付かったら持ってきていただくか、運べないような物でしたら呼んでください」
レピの号令を受け、改めて各々手掛かりを探し始めるがめぼしい物は見付からず夜は更け、諦めて再び集合した一行にレピは告げた。
「少しだけですが、日記の解読が進みました」
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次回は9月22日20時にXでの先行公開を、23日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
レピは“些細な情報だ”と前置きし、日記から得られた情報を語る。
確かに村の滅亡に繋がる情報ではなかったが、その情報は一行に衝撃を与えた。
翌朝、一行は廃村を出てヤクノサニユに踏み入る。
立ち寄る集落でリエネに向けられた厳しい目に、和睦の難しさを痛感した一行。
やがて城下町に辿り着いた一行に、新たな出会いが訪れた。
次回「勇者一行の帰国」




