魔術増幅の条件
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
とうとう意図して再現された魔術増幅。
シェリルは炎の魔術を纏った剣を振る、追い払おうとするも魔物は引かない。
苛立ちが募る中、シェリルではなくスウォルの握る、普通の剣が放った一太刀が、一体を死に至らしめた。
困惑しながらもスウォルは、姉の精神に負担を掛けさせない為、自分が倒すと前に出る。
しかしシェリルは弟の配慮を理解しつつ、“全て任せては本当に足手纏いになる”と、とうとう自らの意思で残る二体を殺害した。
亡骸はその扱いについて審議する一行の横で、瞬く間に朽ち、崩れ去ってしまい、レピはやむなく土の魔術を使い土葬。
それが済むと、“自らの成果を発表したい”と、休憩を申し出るのだった。
レピの提案を受け、一行は焚火を中心に輪となり、レピを除きその場に座り込んだ。
「さて、本題の前に…シェリルさん、座ったままで結構です。剣を出して貰えますか?」
「え?あ、はい」
戦いを終え、一度鞘に戻した剣を、レピの要求に答え、抜く。
「では失礼して」
目の前に現れた刀身に、レピが手を伸ばした。
「レピさん!?」
「姉ちゃん以外は触れねぇって…!」
「大丈夫、分かっています。確かめたいことがあるんです」
慌てて制止する双子に、レピは笑顔で答え、そのまま剣の側面に──。
「っつぅ…!」
案の定、バチッと音を立て、弾き飛ばされた。
「け、結構痛いんですね…」
「言ったじゃないっすか…。んで何を確かめたかったんすか?」
呆れ顔のスウォルに、レピは痛みを逃がすように手を振りながら続けた。
「えぇ、どのくらいの距離まで近付けば弾かれるのかを。だいたい握り拳一つ分、といったところですね」
「そんなところだったと思いますが…その、関係あるんですか?」
「もちろんです。あ、まだ試したいことが二つあるので動かさないでくださいね」
シェリルの問いに笑顔で答えると、懲りずに再び、今度は刃に手を伸ばし──。
「え!?」
──今度は弾かれることなく、手のひらを刃に当てることに成功した。
「な、なんで!?」
「ではもう一つ。──纏わせる火の魔術」
「なにを!?」
一度消した火をわざわざ再び纏わせるレピに、全員が目を向く。
「おいレピ、何で火を──」
「さっき消す前に試しておけばよかったのですが、なにぶん今思い付いたもので」
全員を代表したリエネの問いに答えると、構わず燃える剣の側面に、改めて手を伸ばし──握り拳一つ分より近くまで接近させると、火はその威力を強めた。
「強くなった…」
「あちち…やっぱり間違いなさそうですね。もう収めていただいて結構です」
それを確認すると、すぐに引っ込めた手にフー、フーと息を吹き掛けながら、剣が纏う火を消化する。
「は、はい。あの、レピさん…?」
「おかげで確信が持てました。順番に説明しますが…結論から言いましょう。シェリルさん」
「は、はい」
レピも座り、シェリルを見据える。
「魔術増幅は僕にもシェリルさんにも、制御出来るものではなさそうです」
「え…」
「つまり、死なせてしまいたくない相手の場合、使わない方がいい。──これが僕の、現時点での結論です」
「そうですか…」
せっかく手に入れたかに思われた、殺すことなく戦う力。
シェリルにとっては希望だったが、レピは無情に打ち砕いた。
「“結論から”ということは、そこに至る過程もお話いただけるんですわよね?」
肩を落とし、口をつぐむシェリルに代わり、リリニシアが聞いた。
「もちろんです。まず発生の条件ですが、“魔術を纏った状態で、シェリルさん以外を弾き飛ばす条件を満たす”ことだと思われます」
「…どういうことだ?」
スウォルとリエネが声を合わせ、首を捻る。
「初めて増幅が発生した、関所での戦いを思い出してください。あの時シェリルさんは、雷を纏わせた剣を兵の皆さんに近付けていました。握り拳一つ分より近くに、です。触れていた方もいたでしょう」
レピは右手で手刀を作って剣に見立ると、兵として垂直に立てた左手に当てながら続けた。
「本来ならば、この時点で相手を弾き飛ばしていなければおかしい。しかし──」
「…起こりませんでしたわ」
「えぇ。相手の方々は皆さん、その場に崩れ落ちる倒れ方をしていました」
現場を見ていないリエネを除き、三人は当時を思い返す。
「そして先程。スウォルくんの盾は触れる前に魔物を弾いたので、剣でもおそらく同じだろう、と仮説を立てました。本当は魔術を纏わせる前に弾くか試したかったのですが、余裕がありませんでしたからね。主に僕に」
「全っ然なかったな」
慌てようを思い出しながら、噛み締めるようにリエネが頷く。
「…ともかく、関所での様子と合わせて、シェリルさん以外を弾く現象が鍵なのではないか、と睨みました。」
「ん~…?」
スウォルが腕を組み首を捻る様に、レピは端的な要約を付け加える。
「簡単に言えば、“魔術を纏っている場合、弾き飛ばす代わりに魔術が強化される”という認識でいいかと」
「おぉ、なるほど」
「その回数を重ねるだけ、魔術は強まっていきます。死なせてしまわない段階で留めておく、ということは難しそうです」
「…そっか」
レピの説明が進む度、シェリルは俯き、顔色は曇っていく。
「で、では今まで言っていた、シェリルの意識や相手の問題というのは…」
シェリルの様子を伺いながら、リリニシアが疑問をぶつけた。
「戦いを終えてから僕が手を近付けても増幅したことを考えると、おそらく無関係でしょうね」
「…ですわよね」
「といった形で条件は分かりましたが、何故そうなるのかまでは分かりません。制御しようとするなら、ここを解き明かすことが前提になるでしょう」
「…え?」
言葉の意図が掴めず、シェリルは顔をあげる。
この先で、レピは穏やかな笑顔を浮かべていた。
「制御出来ない、というのは現時点での結論です。何故そうなるのかが分かっていない以上、とても最終的な結論とは出来ません」
「え、と…」
「すべて解き明かし、不可能だ、という最終的な結論に至るまで、これからも思い付く限りの可能性を確かめましょう」
「ありがとう、ございます…!」
深く頭を下げるシェリルの顔から雫が伝い落ちることに、誰も言及しなかった。
「なるほど、さっきのはそういうことか」
一方、リエネは一人頷き、何かに納得していた。
「え、なにがですの?」
「その理屈であれば、シェリルの剣では魔物以外──というのは正しくないが、人もさっきの魔物も斬れないことになります。触ることが出来ないなら。だが──」
リリニシアの疑問に答え、そのまま続けた。
「シェリルは確かにヤツらを斬っていた。つまりその剣は、刃に限り弾く効果を持たない。それを確かめるため、自分で触ったんだろ?」
「流石リエネさんというか、戦いに関しては鼻が効きますね。仰る通りです」
「は~…。なんか言い方おかしいかもしんねぇけど、性格悪ぃな剣」
「せ、性格?」
無機物を相手に“性格が悪い”と評したスウォルに、レピは珍しく、意表を突かれたような気の抜けた返事を返した。
「だってほら、横だと触れないか魔術強くしちゃうかで、触れるとこだと斬っちゃうでしょ?どっちにしたって…じゃないっすか。ほとんど嫌がらせでしょ、姉ちゃんに対して」
「…はは」
スウォルの返答を受け、しばしポカンとしたレピは、まもなく笑い始めた。
「ははは…性格!そんな表現があったとは!」
「え、そ、そんな変でした?」
「まさか!それが一番しっくり来ますよ!はははは…!」
やがて腹を抱えて笑い始めた。
「れ、レピさんてこんな笑い方なさるんですのね…」
「おいシェリル、今のはあんなに笑うほど面白いのか?」
「さぁ…?」
“レピの笑顔”に対し、ほとんど常時浮かべている穏やかな微笑み、という印象を抱いていた一行は、子供のように笑い転げるレピを、呆気にとられ見つめていた。
「はぁー…ありがとうございます、スウォルくん」
一頻り笑ったレピは、目元を指で拭いながら感謝を伝えた。
「え、何がですか?」
「おかげで、僕が見てる世界がつまらないモノなんだと気付けました」
「は、はぁ…?」
ひとまず感謝を受け取るも釈然とせず、スウォルは反応に困っているが、レピは構わず話を続けた。
「さて、性格の悪い剣の話はこれくらいにしましょう」
「他にも何かあるんですの?」
「先ほどの魔物たちの特異性についてです」
リリニシアの質問に、レピは真剣な表情に戻し、答える。
「まぁ僕が直接見たのはアレで三種目なので、どちらかを多数派と断定するにはあまりに心許ないですが…今は便宜的にそうとしましょう」
「特異性、か」
より自分に関わりそうな話題に、リエネは身を乗り出した。
「魔物同士で戦っていたこと、盾や魔術の掛かっていない剣に触れないであろうこともそうですが、一番問題なのは死後、独りでに肉体が崩れたことです」
「魔物を殺した例はあるが、死体が崩れるなど聞いたことがないな」
「師匠もそんなこと言ってなかったよね」
シェリルは自らが知る“魔物を殺した例”を挙げ、スウォルに確認した。
「あぁ、聞いたことねぇ」
「せんせい?剣の師か?」
「そっす、魔物を殺したことあるって話なんですけど」
「ほう?ヤクノサニユ人の身でか?さぞ腕が立つのだろうな」
「国防の長ですもの、そりゃあ──」
「…国防の長?」
リリニシアの回答を遮り、リエネは目を丸くした。
「まさか“神槍”グラウム──グラウム・イブキミチか!?」
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次回は9月15日20時にXでの先行公開を、16日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
シェリルとスウォルの師の名を言い当て驚愕するリエネだったが、レピは興味がなさそうに話を戻す。
改めて、四足の魔物たちの特異性を纏める中、リリニシアの提案から、彼らに名を与えることに。
次回「勇者一行の命名会議」




