二人の勇者のお師匠様
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
「魔王討伐」と「各国を回り、和睦を打診する」。
二つの王命を受ける二人の前に、幼馴染みにして王の孫娘であるリリニシアが乱入した。
「魔術が使えるから役に立つ」と宣言し、ムリヤリ同行を宣言すると、準備を手伝わせるべく、シェリルを引きずっていく。
残されたスウォルは、「師匠の元に挨拶に行く」と王に告げ、城を後にする。
25/4/9
二話と三話の境目を調整しました。
「師匠~!」
玉座の間を出て、少し走ったスウォルは、王城に隣接する道場で、大きな声で師を呼んだ。
「スウォルか。そうか、今日じゃったな。シェリルはどうした?」
奥から出てきたのは、手には槍代わりに訓練の杖を握る、髪がすっかり白く染まりきった、小柄な老人だった。
「リリニシア様が着いてくるって言い出してさ。準備手伝わされてるよ」
「ほう、あのおてんばが!そりゃあ難儀じゃのう!」
カッカッカ、と楽しそうに笑う師に、スウォルは不満を隠さない。
「笑いごとじゃねぇよ~…。なぁ、やっぱ師匠も一緒に来ねぇ?」
「バカ言え、国防の長が抜けて国の守りはどうするんじゃ」
「そりゃそうだけどさ~」
「それに、あのワガママお姫様の子守りなんぞ願い下げじゃ」
「絶対そっちが本音だろ…」
「で、結局どっちだったんじゃ?予言の勇者は」
「どっちも」
「…?」
首を捻る師に、スウォルは洞窟での出来事を説明した。
「ほほう、それぞれ別々に!その上、お前が盾でシェリルが剣ときたか!」
「そうなんだよ~…逆だろ復活よ~…」
「人生とはままならぬものじゃの。…さて、スウォルよ」
再び笑う師に文句を言う前に、師は何かを投げ渡した。
「っと。…木剣?」
「旅立ちの前に、一戦手合わせしてかんかの。お前のその盾の使い勝手、確かめておきたいじゃろ?」
「師匠…」
「それに、これが最後になるやも知れんのでのぉ」
「…へぇ?旅してる間に老衰でくたばっちまうかも知れねぇもんな?」
「お前が死ぬ可能性の方が高そうじゃがの」
「…」
「カッカッカ…」
教え子の無礼も意に介さず、老人は明朗に笑って受け流す。
話しながら道場の中央に移動し、距離を置いて相対した。
「上等だジジィ構えろ、今日こそ泣かしてやる!」
「それを今まで何度聞いて、何度泣かされたかの~…覚えとらんなぁ」
「…ゼ~ロ~だ~よ~うるせぇな!!」
スウォルは右手に木剣、左手には勇者の盾を、師は握っていた杖を槍のように、お互い構え、向き合う。
先ほどまでのじゃれあいから一転、互いを指すような眼差しで射抜いていた。
「さて、では小手調べと行こうかの」
老人が呟くと、言葉に違わず、軽く杖を数回、突き入れる。
スウォルは冷静に、盾の表面を滑らせるようにいなした。
「どうじゃ、“勇者の盾”の感触は」
「軽くて扱いやすいよ。…けど、そんな特別って感じはねぇな、今んとこ」
「ふむ、突く側としても同感じゃ。…どうした、攻めて来んのか?」
「確認してんだよ盾を!…行くぜ!」
それまでの表面を滑らせるいなし方を止め、穂先を盾で、左側から叩く。
「む」
「ふっ!」
杖に横からの打撃が加わり、老人が右に向けて少しよろけた。
そのままスウォルは右手の木剣で斬り上げるが──
「なんの」
弾かれた杖を引き戻すことなく、そのまま柄の中腹で受け止めた。
「ほれ」
スウォルの剣を絡めとるように杖を半回転させ、お返しとばかりにスウォルの体勢を崩す。
「くっ」
「ほい」
槍であったなら穂先と逆、柄の先端に当たる石突を、スウォルの頭目掛けて、左から振るう。
「っぶね!このっ!」
風切り音を鳴らしながら、石突が空を斬る。
咄嗟に屈み躱したスウォルは、屈んだ反動を利用し、今度は逆側から、飛び上がりながら斬り上げる。
老人はわずかに身を引き、掠めるように渾身の一撃を躱すと──
「阿呆」
「やべっ」
空中で身動きが取れないスウォルの胴体、その中心を貫かんと突き入れる。
「まだまだ!」
「師匠、スウォル、いますかー?」
「む!?」
スウォルの盾が杖を防ぐ鈍い音が、シェリルの声に掻き消された。
大きく弾き飛ばされるスウォルを尻目に、老人は構えを解く。
「シェリルか。姫のご準備は済んだのか?」
「あ、師匠!」
老人の反応を認めたシェリルが、道場内に足を踏み入れる。
もちろん、一緒に。
「えぇ終わりましたわ!!いつでも出られますわよ~!!…あら、いったい何を?」
“うげっ”という表情を隠さず…どころか、口にすら出す老人を気にも止めず、リリニシアは吹き飛ばされるスウォルを見て、疑問を口にする。
「たぶん、手合わせじゃないかと」
「あぁ、お手合わせ!噂に聞くあの!」
「どこの誰が噂しとるんじゃそれ」
「おいジジィ!最後の本気でブチ抜くつもりだったろ!?」
既に雑談の体勢に切り替えている老人に、受け身を取って立て直したスウォルが抗議する。
「何を抜かすか。こんな木の棒で人体なんぞブチ抜けるか」
「だから“つもり”っつってんだよ!余計痛ぇんじゃねぇのかそれ!?」
「カッカッカ…いやしかし、最後のは確実に決まったと思ったんじゃがのぅ。よく凌いだものよ」
「あんなの食らえるかよ…」
「存外、盾ってのもお似合いなのかも知れんの」
「勘弁してくれよ…」
スウォルもようやく臨戦態勢を解き、三人に歩み寄った。
「この様子だと、今回も師匠の勝ち、ですかね?」
相も変わらず、師に対し無礼な口を聞く弟に苦笑しながら聞くシェリルだったが、意外なことに師は首を横に降り、答えた。
「いや、引き分けじゃろうな」
「え!?」
「マジ!?」
姉弟は驚き、目を見合わせた。
いつも“ひよっこ”とからかってきた師匠が、こんなことを口にするなんて。
「もちろん、ケリが着くまで続ければワシが勝つが?今回の試合に限って言えば、まぁ引き分けでええじゃろ」
「…やっぱ変わんねぇわ、いつもと」
「そ、そうね…」
大人げなく勝ち誇った表情で語る師だったが、ふと表情を緩めた。
「…強くなったくなったの。ワシを相手に引き分けに持ち込んで見せたんじゃ、自信を持て。」
「師匠…」
「じゃがゆめゆめ、油断はするな。お前たちがこれから臨むのは試合ではない。実戦、殺し合いじゃ。…決して、ワシの寿命よりも先に死ぬでないぞ」
「はい!」
力強く頷くスウォル。
続けてグラウムは、シェリルに目をやる。
「シェリル、お前もじゃぞ」
「師匠、私は…」
「お前は力では劣るが、技量だけならスウォルよりも上。…あとは“心の問題”よの」
「…はい」
スウォルと対照的に、シェリルは弱々しく、少しだけ首を縦に振る。
そんなシェリルを見たグラウムは、小さく一息吐くと、今度はリリニシアに顔を向ける。
「姫様、スウォルはもちろん、シェリルもこう見えて抜けてるところがあります故、ご苦労なさると思いますが…力になってやってくだされ」
さっきまでリリニシアに向けていた嫌そうな顔とはうって変わって、真摯な態度で頭を垂れる。
「えぇ、もっちろんそのつもりですわ!ですが…そんなに心配なら、貴方もご一緒なさったら?」
「スウォルにも言いましたが、ワシは国防の要と自負しておりまする。留守にする訳には行きませぬ」
「残念ですわ。ヤクノサニユの“グラウム・イブキミチ”の名、他国にも轟くと聞いておりますのに」
「何を仰る。ワシのような老いぼれが出る幕ではありますまい。姫様やこやつらのような、次代を担う若人でなくては」
若い芽を慈しむように、グラウムが目を細める。
リリニシアは当然として、シェリルとスウォルも初めて見る表情だった。
「もう出るのか?」
「父さんのところに顔を出して、その途中で買い出しをして、それから出ようかと思っています」
「…買い出しっても金なんてねぇぞ、俺」
「ご心配なく、お祖父様から預かっておりますわ!大した額ではございませんけれどね!!」
「ならば…あれを持ってゆけ」
「あれ?」
グラウムは指で道場の一画を指し示した。
「勇者の物とは比ぶべくもないが、シェリルにも防具、スウォルにも剣くらいは必要じゃろう?」
「いいんですか?」
「構わん。好きなものを持って行くがよい。姫様も、扱えるものがあれば構いませぬぞ」
「…お世話になりました!!」
「ありがたく見せてもらいますわ!!」
三人は深く頭を下げ、鎧の他、シェリルは小さな盾、スウォルは剣を握り、再び一礼し、去っていった。
グラウムは礼を受け、天井を見上げながら、足音が離れていくのを感じていた。
「さて、“父”か。お主らに話すんじゃろうかのぉ、本当のこと…」
お読みいただき、ありがとうございました。
この話が公開されるくらいのタイミングで、Xでは第四話の冒頭を先行公開しているはずですので、よろしければそちらもご確認ください。
また、その四話は明日の20時に公開予定です。
~次回予告~
合流した三人は、師との手合わせを終え、シェリルとスウォルの“父”の元へと挨拶に向かう。
王から課された使命のことを話すと、父の様子が一変してしまうのだった。
次回「二人の勇者の“お父さん」