スウォルの配慮とシェリルの決意
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
魔物の襲来に備える一行の前に現れたのは、初めて廃村を訪れた際にレピを怯えさせていた小さな魔物と、それを攻撃する三体の狼型の魔物だった。
困惑する一行の前でも攻撃は続き、とうとうシェリルは耐え兼ね、四足の魔物たちに向け剣を抜く。
スウォルも追って参戦し、斬りつけた魔物に僅かな違和感を抱きながら魔物の突進に盾を構えるが、盾に触れることなく弾き飛ばされた。
それを見たレピは何かに気付き、シェリルの剣に炎の魔術を纏わせる。
炎は戦いの中で強く、大きく“増幅”されていくのだった。
「つ、強くなってますわ、本当に!いったい何が…!?」
シェリルの剣を覆う炎は、魔物を打つ度に強さを増していく。
とうとう再現された魔術増幅を前に、リリニシアは言葉を失った。
「あれがそうか…!おい、そろそろ説明してもらうぞ」
シェリルと再び代わり、油断することなく魔物たちから目を離さず、ジリジリと後退して来たリエネは、さっきから質問に答えず一人で話を進めるレピを責めるように言う。
「簡単に言えば…鍵だったのは、シェリルさん以外を弾き飛ばす、あの現象だった、ということです」
「さっぱり分からん」
「ワタクシもですわ…」
理解が及んでいない二人だったが、レピは一方的に話を切り上げる。
「シェリルさんたちも聞きたいでしょうから、詳しい説明は後ほど。…あ、リリニシア様」
「な、なんですの?」
「そこを動かないでください、小さい魔物が見えるので」
「ワタクシの扱い、すんごい雑になってません?」
一方シェリルは、四足の魔物たちを追い払うべく、強さを増していく炎を揺らめかせる。
リリニシアの魔術を受け、それが効果的だったにも関わらず、受けた個体にすら火を恐れる様子がない。
火の勢いは増していく一方だが、再生能力を持つ魔物が相手の為、シェリルは躊躇いなく剣を振るっていた。
──しかし、不意に状況は変わる。
「しつっこい…!」
「火は効いてるみてぇなのになんで逃げねぇんだコイツら!バカなんじゃねぇのか!?」
スウォルが叫びながら、苛立ちを乗せて放った斬撃は一体を捉え、切り裂く。
短い悲鳴をあげたその一体は地を転がり、動かなくなった。
「…え?」
否、ピクピクと痙攣は認められるが、生物としての活動は止まり、再生の兆候も見られない。
「死んだ!?俺の剣で!?」
「なんで…魔力核は攻撃してないはずなのに…」
「もう魔力が尽きたのか…?──いや、考えるのは後だ!」
自分でも倒せるのなら、とスウォルは前に出た。
「俺がやる!姉ちゃんは下がってろ!」
「っ!」
姉の精神に余計な負担を掛けさせない為の、弟によるささやかな配慮。
無論、シェリルもそれを理解している。
だが──。
「姉ちゃん!?」
スウォルの言葉を無視し、シェリルは前に出た。
倒すんなら──
「私が!!」
腕で追い付かれかけてる私が、魔物を討つ役割までスウォルに任せてしまったら、私は本当に──ただの足手纏いでしかない!
「たぁぁあああ!!」
シェリルは躊躇いを振り払うような雄叫びと共に、燃え盛る炎の刃を、一体の胸に突き立てる。
肉を引き裂く刃と体の内から身を焼く炎に、魔物は声にならない悲鳴をあげ、同じく活動を終えた。
あの時と──北東の防衛線の時と同じ、握った刃が生き物の体に食い込んでいく気持ち悪い感触が手に伝う。
ただ一つ違うのは、あの時のような、胃の中身と共に込み上げる、言い様のない嫌悪感がないことだけ。
…あの一回で慣れてしまったというのか。
命を奪う、この感触に。
そのままシェリルは残る一体にも刃を振るい、すぐに戦いは終わった。
「姉ちゃん…」
殺しを嫌うはずの姉が、わざわざ汚さずに済んだはずの手を汚したことに、スウォルは言葉を失う。
「大丈夫…。私の役目だから…」
シェリルは肩で息をしながら答えると、自らが殺めた魔物たちの亡骸を見つめ、静かに目を瞑り、歯を食い縛った。
「シェリル、その…お疲れ様ですわ」
少しの間、魔物が起き上がってこないか中止していたリリニシアたちも、絶命したと判断し、二人に歩み寄った。
「…うん」
「悔やんでいるか、殺したことを」
「…」
リエネに問われ、シェリルは沈黙する。
「その…ヤツらに引く様子はなかった。こうするしかなかった」
「はい…」
同じ失態を繰り返さぬよう、リエネは言葉を選びながら、シェリルの選択を肯定した。
「ス、スウォルくん、傷を見せてください」
レピは小さな魔物にビクビクしながら、戦いに傷を負ったスウォルを治療すべく声を掛けるが──。
「いや、必要なさそうだ」
スウォルは両腕を広げて見せた。
「…治っ、てますね」
「あぁ、痛みもねぇ。なんなんだろうなコレ…」
我が身に起きる異常に困惑するスウォルに、リリニシアが顔をしかめながら言う。
「どっちが魔物が分かりませんわね…。なんか気味悪くなってきましたわ」
「ははは、ひどくね?」
引き気味のリリニシアに、スウォルは笑って答えた。
「…あの子は?」
シェリルは顔を伏せたまま、小さな魔物に視線を移す。
「き…きしゃー!!」
シェリルの声を受けレピを除く全員から注目が集まると、すっかり再生した体でバタバタと、怯えた様子で慌ただしく逃げて行った。
「行きましたか…ふぅ…」
「そこまでダメなのかお前…」
安堵に息をつくレピを、リエネは僅かに白い目で見た。
「仕方ないじゃないですか、苦手なモノは…」
「レピさん」
シェリルは二人のやり取りに構わず割り込み、燃え盛る炎を纏う刃を持ち上げた。
「そ、そうですね。では──」
レピはその様子に気圧されつつ、剣に手を翳し、火を消しとめる。
「どうする?コイツら。食う選択肢はないんだろ?」
「当たり前ですわ!うーん…埋葬して弔う、とかですかしら?」
「そうですか…。我々で食わないならせめて、関所の連中に渡してやりたいところなのですが」
リリニシアの提案に、リエネが残念そうに唸る。
しかしそんな一行のやり取りは無駄になった。
「なんだコレ!?」
驚愕するスウォルの声に、全員が再び亡骸に視線を移すと、その肉体が朽ち、ボロボロと崩れはじめていたからだ。
「いやああああ!?キモいキモいキモい!!」
「なっ…」
その惨たらしい光景にリリニシアは絶叫と共に目を逸らし、他の面々は言葉を失った。
「…聞いたことありますか、リエネさん」
レピの問いに、リエネは即座に答えた。
「ない!こんな…死して体が崩れる魔物なんて!」
「ひぃぃ…こ、こんな魔物もいるんですのぉ…?」
リリニシアが手で目を多いながら指の間からおっかなびっくり視線をやっては怯え、おののく。
まもなく崩れ落ちた残骸を残し、魔物だった形跡も見て取れなくなった。
「今に始まったことではないが、魔物には分からんことが多いな。…さて、掘るか」
魔物だったそれに淡々と感想を述べ、キョロキョロと当たりを見回すリエネに、スウォルが声をあげた。
「掘る?」
「埋葬するのだろう?」
「あ、それは僕が土の魔術でやりますが…ここではちょっと…」
自らが担当すると名乗り出ながらも、レピがやんわりと制した。
「何故だ?土の質が悪いか?」
「そうではなく、この村は魔物に襲われ、滅びてしまったのでしょう?そこに魔物を埋めるのは…」
「よく分からんことを気にするな…。では外に運ぶのか?コレを」
「そ、それは…」
リエネが指差したそれに、レピも眉を潜めた。
「気にすることはない。“負けて滅ぼされた村民が悪い”と、リリニシア様も言っていただろう?」
「ワタクシの思想みたいな言い方しないでくださいません!?」
「はは、失礼いたしました。──ここの者たちもハリソノイアの民、文句は言うまい」
「…分かりました。では──土の魔術」
目を覆ったまま抗議するリリニシアを笑って躱したリエネに促され、レピはやむ無くしゃがみこみ地面に手を付け、唱えた。
ズズズと音を立て、残骸の下の土が沈み込み、周辺の土が覆い被さる。
瞬く間に、魔物たちだったモノは土中に消えた。
「ごめんなさい…」
その様を身ながら、シェリルは詫びの言葉を呟く。
スウォルはそれを、どこか不満げな表情で見つめていた。
「…終わった?終わりましたの?」
「えぇ、終わりました」
音が止み、再び指の間から様子を伺うリリニシアに、レピが答えた。
「そ、そうですの、驚かせてくれますわね…。何があるか分かったモンじゃありませんわね、魔物って」
先程までのけたたましい魔物の声が消え、廃村を静寂が包む。
「…さて、特にお二人は疲れたでしょうし、調査を再開する前に少し休みましょうか」
静寂の中、シェリルとスウォルを見ながらレピが言う。
「いえ、俺は大丈夫です」
「私も」
「まぁまぁ、そう言わずに。僕も早く、皆さんに成果を発表させて欲しいんですよ」
「それって…」
成果と聞き、シェリルはバッと顔をレピに向けた。
「はい、魔術増幅についてです」
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次回は9月8日20時にXでの先行公開を、9日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
レピの提案を受け、輪になり焚き火を囲う一行。
発案者はシェリルに剣を抜くよう要求し、弾かれることを承知で手を近付けた。
自らの体でいくつか実験を行い、確信を得たとして、魔術増幅の条件を語り始める。
次回「魔術増幅の条件」




