勇者一行の廃村調査
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
初めて魔術増幅を確認した関所に場所を移しても、同じ現象は起こらなかった。
他の可能性を検討し、“相手がハリソノイア人であること”、あるいは“ヤクノサニユ人でないこと”を疑ったレピは、“次回はリエネに協力してもらう”としながらも、その場は切り上げることを決めた。
シェリル、スウォル、リリニシアと初めて出会った廃村を目指す途中、レピは廃村にいた理由を明かす。
「んん~…?」
しばらく歩き、相も変わらず人気のない廃村に辿り着いた一行が、いざ調査を始めよう、という段階で、リリニシアは一人、唸っていた。
その様子に気付いたスウォルが声を掛ける。
「どうした?」
「それがどぉぉぉ…にも腑に落ちなくて思い返してるのですが──何度振り返ってみても、ワタクシが教わったのは十五年前のはずなんですのよねぇ…」
「ここが魔物に襲われたの?でもリエネさんは──」
「分かってます、リエネさんが間違っているとは思ってませんわ」
スウォルの言葉を遮り生じかけた誤解を防ぐと、言葉を続けた。
「問題は、ワタクシが教わった内容が、何故一年ズレているのか、というところですわ」
「つっても一年だろ?大した問題じゃなくないか?」
呑気なことを言うスウォルに、リリニシアは見せ付けるように大きなため息をつき、呆れて言った。
「なん百年なん千年と昔ならともかく、貴方たちが産まれた頃の話ですのよ?ましてワタクシはこれでも一応、国王の孫娘として、国内で最上級の教育を受けておりますの」
「姫らしくない自覚はあるのか…」
「なんか言いました!?」
「いえなんもっ」
思わず口を突いたスウォルのぼやきを、リリニシアは逃さない。
「まったく…ともかく、言ってしまえばたったの十六年前の出来事が、よりにもよって次期王位継承者であるワタクシに正しく伝わっていないのはマズいですわ!」
余計なことを言わないよう口をつぐんだスウォルに変わり、シェリルが頷く。
「他所の国から世間知らずって思われちゃうよね」
「そうですわ!せっかく皆で協力しよう、ハリソノイアとも上手く行きそうって時に、こんなことで笑い者になりたくありませんわよ!戻ったらお祖父様に言わないと…!」
「王というのが華やかなだけの立場でないのは、どこも同じですね」
ユミーナの苦労と重ね、リエネは苦笑した。
「ま、それは今はいいですわ。早速調べましょう!…で、レピさん!何をすればよろしいかしら!?」
自分が唸っていたせいで調査が始まっていないことを意にも介さず、リリニシアが号令を掛ける。
それを合図に全員の注目を受けたレピは、小さく咳払いした。
「歴史としての観点で言えばたったですが、今を生きる僕たちにとっては十六年も昔のことです。先ほども言った通り、おそらく手掛かりは風化してしまっていて、結論は“分からない”に落ち着くと思います。なのでとりあえず──皆さん、何か気になるものがないか探してみてください」
「…フワッとしてるな」
少しの間の後、全員の心境をリエネが一言で言い表した。
「明確な方針を示せればいいんですが、正直、僕にも分かりませんからね」
レピは少し申し訳なさそうに、頬を搔きながら笑った。
「だから言ったんですよ、休んでていいですって。というか気が向かなければ──」
「やるさ。スウォルじゃないが、少し楽しそうに思えてきた」
レピの言葉を遮り、リエネはニヤリと口角を挙げる。
「リエネさんまで!」
「シェリル」
驚いたシェリルが嗜めようとするも、リリニシアはむしろ、そのシェリルを止めた。
「たぶんリエネさん、というハリソノイア的には“負けて滅ぼされた村が悪い”ですわよ」
「…無駄?」
リリニシアは静かに、ゆっくりと頷いた後、リエネに視線を移す。
「前にも言ったと思いますが、その感覚はここでしか通用しませんからね?」
「他国では軋轢を避ける為、私の本心ではなくとも皆の反応に合わせるべきだと心得ております」
「なら構いませんが…信じますわよ?」
「けど、それは私たちも同じよね」
“信じる”と言いながらもリリニシアが不安を隠さない一方、シェリルは腕を組み、考え込んで呟いた。
「どういうことですの?」
「マキューロやティサンは同盟国だけど、だからって文化を全部を知ってる訳じゃないでしょ?」
「まぁ、そうですわね」
難しい表情で頷くリリニシアに、シェリルは続ける。
「ましてワユギシヘサイなんて、国交もあまりないはずだし…リエネさんほど極端じゃなくても、私たちだって多少は様子を見て行かないと」
「…それは確かに」
「そんなこと今考えても仕方なくねぇか?それよりさっさと探検しようぜ!」
同調し、つられて考え込むリリニシアに業を煮やしたスウォルはつまらなさそうに唇を尖らせ、愚痴った。
「探検…まぁ探検と言えば探検かも知れませんが。少なくともマキューロでは僕に合わせてもらえれば問題はないかと思いますよ」
「そうですわね、ティサンやワユギシヘサイに関しては、戻ってからお祖父様に相談してみるとしましょう」
再び長いじゃれあいに突入する前にレピが間に入って取りなすと、リリニシアもそれを受け入れた。
「ではバラけて各自、気になるものを探す…でいいか?レピ」
発端となったリエネは、“他国では他者に合わせる”という明快な答えがある故、興味なさげに話を進める。
「えぇ、構いません。家屋は下手に触ると倒壊してしまうかも知れませんから、慎重にお願いしますね。では始めましょう」
「おーっ!!」
レピが開始を宣言すると、スウォルは両手を突き上げ、雄叫びを挙げた。
それからしばらく、各々が思い思いに廃村を調査するも、やはりレピの想像の通り、めぼしい手掛かりは見当たらなかった。
そんな中、シェリルは一冊の古い本を抱き、中央で火を焚いているレピに声を掛けた。
「あの、これ」
「何かありましたか?…それは?」
「あっちの家で見付けて…掠れちゃってたり紙が崩れちゃったりしてるんですけど、日記っぽくて」
「ふむ…。持ち主の方には悪いですが、拝見させていただきましょう」
シェリルから日記らしき本を受け取り、破片が崩れ落ちる中、レピは丁寧に捲り、目を通す。
彼女の言う通り、大部分は読める状態ではなかった。
「確かに紙も墨も、あまり質はよくないですね…」
「書いてある中で最後の…ここ、書いてあるの日付ですよね?」
シェリルはレピの後ろから指示を出し、頁上部の文字を指を差した。
文字が敷き詰められていた前の頁までと比較して、半分以下の内容しか書かれていないその頁には、比較的読みやすい状態で、日付と思しき数字が書かれている。
「十六年前、か。どこを開いても同じ場所に、何かを書いていた痕跡があります」
「それで日記かなって」
読める文字を探しながら、レピは頁を遡って捲り続けた。
ところどころに読める文字自体は残っていたが、意味のある単語として生き残っている物はそうそう見当たらない。
「魔物に襲われたことの手掛かりはないかもって思ったんですが…」
「手掛かりとまでは行かずとも、まったくの無関係、という訳でもないかも知れません」
「え?」
「見てください」
レピは再び、日付が読み取れた最後の頁を開いた。
「ここだけ明らかに文量が少ない。つまり、何この頁を書いている途中、何らかの事情で中断せざるを得なかった、と考えられます」
「…」
「そして最後の方──これは掠れている以前に、そもそも文字として成立していないと見た方がいいでしょう」
レピは最後の文字──らしきものを指差す。
「私もなんかグニャグニャだな、とは思いました」
「加えて向かい側の…ここ。滲んだ墨が付着しています。乾く前に閉じたのでしょう。最後に──」
「…」
シェリルは口を挟まず、黙ってレピの考えに耳を傾ける。
「この頁以外では全て、紙をギリギリまで使っていることから、几帳面な性格であったと考えられます。しかし未記載の頁が何枚か残っている。意図的に途中で辞めた、とは考えづらいでしょう」
「じゃあ…最後のこれを書いている最中に魔物が…?」
「──それで慌てて文字が崩れ、咄嗟に閉じた為に墨が向かいに写った。僕はそう考えています」
レピの導いた結論を聞き、シェリルは体と声を震わせた。
「…この日付、私たちの誕生日なんです」
「…そうでしたか」
「私たちが産まれた日に村が滅んで、多くの人が亡くなってたなんて…」
「誰かの誕生日は、別の誰かの命日です。貴方たちだけではありません。それにこれは、あくまで僕の推測ですから」
「…はい」
言い様のないやるせなさに、シェリルは肩を落とした。
少し離れた位置からスウォルの叫び声が聞こえてきたのと、シェリルの剣が鞘の中で震え、音を立てたのは、まったくの同時だった。
「魔物だ!!」
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次回は8月25日20時にXでの先行公開を、26日20時に本公開を行う予定です。
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~次回予告~
駆け寄ってくるスウォルの叫びを受けリリニシアとリエネが合流し、臨戦態勢を整える一行。
彼らの前に姿を現した魔物は──。
しかし、現れたのは一体ではなかった。
時間「勇者一行と廃村の魔物」




