お姫様と魔術師
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
ハリソノイア城からヤクノサニユへの出発前夜、ユミーナは、リエネの“話がしたい”という思いを聞き入れ、私室に招き入れた。
大王ではなく、かつてのような“ユミーナさん”としての接し方を求めるユミーナに、リエネは“自分のせいで苦労させたことを謝りたかった”と漏らす。
“せいではなく、アンタのために”だったと声を掛け、ユミーナは自身の首飾りを手渡すと、リエネは帰還後の返却を約束し、受け取った。
翌日、民衆の気を引くためのユミーナの演説を背に、こっそりとハリソノイア城を発つのだった。
「なぁリエネさん、ユミーナ様って何を演説してたんだ?」
ユミーナのお陰で静かにハリソノイア中央部を離れることに成功し、ヤクノサニユへの帰路を進む中、スウォルが聞いた。
「私も内容は分からん。“今から準備するから起こして伝言伝えてそのまま行け”だったからな」
「そっかー。挨拶くらいしたかったなぁ」
「だったら!早く起きて!身だしなみくらい!整えておいて欲しいですわね!!」
のんきなスウォルに、リリニシアがプンプンと怒る。
「怖がってなかった?ユミーナ様のこと」
シェリルはスウォルの言葉に驚いた。
「いや、おっかねぇんだけどさ…かわいいよなぁ、ユミーナ様…」
「うーわ…」
浅ましいスウォルの言葉に、シェリルとリリニシアは口を揃えた。
「なにしに来たのよ、ハリソノイアまで」
「戦ったじゃん魔物と!受け止めたじゃん盾で!!」
蔑み、目を細めるシェリルに自らの働きを必死に主張するスウォルを、やはりリリニシアも半目で睨み付ける。
「…ああいうお顔が好みなんですの?」
「いや好みっつーか…美人じゃねぇ?なぁレピさん」
「え、僕に振るんですか!?お綺麗なのは間違いないと思いますが…」
「レピさんまでですか!?」
スウォルに対しては呆れていたシェリルだったが、レピに対しては目を丸くした。
「信っじらんない、これだから男って…!」
「待ってください、お綺麗なのは女性から見ても同じでしょう!?」
「そうですけど!」
もはやスウォルそっちのけで騒ぎ始めた一方、リリニシアはチクチクとスウォルを攻撃し続ける。
「ふーん、そう。ああいうお顔が好みなんですの。…ふーん」
「なんだよ、悪いかよ」
「いーえ別にィ?」
開き直るスウォルに対するリリニシアは、言葉とは裏腹に機嫌が悪そうだった。
「…おや」
「聞いてるんですかレピさん!?」
「あ、はいすみません」
説教の最中に意識を散らしたレピに、シェリルはますます勢いを増す。
リエネはそんな騒がしい旅路の新鮮味を感じつつも、どこか心苦しそうに言う。
「スウォル、次にユミーナ様とお会いすることがあってもそれは言うなよ」
「え、なんで?」
「ユミーナ様は…その、あまり男が得意じゃないんだ」
「そうなんですの?どうしてです?」
言葉を探し、躊躇いがちに目を伏せるリエネに、リリニシアが首を傾げた。
「その…いい思い出がない、と言いますか」
「…?」
「そ、それより!ユミーナ様のおかげで城からはすんなり離れられましたが、以降立ち寄る集落ではそうは行かないでしょう。遠い分、多少は落ち着くとは思いますが、心のご準備をお願いしますね」
「え、えぇ、分かりましたわ」
やはり歯切れは悪く、強引に話題を変える姿に全員が違和感を抱くも、そのリエネの態度に追求はしなかった。
往路と同じく近道を活用したものの、やはりリエネの想定通り、程度に差はあれど歓迎は厚く、ハリソノイア城までの道程と同様、余計に時間がかかった。
しかし歓迎はレピの言う“節約”に好都合ということもあり、一行は敢えて集落を避けることはしなかった。
そんなヤクノサニユまでの道中、ある日の夜営中のこと。
リリニシアの魔術で起こした火を囲み、輪になって食事を済ませた後、一行はそれぞれ自由な時間を過ごしていた。
シェリルはあれ移行、訓練を兼ねてたびたびリエネと腕を競っており、この日も同様だったが、珍しくスウォルが参加していた。
そしてレピは、少し離れた位置から響く木剣の音を背に、手懸かりを求めユミーナから受け取った本を読み進めながら、いつもの通りリリニシアに魔術を指南していた。
「氷の魔術を使えるようになってから結構経ちますのに、全っ然次に進めませんわ~…」
「その氷も、驚異的と言っていい速さで習得なさってますけどね」
「そうおっしゃってくださいますけれど、この程度じゃいつまで経っても役になんて立てませんわ」
「…休憩がてら、お伺いしても?」
肩を落としながら頷くリリニシアに、レピはパタン、と本を閉じ、傍らに置いて問い掛けた。
「前にも言ってましたが、リリニシア様は何故、“役に立つ”ことにそこまで拘るのです?」
「え、言いましたかワタクシ?」
「えぇ、あの戦いの後だったと思います。それで、何故です?」
レピの問いに、リリニシアは少し俯き、恥ずかしそうに答えた。
「一言で言うなら、置いていかれたくないから、ですわね」
「ほう?」
「初めてお会いした時、スウォルが言っていたでしょう?“足手纏いは要らない”と」
「えぇ、言われました」
「レピさんもご存知の通り、ワタクシとあの二人は幼馴染みなんですの。どちらかが“予言の子”ということもあり、二人とも特別扱いでしたわ。…まぁ、どっちも、でしたけれど」
「そうでしょう。人類の未来を請け負う訳ですから」
グッと伸びをしたリリニシアは、懐かしそうに目を細める。
「王の孫という立場にあるワタクシと親しかったのも、その特別扱いの一つですわ。他に年の近いお友達なんていませんもの」
「年の離れたお友達はいらっしゃるんですか?」
「いませんが?」
「失礼しました…」
余計なことを言ったと気まずそうに詫びるレピを、リリニシアは笑い、続ける。
「気にしませんわ。…そんな、ワタクシとって貴重な友人なのですが、一緒になって遊べたのは本当に幼い頃だけでしたの。ワタクシは王位を継ぐためのお勉強、二人は勇者としての訓練の為に。それが…まぁぶっちゃけ寂しかったんです」
「ぶっちゃ…いえ、はい」
言葉選びに反応しかけるも、余計な地雷を踏まないよう、言葉少なにレピが頷く。
「その二人は16になったら旅に出てしまうことが決まってるんです。命を落としたってなにもおかしくない旅に」
「…」
「だからワタクシ、是が非でも付いていってやろうと決めてたんですの。そのためにお祖父様に内緒で武術の稽古を付けてもらったこともありましわ」
「え!?」
現国王の孫娘にして王位継承者であるリリニシアの衝撃的な過去の行いに、レピは言葉を失う。
「ですが生憎、ワタクシにはこの体を使って戦う才能はなかったようで。それで考えついたのが魔術ですの」
「な、なるほど…。確かに話の筋としては理解できますが、無茶をなさいますね…」
「ふふっ…今から振り返ればワタクシもそう思いますわ。魔術の才があったのは幸いでしたわね」
過去の自分の無鉄砲ぶりに、リリニシアも思わず噴き出した。
「ですが、それでも八年を費やしたのでしょう?それも独学で。とてつもない速さで習得なさっていますが、決して短い時間ではなかったでしょう」
「それはそうですわ!なんとなく手ごたえがあったからよかったものの、何回辞めてやろうと思ったか分かったもんじゃありませんわ!」
「でも辞めなかったのですね、お二人と共に旅に出るために。その精神力も魔術に向いていたのでしょう」
「…実はそれだけではありませんの」
思い出を楽しげに語っていたリリニシアが、ふと表情を曇らせる。
「というと?」
「レピさんにはお話ししたことありませんでしたか。ワタクシの両親は魔物に殺されたんです」
「…そうでしたか」
たまに落ち込んだり、ぶーたれたりはしても常に明るいリリニシアの、レピが初めて見る寂しげな表情だった。
「二人に付いていけば、魔物を討てる。お父様とお母様の仇が討てる。そんな思いもありましたの」
「ですが我々は──」
「えぇ。あの魔物のような危害を及ぼすものは別ですが、そうでない魔物を殺すことを目的とはしていません。ワタクシが提案しました」
「それではリリニシア様の目的からは遠ざかるのでは?」
レピの指摘に、リリニシアは視線を泳がせながら言葉を選び、僅かな間のあと答えた。
「…こういうと薄情に聞こえてしまうかもしれませんが──ワタクシにとって、仇を討ったところで帰ってこない両親より、今生きている幼馴染のほうが大切、ということなんでしょうね」
痛々しくさえ見える顔で自嘲するリリニシアに、レピは穏やかな笑顔を浮かべる。
「お優しいですね」
「そう言ってくださりますの?両親の敵討ちを捨てたワタクシを」
「えぇ。敵討ちに固執するより、よほど健全だと思います」
「…ありがとうございます、レピさん」
「いえいえ。ところで、話は変わるのですが──」
レピは空気を換えるように、ユミーナにリエネの加入を打診する会議の時と同じ笑顔を浮かべ、急に明るい、高い声で言う。
リリニシアは警戒し、眉をひそめ──。
「な、なんですの」
「リリニシア様、スウォルくんのこと好きですか?」
「ぶほっ」
思い切り噴き出した。
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次回は7月21日20時にXでの先行公開を、22日20時に本公開を行う予定です。
~次回予告~
唐突な質問に吹き出し、咳き込み、否定するリリニシアを、レピは笑顔で見守る。
リリニシアは話を反らそうと修行の再開を提案するが、レピはそれを制し、その日の修行を打ち切ってしまい、納得いかないながらもリリニシアは従い、馬車の荷車に消えた。
レピは一人、静かに思案に耽る。
次回「魔術師の思案」




