リエネとユミーナ
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
ユミーナの許諾をあっさりと得て、リエネは晴れて一行に加わった。
次の動きを問われた一行は、一度ヤクノサニユに戻ることを決め、一晩を城で明かすことにした。
ユミーナは“依頼をこなしている間に書庫を漁った”と、レピに極僅かな“禁じられた魔法”の情報と、それを記した本を差し出した。
その夜、ユミーナの反応を想定していたというレピを三人が問い詰める一方、リエネはユミーナの私室で、彼女と二人でいた。
「アンタも座んなさいよ」
華美な城の外装には似つかわしくない殺風景な部屋の、派手な玉座とは似ても似つかない質素な椅子で、ユミーナは脚を組んだ。
対するリエネは、言葉を失っていた。
「これは…」
キョロキョロと部屋の中を見回すリエネの姿を、ユミーナはクスリと笑う。
「どう?よく似せてあるでしょ?」
「…」
「完全再現!とまでは行かなくとも、雰囲気は出せてると思わない?」
ユミーナの口振りからするに、部屋の様子は意図的なもののようだった。
「この椅子なんかそのまま持ってきたのよ。覚えてるコレ?」
「どうしてわざわざ…?」
「こんなんの方が落ち着くからに決まってんでしょ。ほら、アンタも」
再度着席を促されるも、リエネは固まったまま。
初めて見た私室の様子に対する戸惑いもあるが、それ以上に──。
「なんで緊張してんのよ。話したいって言ったのアンタでしょ」
「それはそうなのですが…」
「いいから座る!」
「は、はい!」
有無を言わさぬ迫力に押され、リエネも同じく地味な椅子に腰かけた。
「んで用件は?」
「あ、はい、えぇとその…」
「…はぁ」
「め、面目ありません…」
おろおろと歯切れの悪いリエネに、ユミーナはあからさまにため息を吐いて見せた。
「いい?ここはアタシの私室。このハリソノイアで、アタシが唯一“大王”じゃなくていい場所なの」
「あぁ、それで言葉使いが…」
「そういうこと。だから誰も入らせなかったのよ、この部屋でまで大王様でいたくないから。…分かるわね?」
“察しろ”という圧をかけてきていることは分かるが、その察するべき中身が分からないリエネは首を傾げる。
「な、なにをでしょう…?」
「その大王様向けの固っ苦しい喋り方をやめろってんの!」
「そ、そうはおっしゃいましても!」
「はいソレェ!そういうの!」
「し、しかし…」
困惑するリエネに、ユミーナは声をあげて笑い、続けた。
「アンタは明日発つんだから…今ぐらい、“ユミーナさん”でいさせてよ」
「…うん」
「よろしい」
しぶしぶではあったが首を縦に振り、喋り方を軟化させたリエネに、ユミーナは満足げに頷き、呟く。
「まったく、歳も取る訳よね。11の時だったから、18年経ってるってことでしょ?」
「うん」
「いつの間にか背も抜かれてるし」
「それは結構前から──」
「あ゛?」
「なんでもない」
緊張がほぐれてきたリエネは、ユミーナの威圧をかわす。
「昔はあんなに可愛かったのになぁ…」
「ユミーナさんが食べさせてくれて、鍛えてくれて、おかげで今日まで生きて来られたから」
「…アタシよりデカくなんの知ってたら拾ってなかったっつーの」
「あはは、ユミーナさんより小さい頃に会えてよかった」
ユミーナの悪態に、リエネは子供のような屈託のない笑顔を浮かべた後、唇を噛み、続けた。
「…うん、本当に。ずっと謝りたかった」
「なにを?」
「ユミーナさんだって子供だったのに、私のせいで色々…しなくてよかったはずの苦労をさせたから」
「…知ってたんだ。あの時は“代わりの何か”を差し出すでもしなきゃ、満足に飯も食えなかった。アタシに差し出せるモノなんて、ね…」
「…」
「でもアンタは一つ、勘違いしてるよ」
「え…?」
「“せい”じゃない」
俯き、声を震わせるリエネに、ユミーナは──。
「“アンタのせいで苦労した”んじゃなくて、“アンタの為ならなんでも出来た”の。そこ間違えないで」
泣く子を慰める母のような、柔らかな微笑みで答えた。
「ユミーナ、さん…」
リエネの脳裏に、幼い頃の記憶が蘇り、頬を涙が伝った。
あの時もこんな、狭くて暗い隠れ家で、空腹に泣く私に、ただでさえ少ない自分の食料を分け与え、同じ表情で頭を撫でてくれたっけ。
「ごめんなさい…」
「いいってんでしょ。詫びより礼のが嬉しいねアタシは」
「…ありがとう」
「泣くの止めなよ。目ぇ腫らして行くつもり?」
「それは恥ずかしいな…ふふ」
手で目元を拭い、笑顔を溢したリエネを見て、ユミーナもまた頬を緩ませた。
「もう行くね。寝不足で迷惑かける訳には行かないから」
「…ちょい待ち。アタシもアンタに聞きたいことあるわ」
背を向け、扉に向け歩きだそうとしたリエネを、ユミーナが引き留めた。
「なに?」
「アンタはどうして──」
言葉を区切って逡巡し、少しの間の後、切り出した。
「どうして、あの子たちと一緒に行く気になったの?」
「…しばらく一緒にいて、私は他所の国や人のこと、何も知らないなと思った。もしかしたらその先に、ユミーナさんの理想があるのかもしれない、って」
「…そう。アンタに理解してもらえるように祈っとくわ。コレ、持ってきなさい」
ユミーナは後頭部に両手を回し、首飾りを外して差し出す。
「売ったらそれなりの額にはなるはずよ」
「え、でもコレって、代々受け継いで来たんじゃ…」
「っていうか前任から奪い取ってきた、ね。この座に就くまでは流れに従ったけど、アタシが奪われるまで持っとく義理はないわよ」
「気に入ってるからずっと着けてたんじゃないの?」
「…うっさい!いいから持ってく!」
ぐうの音も出なくなり怒鳴って誤魔化すユミーナの握られた手から吊るされる首飾りを、リエネはしっかりと握る。
「分かった、借りておく」
「…ん?」
流れにそぐわない返答に首を傾げるユミーナに、リエネは首飾りを着けながら答えた。
「帰ってきたら返すね」
「…好きに使いなさい」
「うん、ありがとう。…じゃあ行ってくるね、ユミーナさん」
「出発は明日でしょ」
「部屋を出たら、大王じゃないユミーナさんには挨拶できないでしょ?」
「…そうだったわね」
綺麗な意趣返しに、ユミーナは返す言葉を失った。
「頑張って来なさいよ、リエネ」
「うん、ユミーナさんも。…それじゃ」
リエネは力強く頷くと、身体を翻し、振り向かずに扉を明け、出ていった。
静かになった殺風景な部屋で、ユミーナは一人、脚を放って背もたれに思い切り体重を預け、ふぅ、と息を吐く。
──聞けなかった。
ねぇ、リエネ。
アタシにはアンタが分からないよ。
恨まれてるんだと思ってた。
満足に食べさせてあげることも出来ず、ひもじい思いをさせたアタシのことを。
幼いアンタがいくら泣いたって、訓練をやめさせなかったアタシのことを。
だからアタシが大王になった時に、その恨みを晴らそうと挑んできたんだ、って。
一瞬、殺されてあげてもいいかな、って思ったんだ。
もしアンタがアタシを殺したいほど恨んでるなら、それでアンタの気が晴れるなら。
でもきっとそうしたら、大王になったアンタを、他の誰かが殺しに来る。
私が終わらせなきゃ、って。
特別扱いは出来ない。
アタシがアンタに甘い顔をすれば、アンタも標的にされるだろうから。
意識して厳しくしないと、きっとアタシは隙を見せちゃうと思うから。
それでアンタの恨みを増幅させることになっても構わない、って。
この国を変えるまで、どれだけ恨みを増幅したって、何度だって返り討ちにして。
もうアタシやアンタみたいな子供が現れない国にするんだって。
なのにアンタは、あんな顔で笑ってくれるなら。
アンタのことだから、大王になりたい訳じゃないんでしょ?
ねぇリエネ。
「なんでアタシを襲ったの?」
見上げた無機質な天井は、何も答えてくれなかった。
そして翌朝──。
「おはよう、リエネ」
「おはようございます、ユミーナ様」
玉座の間でリエネが、大王ユミーナに跪いていた。
「早速だけど、皆様への伝言を預けます」
「かしこまりました」
その少し後、リエネはまずシェリルの部屋に訪れるも不在。
次いでリリニシアの部屋へ向かうも、同じく不在。
おそらくレピも既に起床していると睨み、スウォルの部屋に向かった。
「やはりここか」
「あ、おはようございます、リエネさ──あれ、その首のって…」
皆が口々に答える中、準備を中断し、同じく答えながら振り返ったシェリルは、昨日までなかった、しかし見覚えのある首飾りに気が付いた。
「ユミーナ様が着けていたものですか?」
「あぁ。金に困ったら売れと言われたが、旅を終えたらお返ししようと思ってる」
「お見掛けしたところ、かなり高価そうですものね…」
リリニシアはその輝きを値踏みするように、目を細めてマジマジと見つめた。
「ではそれを売らずに済むよう、資金の使い方には気を付けなければなりませんね。…見すぎですよリリニシア様」
そんな様子に、レピが呆れて言う。
「なっ、わ、ワタクシは別に欲しいなんて言ってませんわ!」
「僕もそこまで言ってません」
そんな中、起きて間もない様子のスウォルは、大きな欠伸をしながら顔をしかめた。
「朝から元気だなぁ…」
「そういう君は元気がなさそうだな。着替えもままならんくらいには」
一人だけ寝巻きのスウォルに、リエネも同じく呆れて笑う。
「っつーか俺の準備なんて着替えくらいしかねーですし」
「ユミーナ様にご挨拶するんですから寝癖くらい直しなさいな!みっともないですわよ!」
「あぁ、それなのですが──」
叱り飛ばすリリニシアを、リエネが少し気まずそうに抑える。
「ユミーナ様から伝言を預かっております」
「伝言ですの?なんでしょう」
「まず、馬車はそのまま使ってよいそうです」
「本当ですの!?助かりますわ!」
「次に挨拶は不要、食事を済ませたらそのまま出て構わない、とのことです」
「え?ど、どうしてですの?」
何か粗相があって気に触ったか、と戸惑うリリニシアに、リエネが続ける。
「出発の際、また民衆に囲まれてしまうことは容易に想像できます。なのでユミーナ様が演説を行い、民を引き付けておく、と。急な思い付きなので急ぎ準備をしており、ご挨拶する余裕がないようです」
「な、なるほど…」
「食事の準備が済んだ頃なので、私が皆様をお呼びに。ご準備は?」
リエネに尋ねられ、一行はそれぞれ互いの様子を確認し、その注目がスウォルに集まる中、シェリルが恥ずかしそうに答えた。
「…後はスウォルの着替えだけ、ですかね」
仲間たちに急かされ着替え、共に食事を済ませると、ユミーナの演説を背に、一行はこっそりとハリソノイア城を出発した。
お読みいただき、ありがとうございました。
温かいご感想は励みとして、ご批判・ご指摘・アドバイスなどは厳しい物であっても勉強として、それぞれありがたく受け取らせていただきますので、忌憚なくお寄せいただければ幸いです。
次回は7月14日20時にXでの先行公開を、15日20時に本公開を行う予定です。
~次回予告~
ユミーナが演説を振るい民衆の注意を引き付けたおかげで、騒ぎになることなく城を出発することに成功した一行。
スウォルの何気ない一言からユミーナの顔立ちの話になり、スウォル・レピの男性組とシェリル・リリニシアの女性組で小さな悶着を起こしている間、リエネは一人、どこか苦々しい表情を浮かべていた。
それから更に歩みを進め、ある夜、レピがリリニシアに魔術の手ほどきをしていると、休憩がてら雑談することに。
その中でリリニシアは、自らの胸中をレピに明かす。
次回「お姫様と魔術師」




