二人の勇者とお姫様
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーです。
謝辞以外にこれと言って前書きに書きたいこともないので、軽く前回のあらすじでも書いておきます。
25/4/9
二話と三話の境目を調整しました。
~前回のあらすじ~
「“千年前の勇者”が使っていた剣と盾を受け継ぐ」と予言されたのは、双子の姉弟、スウォルとシェリル。
本人たちも周囲も、「予言は二人のいずれかを指すものだ」と考えていたが、二人それぞれ、一つずつを受け継ぐことになってしまった。
それも、大人しいシェリルが剣、活発なスウォルが盾を。
「こっちじゃねぇだろ」の魂の叫びが響き渡った。
「なんと!二人で剣と盾を分かち合ったと言うのか!」
「はい…」
城に戻ったシェリルとスウォルは、王に跪きながら項垂れた。
「“新たな勇者が産まれ、千年前の勇者の武具を受け継ぎ魔王を討つ”…かの予言を受け、すぐに産まれたのがお主ら双子であった故、いずれか一方が勇者なのだとばかり思っておったが…よもや二人それぞれに、とは。それも──」
王は一度言葉を区切り目を細め、二人の背を、そこに収まる武具を、改めて見据える。
「シェリルが剣でスウォルが盾とは」
「…」
「お主らの気質を考えれば、逆の方が納得が行くと言うものだが」
「同感です…」
二人は落胆を隠さず、声を揃えた。
「…まぁその、なんだ。不服もあるやも知れんが、お主らが剣と盾に選ばれたことに違いはあるまい。故にその…げ、元気出せ?」
「はい…」
「…さて、では改めて、お主らに任務を言い渡す」
二人が纏う重々しい空気を払拭すべく、王は話題を変えた。
「無論、魔王を討ち、世界を救って欲しいというのが最大の目的だが…任せたいのはそれだけではない」
「というと?」
沈み込むスウォルと違い、未だ気は晴れないシェリルだが、気持ちを切り替え、尋ねた。
「お主らも知っての通り、およそ16年ほど前…お主らの誕生と時を同じくして、魔物が活発化しておる。千年前に勇者が討ったという魔王が復活した為だと考えられる」
「…」
「由々しき事態ではあるが…これは好機でもあるのだ」
「好機、ですか?」
魔物の活発化を好機と呼んだ王に、シェリルは首を傾げる。
「うむ。以来、人間同士の争いが減ったことは事実。特に、それまで我が“ヤクノサニユ王国”を含め近隣国に対し積極的に戦いを仕掛け、領土を拡大していた“ハリソノイア”が、魔物から自らの身を守ることで手一杯になっておる」
「ハリソノイア…最大の国土と武力を持つ、あの」
「左様。ワシはこれを、“魔物という共通の敵を持ち、人間が団結する好機”と捉えた」
「なるほど…」
「そこで、お主らに頼みたい。…そろそろ面をあげよ、スウォル。話聞いてた?」
「あ、はい、すいません。聞いてました」
本題に入る前に、スウォルの顔を上げさせると、改めて王は、真剣な表情を作った。
「お主らには各国を回り、和睦を打診する使者としての役割も任せたいのだ」
「和睦の、使者…ですか」
「これまではハリソノイアからの侵攻に対し、我ら近隣国は同盟を結び、対抗してきた。だが魔物の台頭により状況が変わった。その上ハリソノイアではつい先日下克上が起こり、統治者が交代したと聞く。この機を逃してはならぬ。…お主らを彼の地へ行かせたくはないのだが」
付け加えるように、しかし二人には聞き取れない程度の声量で、王はボソリと呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない。お主らはまず北上しハリソノイアに出向き、魔王討伐の協力を求めるのだ。そこから魔王を倒した先の、よりよい未来への糸口が開けるかも知れぬ。…ヤクノサニユ王、“ゼオラジム・ルベス・ヤクノサニユ”の名において命ずる。行け、二人の勇者たちよ!」
「はっ!」
王命を受けた二人が立ち上がり、まさに旅立とうとした瞬間、玉座の間に繋がる扉が勢いよく開かれ、ドタドタと豪快な足音が駆け込んできた。
「お邪魔しますわお祖父様~!!」
足音に似合わぬ美しい声が響き渡り、シェリルとスウォルは顔を背け、王は手で目を覆った。
「…何をしに来た、リリニシア」
「決まっているじゃあございませんの!…シェリルさん!スウォルさん!」
「はい…」
当然、顔を背けたくらいで逃れられるはずもなく、二人は即座に捕捉された。
「まずはお誕生日おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
リリニシアがペコリと頭を下げると、二人も釣られて頭を下げた。
「シェリルさん!」
「は、はい!」
名指しを受けたシェリルは背筋を伸ばし、スウォルは安堵のため息をつく。
「お二人が16のお誕生日を迎えられたということは、今日旅立ちになる…そういうことですわね?」
「まぁ、はい」
「スウォルさん!」
しかしながら姉だけて見逃して貰える訳もなく、あえなく餌食となった。
「はい…」
「ワタクシに声を掛けて下さらないなんて、水くさいじゃありませんか!」
「いえその、これからご挨拶に伺おうと──」
「お・さ・な・な・じ・み!!…であるこのワタクシに!黙って!!ねぇ!?」
「…すみません」
スウォルから謝罪の言葉を引き出し、ムフーと満足げに笑ったリリニシアは、言葉の矛先を変えた。
「お祖父様!!」
「な、なんだ」
「ワタクシもお二人に同行いたしますわ!」
「は?」
三人、声を揃えた。
真っ先に異を唱えたのは王だった。
「な…何を言っておるのだ!?自分の立場が分かっておるのか!?」
「さっきも言った通り、お二人の幼馴染みですわ!」
「そうではない!お前はヤクノサニユの王位継承者なのだぞ!?」
「あ、それも分かってますわ、うん。だいじょぶだいじょぶ」
“そんなついでみたいに”と言いたくなった二人だったが、出来るだけ巻き込まれたくないので黙ることにした。
「危険な旅だ!」
「そんな危険な旅に、お二人だけを行かせる訳には参りませんわね」
「…分かってくれ、リリニシア。お前まで失いたくはないのだ」
王は命じるのではなく、懇願するよう、声のトーンを落とした。
「もちろん、それも承知しております。お父様、お母様に続き、ワタクシまで魔物に殺されれば…王位を継げる者がいなくなってしまいますものね」
「そういう問題ではない!ワシは──」
「お祖父様」
しかしリリニシアは、そんな王の懇願を遮った。
「ワタクシ、外を──ヤクノサニユの外を、ほとんど知りません。そんな者が王位を継いで、国を、民を治められると思いますの?」
「…」
「“社会勉強”というものですわ、お祖父様。それにワタクシ──」
王から目線を外し、シェリル、スウォルと順番に目線を移す。
「この日の為に、初級程度ながら…魔術を修めておりますの!」
「え!?」
「魔術!?リリニシア様が!?」
黙っていたかった二人が、思わず驚嘆の声を漏らした。
「えぇ。お二人のお役に立ってみせますわよ!」
「それはすげぇ…ですけど。…ね、姉ちゃん」
「え、えぇと…。その、陛下…」
二人の反応に、満足げに胸を張ったリリニシアを前に、答えに窮した二人は、困ったように王に会話を投げ渡した。
「…お前は昔から、一度言い出すと聞かぬな。いったいどちらに似たのやら」
「さて、どうでしょう?お祖父様からかも知れませんわね?」
「…」
王は大きくため息をつく。
「シェリル、スウォル。リリニシアを…よろしく頼む」
「ふふん!」
「陛下!?」
「み、認めるんですか!?」
「この子の頑固さはお主らも知っておろう?ダメだと言っても勝手に抜け出し、着いていく姿が目に浮かぶわ」
「…あぁ~」
王の懸念を瞬時に理解出来てしまった二人は、それ以上の言葉を紡げなかった。
「ならば最初から、お主らに託す方がまだ安心出来るというものよ。本人の言う通り、魔術を扱えるのなら確かに役にも立つだろう」
「えぇ、苦労しましたもの」
「お主らが“要らぬ”と感じれば送り返してくれてよい。それならば納得するであろう?リリニシア」
「そんなことにはなりませんけれどね!」
「…という訳だ。済まぬが、リリニシアを任せる」
「マジかよ…。いやでも──」
「そーーーうと決まればシェリルさん!!」
既に諦めてしまった王をなんとか翻意させようとするスウォルの言葉を、リリニシアは高らかに遮った。
「は、はい!?」
「今から旅の準備、お手伝いくださる!?」
「え、今から!?あの──」
「忙しくなりますわよー!!」
抵抗空しく、シェリルはリリニシアに引きずられ、共に去っていった。
「はぁ…」
残された男二人のため息が、玉座の間を包み込む。
「…済まぬな、スウォル」
「いえ、まぁあの方なんで…」
王は孫娘の暴走を止められなかったことを詫びたが、幼馴染みとして付き合いの長いスウォルも、諦め半分、受け入れた。
「他にご用件がなければ、師匠や父さんのところに顔を出して来たいんですが。このまま待ってるのもアレですし」
「ふむ。あの子の身支度は長いからな…。よかろう、行くがよい。リリニシアたちと合流したら、こちらに戻らずそのまま出立して構わぬ」
「承知しました。では…行って参ります!」
スウォルは深く礼をすると、踵を返し、玉座の間を飛び出して行った。
「…さて、上手く行けばよいが」
スウォルが走り去っていく姿を見届けた王は、誰に聞かせるでもなく、難しい顔で呟いた。
お読みいただき、ありがとうございました。
この話が公開されるくらいのタイミングで、Xでは三話の冒頭を先行公開しているはずですので、よろしければそちらもご確認ください。
また、その三話は明日の20時に公開予定です。
~次回予告~
リリニシアの準備が済むまでの間、一人残されたスウォルは師の元へ挨拶に向かうことにした。
憎まれ口も叩きながら、挨拶もそこそこに、旅立の前に手合わせを行うことに。
スウォルの腕は、果たして師に通用するのだろうか。
次回「二人の勇者のお師匠様」