勇者一行と依頼の魔物
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みそすーぱーです。
~前回のあらすじ~
難航を予感しながらおずおずと“本題”、和睦を提案するリリニシアに対し、ユミーナは意外にもあっさりと参道を示す。
ただしそれは“個人”としてであり、“国”としてではないという。
国民を納得させる為、ユミーナは一行に国を脅かす強大な魔物の討伐を依頼した。
※25/5/25
あらすじの内容を訂正
翌朝、一行は再び玉座の間でユミーナ、そして隣に控えるリエネと、昨日はなかった卓を挟んで対峙していた。
「おはようございます。寝心地は如何でしたか?」
「おはようございます、大王様。持って帰りたい程に素晴らしい寝具でしたわ」
「そう言っていただけてよかったです!拘って作らせましたから!」
ヤクノサニユの姫君に拘りを認められてご満悦のユミーナは、挨拶を済ませると早速、大王直々の依頼についての説明を開始した。
「皆様にはこれより、ハリソノイア北東の防衛線に向かっていただきます。リエネ、皆様に地図を」
「はっ。こちらをご覧ください」
リエネは前に出て、手にした地図をテーブルに広げる。
「こちらが現在地、そして目標地点がこちらです」
「遠いな~…あ、やべっ」
思わずスウォルが声を漏らしてしまい、慌てて口に手を当てたが、ユミーナの耳にもしっかりと届いていた。
「そうなんですよね~。野蛮人しかいないのに土地だけは無駄に広くて」
「あ、あはは…」
日を跨いでも切れ味の衰えぬ自国虐に苦笑いを浮かべる一行に、リエネが続る。
「大王様から馬車をお貸しするとの事なので、移動の疲労はかなり軽減されるでしょう」
「馬車を?よろしいのですか?」
「はい!着いたけど疲れて戦えません、なんて言われても困りますので!」
「馬車かー!俺、馬車なんて初めて乗るぜ!」
シェリルの問いに、ユミーナは大きく頷き、ハキハキと答える。
初めての馬車に興奮気味のスウォルを諌めながら、レピはリエネに聞いた。
「落ち着いてください、スウォルくん。…この距離だと…片道で一月ほどでしょうか?」
「そんなところです」
「え゛、馬車でもそんなに掛かんの!?」
せっかくの興奮に水を刺されたスウォルが目を丸くする。
「というより馬車自体が、おそらくスウォルくんの考えている程速くはありません。馬の休憩などもあるので、短い距離ならともかく長距離となると、人が歩く速度と大差ありませんよ」
「なんだ、そうなのか…」
肩を落とすスウォルを見て、ユミーナは笑いながら何度も頷いた。
「分かりますよその気持ち。私も最初ガッカリしましたもん。あと道中、宿は無料で使ってもらって構いません。私にツケてください。…それからもう一つ、リエネもお貸しします」
「リエネさん?」
リリニシアがリエネに目線を移すと、当のリエネも驚いているようだった。
「わ、私ですか?」
「貴方です。リエネはこの国の…少なくとも、私に挑んできた者の中では最も強かったので、きっとお役に立つでしょう」
「リエネさんも、ユミーナ様に挑戦なさったんですか?」
決意こそしたものの、魔物を殺せ、という依頼に気落ちし、挨拶以外に喋らずにいたシェリルが口を開いた。
「あら?リエネは話してないんですか?私を大王の座から引きずり降ろそうと挑んできて、返り討ちにあった一人です」
「…」
「リエネ、貴方は準備をしてきなさい」
「…かしこまりました」
一瞬、ギリッ、と歯軋りを立て、しかしすぐに無表情に戻ると、一礼し、退室していった。
リエネの背を見送ったシェリルは、ユミーナに質問した。
「あの…ユミーナ様は、これまでどれだけ挑まれて…?」
「人数ですか?数えてないのでなんとも」
「…リエネさんは、ユミーナ様に忠実なのかと思っていました」
ユミーナはほんの一瞬、珍しく静かに考えるような顔を見せ、答えた。
「彼女が忠実なのは、私に対してではなく、この国に対してです」
「えと…?」
「私に挑み、敗れた。本来であれば負けた者は死にます。ですが勝者の私が殺さなかった。である以上、自分に逆らう権利はない。それがハリソノイアの流儀。…そんなところでしょう」
「…」
「愛しているんでしょうね、この国を」
ユミーナはふぅ、とため息をつき、続けた。
「ハリソノイアを尊ぶが故に、ハリソノイアの在り方を壊そうとしている私に従うより他ない。何故なら私も、ハリソノイアの流儀に従った上で壊そうとしているから。…皮肉な話ですね」
「リエネさん…」
シェリルはリエネが出ていった扉を眺め、呟いた。
次に質問したのはスウォルだった。
「あの、“本来は負けたら死ぬ”のに、なんでユミーナ様は殺さなかったんです?…あ、殺すべきと言いたい訳じゃないんですが」
「もったいないじゃないですか。生きてたら役に立つことがあるかも知れないのに、殺しちゃったらそれまでですよ?」
「も、もったいない、ですか」
「現にリエネなどは役に立ってくれていますし、正しかったと思っていますよ」
今度はレピが聞く。
「何故、同行させると彼女に話しておかなかったのです?」
「その方が面白い反応見れそうじゃないですか」
「…」
苦労してるんだろうなぁ、と、四人はリエネに同情した。
「失礼します。お待たせしました」
しばらくの後、準備を済ませたリエネが、玉座の間に戻った。
「戻りましたね。それでは改めて、ハリソノイア大王、ユミーナ・クオシャーより皆様に依頼します。北東の防衛線へ向かい、魔物を討伐してください」
「はい!」
「…の前に、朝食とって行きますよね?」
「…」
どこか緊張感のないやり取りの後、だが確かに腹は減るので食事をとり、街に出て必要な買い出しを済ませた後、五人はいよいよハリソノイア中央部を発った。
やはりこれまでと同じく、村、町での休息や夜営を挟み、目的地へと近付いていく。
その間も、やはりリエネが自ら喋ることはなく、聞かれれば最低限を答えるだけ。
一行も気遣い、彼女自身について深く追及することはなかった。
目的地に近付くに連れ騒がしくなっていき、前線に最も近い町では負傷者で溢れかえっていた。
町の傍らには戦死者の亡骸が並べられており、如何に過酷な戦いかを一行に叩き付けた。
この町から目的地は目と鼻の先。
負傷者に話を聞くと、現在魔物は現れておらず、備えているところだと言う。
一行は最後の休息をとり、翌朝出発することにして、宿に泊まり、眠りについた。
その夜、日が昇る前──。
「…ん?なに…?」
節約の必要もなくなり、女性だけの部屋で眠っていたシェリルは、寝惚けながらも微かに目を覚ます。
枕元に置いた剣が、輝き音を立てていたからだ。
「…これって?」
直後、地響きのような咆哮が響き渡った。
残る四人も一斉に目を覚まし、同時に確信した。
これが件の魔物であると。
五人が宿を飛び出すと、いつの間にやら雨が降っていた。
馬は咆哮にすっかり怯えてしまったようで、とても馬車を引かせられる状態ではなかった。
馬と馬車、荷物を宿屋に任せ、五人は雨の中、自らの足で戦場へ向かうことにした。
道中も咆哮は度々轟き、その度に人の悲鳴や怒号が聞こえるようになった。
まもなく息を切らせた一行が辿り着いた時、そこには──見上げる巨躯の怪物がいた。
大人の三倍はあろうかという身長。
牛のような頭で、二本足で直立している。
手足は太く強靭で、目は赤く輝いている。
口許には──腰を咥えられ、手足をバタバタと動かしながら助けを求めるハリソノイア兵。
彼の望みは叶うことなく、そのまま噛み千切られ、隔てられた上半身と下半身が地面に叩き付けられ、水溜まりを血に染めた。
コイツは殺さなければならない魔物であると、シェリルすらも瞬時に痛感した。
「町で聞いた情報と一致する。間違いないな…。生存者は退け!ヤツは我々が引き受ける!!」
リエネが背中の斧を握り、取り出しながら戦場のハリソノイア兵に叫ぶ。
「俺が前に出る!皆、殺されないことを最優先に動くんだ!!」
スウォルが剣を抜き、叫ぶ。
「人が…!こ…こんな怪物と、戦わなければならないんですの…!?」
「落ち着いてください、リリニシア様。私と貴方の魔術でヤツに隙を作らなければ」
怯えるリリニシアをレピが──自身も冷や汗をかきながら、それでも冷静に諭す。
「やらなきゃ…私が、守らなきゃ…!!」
シェリルは震えながら、しかし自分に言い聞かせ──とうとう、魔物を相手に剣を抜いた。
リエネの叫びで一行に気付いた魔物はゆっくりと首を向け、一行の姿を認めるともう一度、標的を定めたと言わんばかり、吼えた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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次回は5月19日20時にXでの先行公開を、20日20時に本公開を行う予定です。
~次回予告~
長旅の末、とうとうユミーナに討伐を依頼された、“強力な魔物”と対峙した一行。
これまで相手どってきた魔物とは比べ物にならない怪物を相手に、一行はどう戦うか。
そしてシェリルの“覚悟”は──。
次回「勇者一行の初めての大敵」




