予言と勇者の剣と盾
閲覧いただき、ありがとうございます。
みそすーぱーと申します。
ド頭からブチかますようなインパクトはありませんが、物語はじわじわと動き始めます。
しっかりとした一次創作は初めてということもあり拙い点、お見苦しい点、多々あるかとは思いますが、お付き合いいただければ幸いです。
「やむを得ん。奴らをこれ以上、増長させる訳にはいかぬ」
苦虫を噛み潰したような表情で、王は小さく呟いた。
「お言葉ですが、我々のこれまでの戦いはあくまで防衛の為。しかし──」
「分かっておる!…露見すれば奴らに戦争の大義名分を握らせることになる。それだけではない、同盟すら揺るがすことになり得る。そんなことは分かっておるのだ。なにせこれは──」
部下の反論を制した王は、躊躇うように一息吸い、細く、長く吐き出し、続けた。
「こちらからの侵略行為に他ならぬのだからな…」
「…」
「だが手を打つならば今を置いて他にあるまい。今を逃せば手遅れになる…」
「…仰る通りかと」
「村が国境のわずか向こう側でさえなければ…いや、故なきことか」
再び、少しの間を空けて、意を決して命じた。
「手段は問わぬ。隠密裏に、予言の赤子を奪うのだ」
──それから16年の月日が流れ、現在。
二人の少年・少女が、王の待つ城へ向け、歩みを進めていた。
少年は足取り軽く、跳ねるように。
少女は小さな歩幅で重々しく、引きずるように。
「姉ちゃん、モタモタすんなって!」
「なんで貴方はそんなに楽しそうなのよ…」
「楽しいからに決まってんじゃねぇか!なんせ──俺らのどっちが“予言の子”なのか、ようやくハッキリするんだからよ!」
少女を“姉”と呼んだ少年は立ち止まり、脚が進まず歩みの遅い姉に振り返り、目を輝かせた。
「私は興味ないってば…。予言は貴方のことよ、間違いないわ」
「張り合いがねぇなぁ~…。俺もそうであって欲しいけどさ。」
「…そもそも、予言が正しいかなんて分からないけどね」
「またそれだ。姉ちゃんそればっかじゃねぇか」
“弟”が顔を曇らせるも、姉は構わず続けた。
「私に言わせれば、“貴方は勇者の生まれ変わりかも知れません!”って言われて疑わない貴方がどうかしてるのよ」
「うわー、夢ねぇ~」
「…貴方、本当に16歳?」
「あぁ、今日からな」
「私、貴方と双子って時々信じられなくなるのよね…」
「でもよ、王様だってみんなだって信じてるんだぜ?」
「それは…そうだけど」
反撃に窮した姉を見て、弟は楽しそうに笑う。
「ま、行ってみりゃ分かんじゃねーか?ここでウダウダ言ってても、本当かどうかなんて分かんねーんだし」
「…分かったわよ、まったく」
「もし姉ちゃんのことでも、“約束”は守るぜ俺は」
「…私もよ。“予言が私のことじゃなかったら、全力で貴方を支える”わ」
「…へへっ。そんじゃ、さっさと行こうぜ!」
約束を確かめあった“弟”が再び前を向き駆け出すと、姉も観念したように、後を追いかけた。
少し後、王城。
たどり着いた姉弟が跪き、王との謁見に臨んでいた。
「陛下。シェリル・ドラベレアル、参りました」
「スウォル・ドラベレアル、同じく」
王は感慨深そうに、姉“シェリル”と弟“スウォル”を迎え入れた。
「うむ、二人とも面を挙げよ。…まずは、誕生日を祝おう」
「ありがとうございます」
二人が声を揃える。
「伝承に謳われる千年前の勇者は16で旅立ち、魔王を討ったという。お主らのようや子供に委ねねばならぬのは情けない話だが…時代の勇者に、この世界を託す」
「陛下、よろしいでしょうか」
王の言葉が途切れたのを見計らい、シェリルは口を開いた。
「申してみよ」
「予言では“勇者の生まれ変わりが現れる”とのことでしたが、ご存じの通り、我々は双子の姉弟です。いったいどちらがその“勇者”なのか、我々にも分からないのですが…」
「ふむ。判別する手段ならある」
黙って聞いていたスウォルが、驚きに声をあげた。
「本当ですか!?どうやって…!」
「この城の地下には、千年前の勇者が使っていたという“剣と盾”が眠っている。並みの者には触れることすら出来ぬ。だが…お主らのいずれかが、剣と盾を手にするのであろう」
「勇者の剣と盾…!かっけぇ!」
「スウォル!…失礼しました、陛下」
シェリルは王の眼前にも関わらず、大きな声ではしたない言葉を用いたスウォルを制する。
しかし王はカラカラと笑い飛ばした。
「よいシェリル。頼もしき若者よ。あまり長引かせるのもスウォルに気の毒だ、まずは剣と盾を取ってくるがよい。話はその後にしよう。…二人の案内を」
二人は立ち上がり王に一礼すると、案内係の後に続いて玉座の間を退出した。
「城の地下に、こんな洞窟が…。なんかジメジメしてる…」
「千年前に勇者が使ってた剣と盾かぁ…!どんな感じなんだろうな!?」
冷静に周囲を観察するシェリルと、“伝説との対面”を前に興奮を隠せないスウォルが案内係に連れられ、しばらく歩くと──
「こちらが、かつての勇者が使っていたという剣と盾です」
「うおおお…ぉお?」
封じられた伝説を前に、スウォルは歓声を──挙げるに挙げられなかった。
戸惑っているスウォルを尻目に、シェリルは案内係に問うた。
「剣と盾っていうか…サビついてるどころか、朽ち果ててませんか?これ…」
「陛下の仰っていた通り、千年前の勇者が使っていた物であり、これまで誰一人として触れることも出来ませんでした。つまり──」
「…手入れも出来てない、と」
「ご明察です」
「触れないというのは?」
「お見せしましょう」
シェリルの疑問を受け、案内係が剣の柄に手を伸ばす。
まもなく指が触れるかというところで、大きくバチィッと音が鳴り、案内係の手が弾き飛ばされた。
「…こういうことです」
「本当に触れないんだ…。痛いんですか?」
「えぇ、それなりに」
案内係は紛らわせるように軽く手を振りながら答えた。
その様を見たスウォルは、“朽ち果ててはいてもタダの剣や盾じゃない”と確信し、再び興奮した様子で身を乗り出す。
「俺から試していいか!?」
「えぇ、取っちゃって」
シェリルの同意を貰うよりも速く、スウォルは手を伸ばし始めていた。
まもなく剣に──バチィッ。
スウォルの手を弾く音が、洞窟内に木霊した。
「いってぇ!?…マジかよ!?じゃ…姉ちゃんが予言の!?」
「嘘でしょ?勇者になんてなりたくないんだけど…」
「…と、とりあえず姉ちゃんも試してみてくれよ」
「そ、そうね…。予言が外れて、私も触れなかったりするかも知れないし…」
シェリルも恐る恐る剣に手を伸ばし剣の柄を…確かに握り締めた。
「…さわ、れた」
「ま…マジかよ…!じゃあ本当に姉ちゃんが…!」
「…」
複雑そうな表情のシェリルが、ショックを受けているスウォルを見つめながら、握った剣を台座から抜いた瞬間──剣はまばゆい閃光を放った。
「きゃ!?な、なに!?」
「まぶしっ…姉ちゃん!?」
少しの間を置き、輝きが収まると──朽ち果てていたはずの剣は、新品同然の輝きを見せていた。
「嘘!?どうして!?さっきまで…!」
「…こんなん見せられちゃあ、な」
「スウォル?」
困惑しているシェリルと対照的に、スウォルは落ち着いていた。
「やっぱ本物なんだよ、それ。…姉ちゃんが予言の勇者ってのも」
「…」
「…約束だからな。俺は勇者シェリルを全力で支える。…考えてみたら、それもかっけぇよな!」
「スウォル…」
「さ、ちゃっちゃと盾も取っちゃってくれよ。王様に報告しようぜ!」
「…うん、そうね」
弟の精一杯の気遣いを受け、下手な慰めは逆効果と考えたシェリルは、残る盾にも手を伸ばした。
バチィッ。
「痛っ!?えっ!?…は?」
弾き飛ばされた手を見つめ、そのままスウォルに視線を移す。
「…え?姉ちゃん?」
「いや、え?どういうこと?」
「ど、どういうことって言われても…?」
「私今、思いっきり油断してたんだけど?」
「それも知らんよ…」
頭にハテナを浮かべながら数秒見つめあった後、シェリルが静寂を切り裂いた。
「…スウォル、盾触ってみて」
「…いやいや、まさかだろ」
「いいから、やってみて」
「…」
シェリルに従い、しぶしぶ伸ばされたスウォルの指は、弾かれることなく盾に触れた。
「…マジかよ」
「これは…」
案内係が呟いた。
シェリルは冷静に指示を続ける。
「そのまま持ち上げて。たぶん光るわよ」
「…」
無言で頷き、先程の剣と同じ閃光を覚悟して、同じように台座から取り外すと、やはり同じように光を放ち、新品同然の姿を見せた。
「姉ちゃん、これって…」
「私一人でもスウォル一人でもなく、二人ではじめて“予言の子”…ってこと、でしょうね」
「…」
無言でお互いの武具を見つめた後、わなわなと肩を震わせる。
「どっちかしか手に入んねぇなら──」
「どちらか持たなきゃいけないなら──」
「なんで剣じゃねぇんだよ!!」
「盾の方がマシじゃない!!」
二人の叫びが、洞窟に響き渡った。
第一話をお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見・ご感想などいただけますと、大変励みにな(るような気がしてお)りますので、お手間でなければお寄せいただけると、更にありがたく存じます。
本作は五話まで毎日、以降は週に一回ペースでの更新を目指しております。
二話以降もお付き合いいただければ幸いです。
また、人力なので多少の誤差はあるかと思いますが、本作の公開と同じタイミングで、Xにて第二話の冒頭を(忘れていなければ)先行公開しております。
ユーザーページにリンクがございますので、よろしければご確認ください。
といったご挨拶だけで終わるのもアレなので、次回予告でもしておきます。
~次回予告~
ガッカリと肩を落としながら、洞窟での顛末を王に話す二人。
シェリルが剣、スウォルが盾を継いだことに驚きながらも、二人に改めて使命を課す。
話もまとまり、いざ出発!…というところに乱入してきたのは…。
次回「二人の勇者とお姫様」