5
奈々ちゃんの用意ができたので、俺たちは二人仲良く並んで家を出た。
11月も終わりに近づき、外はかなり寒かった。
「…で、どこにいく?」
「えっと…映画とか?」
「映画かぁ。久しぶりだね。
今、なんかおもしろいアクションものでもやってるの?」
「…………ラブストーリー」
ブッ
俺は吹き出した。
「ラブストーリーとか、奈々ちゃん絶対寝ちゃうでしょ。
…どうしたの?
今日はなんか変じゃない?」
「だって………。
初めてのデートだし………」
あ!
そう言われて、俺はやっとピンときた。
我ながら、鈍いにも程がある。
なるほど。
これはデートなのか。
そう言われてみれば確かに、付き合ってる二人が出かけるんだから、デートだよね。
もしかして…奈々ちゃんは、俺との初めてのデートだから気合い入れてたの?
だから、慣れないスカート履いたり、映画に行こうとか言い出したんだ…。
………かわいい。
奈々ちゃんがそんな女の子っぽいことを考えていたなんて、感動すら覚える。
俺は、奈々ちゃんが今日の服を選んでるところを想像して、ちょっと笑ってしまった。
きっと、俺のためにかなり頑張って着てくれたんだろうな…。
奈々ちゃんのこういうとこが、かわいいんだよね…。
胸の中がざわざわしてキュンとなる。
あ~…ちょっと…タイム。
俺は深呼吸を繰り返して、乱れまくった心を落ち着けた。
……しかし、奈々ちゃんがラブストーリー…
前に一度見に行ったら、彼女は横でぐっすり寝ていた。
俺は、その話にすごく感動したんだけど…。
「…別に、無理してラブストーリー見ることないんだよ?
デートだって、二人がしたいことをすればいいんだから」
「そうなの?
じゃあ、本屋で立ち読みとか、マックでお昼食べたりとか、ゲーセンとかでも…いいの?」
「もちろん。
でも、それだと本当にいつもと一緒だね」
奈々ちゃんらしくて俺はつい笑ってしまった。
「そうだね…。」
でも、奈々ちゃんはしゅんとしてしまう。
俺は、奈々ちゃんを元気づけたくて、彼女の手をとって自分の指を絡ませた。
いわゆる、恋人つなぎってやつだ。
「でもこれは、幼なじみじゃやらないよね。」
奈々ちゃんの手をぎゅっと握って笑いかける。
奈々ちゃんはちょっと赤くなって、俺の手をきゅっと握り返すと、まるで花がパッと咲いたように、とっても嬉しそうに笑った。
だから…そのかわいさは、反則だから…。
マジで、勘弁してほしい。
今日の奈々ちゃんは、いつもより素直で女の子っぽくて、こっちはかなり心臓に悪い。
俺は、いつも元気な奈々ちゃんが大好きだけど、時々こういう女の子っぽいしぐさをする奈々ちゃんに、どうしようもなく胸がキュンとしてしまうんだ。
手をつないだのも、小学校以来…。
奈々ちゃんの手って、こんなに小さかったっけ。
それに、なんかやわらかい。
いくら幼なじみでいつも一緒にいるといっても、今までは片思いだと思っていたから一線引いていた部分があった。
だけど今は、それも簡単に飛び越えられる。
俺たち、恋人同士なんだよね…。
手をつないで、はっきりと実感する。
行く場所はいつもと同じなんだけど、なんだか色んなことが一々新鮮で、おかげで、朝から俺の心臓は高鳴りっぱなしだ。
「今日、かわいいね。
デートだからおしゃれしたの?」
「うん……。
でも、ズボンにすれば良かったかな…。」
奈々ちゃんは落ち着かないようだ。
「俺は…、スカートの方が好きかなぁ。
かわいくて。
いつもの奈々ちゃんも、もちろん大好きだけどね」
そう言うと、奈々ちゃんは、ちょっぴり照れくさそうに笑った。
顔にあたる風は冷たかったけど、繋いだ手から奈々ちゃんの温もりが伝わってきて、俺の心はほかほかと温かかった。