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「それよりさ、そろそろ起きて着替えたら。
今日どっか行きたいって言ってなかった?」
「…うん。今何時?」
「え~っと…8時半」
「ん。起きる」
いつもならここで俺は部屋を出ていく。
だけど、今日はそうしなかった。
「………………?
先に下で待ってて?」
「なんで?」
「着替えるから」
「うん。
着替えていいよ?」
「………………」
なかなか出て行かない俺に彼女がじれる。
「だから、着替えるんだから出てってってば!」
「俺たち昨日から、恋人同士だよね?」
「………だから?」
「………だめ?」
「だめに決まってるでしょ!
恋人でも幼なじみでも、着替えのときはだめ!
早く出てって~!」
う~ん。
いくらおバカな奈々ちゃんでも、こんな手には引っかからないかぁ。
あんまり苛めるとさすがに後が怖いので、俺は仕方なくリビングのソファーに座ってテレビを見ながら待つことにした。
キッチンで朝ご飯を作っていたおばさんが、お茶を煎れてくれる。
「今日はどこかに出かけるの?」
「うん。奈々ちゃんがどっか行きたいみたいで」
「あの子、休みの日まで央ちゃんにくっついてて、ごめんね~。
央ちゃん彼女も作れないわよね~。」
「………大丈夫だよ。
奈々ちゃんは大切な幼なじみだから」
「そう言ってくれると安心だわ。
あの子は昔から、央ちゃん大好きだもんね」
「ははは…」
俺は笑って軽く流しながら、今の言葉を反芻する。
…そうなのか。
そんな話をきくと、勝手に頬が弛んできてしまう。
でも、奈々ちゃん、まだおばさんに俺たちがつき合ってること言ってないんだな…。
まあ、昨日の今日だしね。
俺から言うのも微妙だと思ったので、この場は適当におばさんの話に合わせることにした。