第59話 国境越え
フォルテ達は、国境を越えて《トリトニア》に入った。
最後の町から国境にたどり着くまでに馬車がスタックしてしまうというトラブルがあったが、ケミーニアの魔法によって雪を溶かし、フォルテの錬金術によって地面から水分を抜いて盛り上げる事で難なく脱出して国境まで辿り着いた。
その後は、連絡がいっていた為にスムーズに国境を越えて、今はトリトニアの王都に向かっている所である。
トラブルが起こらないように国王が色々としてくれているので、まずは海産物を食べに海に! という訳にはいかないのである。
と、フォルテはケミーニアに説得された。
国境を越えてトリトニアに入ったからといって、急に海の匂いがするはずもなく、雪が降る中、ひたすらに馬車は進む。
もちろん一日で王都に着く訳ではないので、途中の町による事になる。
「待ち遠しいな。早く海産物が食べたい! 刺身、天ぷら、フライ、漬け! ああ、米が何故ないのか!」
「フォルテ様はそればっかりですね。聞いたことの無い調理法ばかりですが」
「楽しみですね! フォルテ様が言うなら美味しいのでしょう!」
「間違いない、俺はフォルテが美味しいって言う物ならなんでも食べられるぜ!」
馬車の中でテンション高く騒ぐ3人を御者を務めるヤコブが微笑ましく見守っている。
「しかしヤコブ、それの調子は大丈夫か?」
「はい!これのおかげで外にいてもポカポカです!」
雪の中を走るフォルテ達の馬車はこれまでと違って風貌が様変わりしている。
まずは煙突がついて、中では小さな暖炉が置かれて、馬車内は暖かく保たれている。
その暖炉の熱を使い、水を温めてヤコブの座る御者台の座面と背もたれを循環させ、ヒートシーターの役割を果たしている。
そしてヤコブの着るコートにも同じようにホースが繋がれており、コートの中は炬燵のようにポカポカである。
手袋には袋のような機構が設けられており、鉄粉を利用したカイロの役割を果たしている。
低温やけどの心配があるが、その手袋の下に薄手の手袋を挟んだり、衣服も分厚めなので、程よい暖かさで低温やけどが起こらないように配慮してある。
ちなみにヤコブとの会話は、小さな小窓を作ってある。
一酸化炭素中毒の配慮の為にも、換気も必要である。
馬車の中に暖炉を設置した事で、馬車の中には良い香りが漂っている。
暖炉の上でじゃがいもを焼いているのだ。
「ほんとに、このじゃがバターは最高です! 俺はこのじゃがバターを知らずにじゃがいもで死ぬ所だったなんて、フォルテ様に感謝してもしきれません!」
レイアは空腹の末に初めて食べだ蒸し焼きじゃがいもの味が忘れられないのか、そのグレードアップともいえるじゃがバターが好物になっている。
「だがな、レイア、じゃがバターはまだ美味しくなるんだぞ?」
「すぐやりましょう!」
「まぁまて。今はできない。じゃがバターに海産物をトッピングすると何倍にも美味しくなるんだ。 明太子じゃがバターとか、イカの塩辛じゃがバターとかな」
「明太子、イカの塩辛……」
フォルテの言葉に、レイアは口に溢れた涎を飲み込んだ。
「「はやく海産物が食べたいです!」」
レイアとケミーニアの願望の声が重なった。
御者のヤコブは、馬車内の楽しそうな会話をBGMに、小窓から渡してもらった熱々のじゃがバターを口に運ぶ。
ハフハフと口の中で冷ましながら、ホクホクとしたじゃがいもの暖かさとバターの塩味が体に染み渡る。
「あ、街の明かりが見えましたよ?」
馬車の中で歓喜の声が聞こえる中、ヤコブも今たいらげたじゃがバターにどんなトッピングがされるのかを楽しみに顔を綻ばせるのであった。




