第58話 お供の飲み物
コロッケのサクッとした食感の中からトロッとしたグラタンソースが溢れる。
パンの食感は少し硬めだが、口の中でグラタンソースと一緒に噛むことでしんなりと美味しく食べられる。
飽きないように、濃厚なグラタンソースをさっぱりとさせてくれるみずみずしいキャベツのシャキシャキ感。
かかっている所で、味の変化をもたらせてくれるウスターソースとマヨネーズ。
お昼ご飯に、グラタンコロッケバーガーに齧り付いた一同は言葉を失った。
そして、静まり返った部屋に、ズズズと飲み物を啜る音が聞こえた。
グラタンコロッケバーガーに合わせてフォルテが無理矢理錬金術で作ったのは口の中をさっぱりとさせてくれる炭酸の飲み物。
《ジンジャーエール》である。
無理矢理作ったのはいつもの如く炭酸水で、素となるジンジャーシロップは砂糖とシナモン、生姜を煮出して作った自家製である。
しかし、果実水以外の、甘い炭酸ジュースという物を飲んだ事がなかった面々は、微炭酸の喉越しも相まって一気に飲み干して、ストローで音を出してしまったのである。
「グラコロバーガーが美味しいのは分かりきっていましたが、この飲み物は素晴らしいです! フォルテ様!」
空になったコップをまるで聖杯のように掲げてケミーニアが言った。
「ケミーニア様、反対の手のグラコロバーガーが落ちてしまいますよ」
「わわ!」
ケミーニアは、レイアに指摘されて慌ててコップを置いて、溢れそうになったマカロニに齧り付いた。
「この炭酸水という物がフォルテ様がいないと作れないのが悔やまれますね」
フォルテが国王やヤコブに聞いた所、この国では炭酸水や弾ける水といった物は聞かないらしい。
あったとしても、流通させる程の管理体制は無理であろう。
王都に運ぶまでに気が抜けてしまう。
ジンジャーシロップを注いで、炭酸で割って一回し。
ジンジャーエールをおかわりして、食事の時間は楽しく続く。
皆が食事を楽しんでいる時、来客があってメゾンが席を立った。
メゾンが戻ってくると、来客は伝令だったと伝えてくれる。
「吹雪があけて、道が通れるようになったようです。隣の国から通行許可の伝令も来ておりますので準備ができ次第向かってもらえます。 ただ、急ぎませんとまた天候が悪くなる恐れがあります」
「ありがとう。すぐに向かうぞ!」
フォルテは、席を立って宣言した。
「フォルテ様、食事が終わってからでも?」
「勿論だ! 食事を残していくなどあり得ない! しかし、冬の海だ。冬の海には奴がいる。人々の言葉を奪う魔性の食材、蟹だ!」
「カニですか? 聞いた事がありません」
フォルテの言葉に、ヤコブは興味深そうに答える。
「多分フォルテ様の言葉だから現地では違う言葉ですよ。でも、楽しみですね!」
冷静に分析しながらレイアが目を輝かせている。
ケミーニアは、その話よりも今はグラコロバーガーに夢中で、早く食べなくてわと口いっぱいにほうばって幸せそうな顔である。
「海はそれ以外にも食材の宝庫だ。楽しみだな!」
「「はい!」」
楽しそうに話すフォルテ達をみながら、この数日間を振り返り、皆で囲む食卓が終わる事に寂しさを覚えるメゾンは先程よりも大切そうにグラコロバーガーの一口を噛みしめる。
食事が終わって準備が整ったら、フォルテ達は隣国に向けて出発するのであった。




