第54話 温かいスープ
メープルシロップも確保できたので、ログハウスを解体して旅を再開した。
次の行き先は、ついに海に向かう事にした。
予定を変更して、ケミーニアの街の視察を延期してまで他国に行かなければいけない海に行こうとしているのには理由がある。
それは、海の幸が恋しいというのは勿論だが、パンケーキを作って、やはりたまには甘味が欲しいと感じてしまったのだ。
なので、ベーキングパウダーと言わずともせめて重曹が欲しい。
重曹を作るのに必要なのは海水である。
電気分解などの工程は錬金術で解決してしまえばいい。
後々、この海のある隣国とは取引のために国交を強化しなければならないだろうから、重曹を作る技術も伝わればいいなと思ったりする。
ログハウスで過ごす間に、ケミーニアが鳥を飛ばし、国王に連絡を取って行き先の変更を伝えていた。
ヤコブの一年のタイムリミットの間に絶杯に行きたい場所ではあるし、国王から隣国に連絡を入れてもらえるので、隣国であろうとトラブルは少なく旅ができるであろう。
フォルテ達の乗る馬車は、雪の積もる森を抜けて、真っ白な平原を走る。
こんな時に走る馬車は少ないのか、轍もない道をゆっくりと進む。
この雪の中を進めるのはフォルテが鍋や鉄板に使っている鉄を使って馬車の車輪にチェーンを付けたからである。
料理に使う鉄を地面に使ったらもう鍋や鉄板に使えない。という訳はなく、そもそもこの鉄は馬車の装備として雨曝しである。
フォルテが錬金術で錬成する度に鉄の変化に必要のない汚れは無くなるし、殺菌にもなる。
それに酸化鉄も還元されるので、雨曝しでも錆を気にしなくていい。
まったく、錬金術は便利である。
習得には数百年かかるが、それだけの価値がかる。
白い雪の上に轍を作りながら走る馬車を操るヤコブに、フォルテは温かい飲み物を渡す。
これも、錬金術であると言いたいが、これはケミーニアの魔法だ。
ケミーニアは錬金術は使えないが魔法を使いこなす。なので飲み物を温めるのはケミーニアの役目だ。
「フォルテ様、このスープは温まりますね」
「それはじゃがいものポタージュだ。裏漉しとか少し手間がかかるがなめらかで美味いだろ?」
「はい!」
じゃがいものポタージュはログハウスで仕込んでおいた者だ。
じゃがいもを潰すだけでも美味しくできるが、せっかくだから裏漉しのやり方を教える為に丁寧に作った。
フォルテの前世なら玉ねぎを炒めてじゃがいもと共にミキサーにかけ、コンソメスープと共に煮込んだ後に塩胡椒で味を整えるだけの簡単なスープであるが、作り方をこだわればより上品になる。
それに、この世界にはコンソメキューブなど無いのだ。
コンソメスープを作る間に裏漉しの工程はできてしまう。
なら、美味しい方がいいとフォルテは時間をかけた。
ヤコブに渡した後に、自分の分もカップに注いで口に運ぶ。
コンソメの風味とじゃがいものなめらかな舌触り。スープよりも少し粘度のあるポタージュの方がこの寒さには嬉しい。
日が落ちてさらに冷え込む前に宿のある街まで行っておきたい。
しかし雪道の為、焦らず、ゆっくりと馬車は進んで行くのであった。




