第48話 責任
「どうだ、美味いだろう?」
フォルテは、自分の分の豚の生姜焼きを持ってレイアに話しかけた。
「最高だ。昨日のお肉も美味しかったけど、同じ肉でも全然違うんだな」
レイアの顔は緩み切って、ほっぺたが落ちると言う表現がよく似合う。
牛と豚の違いや部位の違いもあるだろうが、今はそんな事を言う必要もないだろう。
それよりも、フォルテは自分の食事である。
レイアの隣に座って、フォルテも豚の生姜焼きを口に運ぶ。
醤油ダレのあまじょっぱさと、生姜のピリッとした辛味が見事にマッチしている。
個人的な楽しみ方としては、マヨネーズをかけたりするのも好きだが、今日は料理そのものの味を楽しもう。
本来なら、この後に米を口の中にかき込みたいのだが、この世界でまだ米に出会っていないので、無いものは仕方がない。
フォルテは握り拳にギュッと力を入れて我慢をした。
「こんなにも美味しい物を食べたら明日からが心配になる。みんな、明日からはまたじゃがいも生活なのに」
レイアの言葉に、フォルテはにやりと笑った。
「それは大丈夫だ。明日からはこの孤児院は醤油味噌醸造所へと姿を変える。ちょうど領主は交代になるだろうし、国王に言って新しい領主は融通のきくやつをあてがってもらおう。この国に醤油味噌を作る場所をと言えば許可は降りるだろう。そうなれば、ここは立派な会社になって、福利厚生として食事を出すようにしよう。初めは教えなければいけないが、調味料について知るにはいい経験にもなるだろう」
「そっか。そこまで考えてくれているなら安心して私はこの街を出られるな」
フォルテの話を聞いて、レイアは安心さしたように笑った。
「何を言っている、お前もやる事はあるぞ?」
「は? 俺はお前について行かなくちゃいけないだろ?」
「ん? どうしてだ?」
フォルテとレイアの話しが噛み合わないのを察したヤコブがやって来て口を挟んだ。
「フォルテ様、フォルテ様はこの娘と風呂に入られました。そうなると、この娘はフォルテ様のお手つきになるか、娼婦に落ちるかの2択になってくるのです」
ヤコブの話では、成人を迎えた女性が一緒に風呂に入ったともなれば契りを交わす他ない。
もし男に迎えられなければ、穢れた女として差別を受け、娼婦になるしか道がないのだとか。
フォルテの前世の常識からすればレイアなどまだ子供なのだが、この世界で孤児院を出るのは成人したからだ。
レイアの扱いは成人女性という事になる。
そもそも、同意無しに契りだのと言う話もバカみたいな話だが、この世界での常識なのだから仕方がない。
一緒に風呂に入ったといっても頭を洗っただけなのだが、周りから見れば風呂に入って頭を、洗うだけで済むはずがないと言う事なのである。
その事実にフォルテは頭を抱えた。
この醤油味噌醸造所はレイアをリーダーに据えて稼働させる計画だったので、話を練り直さなければならない。
レイアとの契りの話よりも醤油と味噌の方が心配であるのがフォルテである。
そもそも契りと言うが、レイアは人間でフォルテはエルフ、それもハイエルフである。
時の流れが違うので結婚などという話にはならないと思っている。
いずれ、旅をして遠くに行けば、この事を知らないいい男がレイアに惚れ、アピールするだろう。
そうなるまでどこかに連れてってやればいいだけの話だとフォルテは楽観的にかんがえているのもある。
この話は仕方がないので、今回の食事に1番興味を持っていた信者の女性をリーダーに据えて、醤油味噌醸造所を作っていく事に計画を変更する。
皆の食事が終わった後は、信者と孤児達に今後の話、この場所を醤油味噌醸造家にして皆を雇う事を話し、今日はジャガイモの横で醤油と味噌の材料である豆を作る作業を教える事にする。
じゃがいも畑に移動する前に、フォルテはケミーニアが国王へ連絡するであろう話に口を挟み、この街の新領主と醤油味噌醸造所の話の許可をとる事を連絡に加えてもらうのであった。




