第41話 食堂の料理
全員が風呂から上がったので、食堂に向かう事にする。
いい宿屋だからか、そこいらの宿のように客同士の間隔が狭くすし詰めの状態ではなく、ゆとりのあるテーブル席であった。
フォルテ達は、受付にいた女性に席まで案内され、テーブルに座ると、料理が出て来るのを待った。
どうやら、メニューは一つしかないらしく、注文はドリンクが果実水か酒で選べるだけであった。
フォルテとヤコブは酒、ケミーニアとレイアは果実水を注文して料理が来るのを待った。
少しした後、運ばれてきたのは分厚いステーキであった。
「なるほど、ステーキか」
ケミーニアはまだ焼いた肉の塊を食べた事がなかったので、おっかなびっくり、レイアは、人生で出会うはずのなかった食事に目が釘付けになっている。
「では、いただこうか」
「「「いただきます!」」」
「い、いただきます?」
レイアはフォルテ様が皆手を合わせて挨拶をしたのを見て、貴族の間ではそれが礼儀なのだろう真似をした。
その後、ケミーニアとレイアがどうやって食べようかと悩んでいるのを見て、フォルテは2人に声をかけた。
「ステーキはな、利き手にナイフ、反対にフォークを持って、食べる範囲にフォークを刺し、ナイフで切り取ってフォークに刺さった肉をそのまま口に運ぶんだ」
フォルテが説明をしながら切り取った肉を口に運んだ。
溢れる肉汁に旨みが凝縮されており、塩胡椒もケチらずにしっかりと使ってある。
ただの脂身ではなく、ヒレ肉のような柔らかさのある赤身といった肉の味をしっかりと楽しめる。
「いい肉だ。だが、それだけに、惜しいな」
「「「え?」」」
フォルテの真似をして口に肉を運び、肉の旨さに目を輝かせていたケミーニアとレイアはもちろん、前国王にお出しする肉を見てきたヤコブもフォルテの反応に驚いた様子である。
「エルフ様にはこの肉の旨さが分からないのか?それとも俺に文句でもつけようってか?」
フォルテの声を聞いていたのか、静かな食堂に厨房から料理人が現れた。
勿論、フォルテの言葉に怒っている様子である。
「すまない。とても美味しい肉だと思うし、塩や胡椒もケチらずにしっかりとかかっている。だが、この肉はただ焼いただけだ。途中で休ませたりはしていないだろう?」
「肉を、」「「休ませるぅ?」」
ヤコブと料理人の声が重なった。
「フォルテ様、肉を休ませるとはどう言う事でしょうか?」
ヤコブの質問に、料理人は怪訝な顔をしながらも、気になるのか口を挟まずにフォルテの回答をまった。
「この肉は切っただけで肉汁が流れてしまっているだろう? 肉を休ませる事でこの肉汁は肉の繊維の中に吸収される。肉を美味しく食べる為にはいい肉を用意するだけではなく、焼き方も重要だ」
「あんたにはそれができるってのか?」
「ああ。どうだ、気になるか?」
フォルテの言葉に料理人は息を呑んだ。
この肉をもっと上手く食べる方法がある。
肉にこだわって宿をしている店主として、是非とも知りたい知識であった。
料理人はフォルテの質問にゆっくりと頷いた。
「では、少し待っていろ。お前の焼いた肉も十分に美味しい。これを食べ終わった後に、しっかりと教えてやる。そうだ、お前達も比べる為にしっかりと舌で肉の味を覚えておくんだぞ」
料理人を待たせながら、フォルテ達は食事を楽しむのであった。




