第25話 成功
気を失っていたケミーニアが目を覚ますと、部屋に描かれていた錬成陣は綺麗に消えていた。
「起きたか。無事に成功したぞ」
ケミーニアの寝るベッドに腰掛けていたフォルテがそう話しかけた。
「特に不調が残るといった事はないのですね」
ケミーニアは寝た状態から上半身を起こすと、自分の体の感覚を確認するように手を握ったり開いたりしながらそう呟いた。
「不調が残る位失敗していればそもそも起きる事はないぞ?」
フォルテはクツクツと笑ってそれに答えた。
人体錬成で、体の中をいじくり回しているのだ。もしも不具合が残ればその臓器は機能せず、2度と目覚める事は無いだろう。
フォルテは自らの体を弄る為に人体錬成の研究をしたので死者蘇生はできない。
「あれ、でもなんか、これは……匂い?」
「不調ではないがな、食事をちゃんと取らない為に退化した嗅覚も、人と同じように感じるようになっている。食を楽しむ為には嗅覚も大切なのだ」
ケミーニアはフォルテの説明を聞いてゆっくりと頷いた。
匂いに敏感になっただけで、その重要性は今は特に分からない。
ただフォルテが言うのだから重要なのだろうと思う程度である。
とここで、ケミーニアは今まで感じたことの無い感覚に気づいた。
無音の部屋に「ぐ〜〜〜」と大きな音が響いた。
「腹が、鳴いた?」
ケミーニアが驚いて自らの腹を見たりさすったりした。
それに、どこか気持ち悪いようななんとも言えない不思議な感覚が腹の上のあたりに感じる。
「その腹の音はな、空腹のサインだ。今は錬成直後で胃には何も入っていないからな、身体が食事を求めているのだ。 俺の時はその辺の鹿を食べたが、今回はちゃんとした食事がある。それは幸せな事だぞ。早く服を着ろ、食事をしに行くからな!」
ケミーニアは錬成の為、下着姿である。
そのまま食堂に戻るわけには行かないので服を着るようにフォルテは言った。
ケミーニアが服を着る姿が、少しソワソワと焦っているようであり、シャツのボタンをはめるのに少し戸惑っていた。
準備が整って、食堂へ向かい、扉の前にやって来た。
「では、入るぞ?」
「はい!」
フォルテに着いて食堂に入るかケミーニアは、ドアを開けて食堂に入った瞬間、人生で今まで感じたことの無い匂いに脳を揺さぶられるのであった。




