第23話 欲望
「フォルテ様、私もフォルテ様のように色々な物を食べられるようになれますか?」
王族やフォルテ達の食事風景を見ていたケミーニアから、フォルテに質問があった。
「どうした?お前も食事に興味を持ったか?」
取り皿に焼きうどんを取り分けていたフォルテが、手を止めてケミーニアに質問を返した。
「正直、私には食事というものをしたいと言う意思はありません。人が言うようなお腹が空いたと言う感覚も分からないのですから」
エルフの食事は犬や猫などの動物が草を食べて胃の中を掃除する行為に近い為、食欲を満たすと言う欲求はない。
「ならなぜ?」
フォルテは前世の記憶があったから食事を欲した。
ケミーニアがどうしてフォルテのように体を作り変えてまで食事をしたいと思ったのか。
ケミーニアが何故そう思ったのかにフォルテは興味がわいた。
「私が《フロスト》の名前を貰ってまで人の営みに興味を持ったからです。 エルフとは違い、支え合い、笑い合い、喜び合う姿をとても嬉しい尊いものだと思ったからです。 だから、私は今のフォルテ様がとても羨ましい。人の営みに溶け込もうとしても、どこか孤立していた私とは違い、種族の垣根を越えて人と触れ合うフォルテ様が羨ましい。 その方法が食事を知る事なら、私は食事と言う物をしてみたい。美味しいと感じてみたい」
フォルテはケミーニアの言う事が実にエルフらしいと思った。
エルフには人間と違って三代欲求と言うものが無い。
食欲は言わずもがな、寿命が長いから急いで生命を残す必要がない為なのか、性欲も乏しい。
睡眠欲も、フォルテが実際に魔力によって身体を正常に保って錬金術の研究を続けて来たように、人が睡眠によって回復する所を別の方法で肩代わりできる上、食事による血糖値などの変化もない為、無いに等しい。
どちらかと言うと睡眠は体を休めるのではなく、時間を早く進める為に行う行為だと思っているほどだ。
エルフにとって、そんな三代欲求の代わりにあるのが知識欲だ。
長いせいの中、知らない事を知りたいと思う欲求がとても強い。
ケミーニアは人の営みと感情に興味を持ち、人と生きる為に里を出たエルフなのだろう。
だからこそ、どれだけ共に過ごそうとも理解できなかった人の喜びを分かち合う行為をフォルテが共にしているのを見て羨ましいと感じた。
自分も同じように感じたいと願った。
「ケミーニア、食事の味を一度知ってしまったら後には戻れなくなるぞ?」
「その先が私の望む事です」
ケミーニアがフォルテを見る目はとても真剣で、そして己の欲に忠実に、渇望するように瞳孔が開いている。
「体を作り変えるのだ。死ねばよかったほうがいいと思う程の苦痛だぞ?」
「それを乗り越えてでも、食事をしたいとフォルテ様も願ったのでしょう?」
食欲と知識欲と言う違いはあれど、その渇望はフォルテと同種のものだと思い、フォルテは頷いた。
「国王よ、部屋を一つ借りたい。そしてどんなに悲鳴が聞こえようとも誰も入らないでほしい」
フォルテの言葉に国王が指定した部屋は離宮であった。
「ではケミーニア、向かうとしようか。 そうだ!料理長、まだ湯掻いてないうどんがあっただろう? ケミーニアの為に焼きうどんを作っておいてくれ」
フォルテはそう言い残してケミーニアと離宮へ向かうのであった。




