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第1話 人体錬成

「やったぞ!遂に成功したんだ!」


 ある日の夜、エルフの森の外れにある古屋の中から気持ち悪い声が響き渡った。


「クククク…フフフフ、ハーッハッハッハ!」


 小屋の中に住むエルフの目は血走り、そのエルフらしい綺麗な顔は喜びに歪んでいた。


 エルフの前には、1匹の草食動物が《《肉を貪っていた》》。

 一種のキメラと言い換えてもいいかも知れないが、この動物は2種類以上の動物を錬金術によって掛け合わせた物ではない。


 《《元々草食動物であった動物を雑食に錬成した物》》である。


 動物の構造を理解し、研究し尽くし、草食動物の体の中を雑食動物の構造に錬成し直した生物であった。



 人体錬成。


 生き物を生み出す行為は神への冒涜として錬金術師の中では禁忌とされている。


 合成する(キメラを作る)事も禁止されているし、勿論、生き物を弄る事も禁忌とされている。


 マッドサイエンティスト


 このエルフの前世で言えば、そう表現される事だろう。


 このエルフは、長い年月の中で、草食動物である自分の体を呪い、狂ってしまった。


 ただ、美味しい食事がしたいが為に。肉が食べたい為に。



 男は動物実験の結果に満足して、遂には己の体を錬成する。


 初めに食べるものは何にしよう?


 そう考えながら、己の消化器官を人間の物に作り直す。


 世界に初めて、グルメなエルフが誕生した瞬間だった。



 その数分後、夜の闇を颯爽と走る人影があった。


 エルフである。


 美しい美丈夫である。


 なのに、その走る姿は見る者に恐怖を与えるほどであった。目撃者が居なかったのは幸いである。


「まてぇぇぇえええええ! にいぃぃいくぅぅぅううう!」


 颯爽と走るエルフは奇声を発しながら涎を垂らし、目の前を走る鹿を追っていた。


 エルフは徐ろに地面に手をついた。


 すると、エルフの手から光が溢れ、地面に模様を描き始めた。


 数秒で模様が完成すると、エルフの口はいやらしく三日月型に裂けた。


 前に走る鹿を囲う様に、土の檻が出来上がり、その中に鹿は閉じ込められ、捕まってしまった。


「やっと、やっとだ」


 エルフはナイフを取り出し、一思いに鹿を殺めると、首を切り裂いて逆さまに吊るした。


「待ち遠しいが、これをしないと臭くて食えないだろうしな」


 そう愚痴を溢しながら、エルフは枝を集め、火を付けた。


 そして、余った枝を集めると、また手から光が溢れ、円を描き、模様を作ると、枝は鋭い串に変わった。


「そろそろだろう」


 串を作り終わると、徐ろに立ち上がり、吊るした鹿に近づくと、嬉しそうに捌き出した。


 ある程度血抜きはされているが、血がなくなっているわけではないので、返り血が服を汚すが、エルフは気にした様子はない。


 捌いた後、適当な大きさにきって、串に刺していき、焚き火の周りに遠火になる様に地面に刺していく。


 調味料も何もなく、ただ串に刺して焼いただけの物だが、その肉の焼ける匂いに、エルフの口からは涎が溢れ、飲み込んでも飲み込んでも止まらなかった。


「やっとだ。100年以上まった」


 程よく火の通った肉を、一つ持つと火の近くまで近づけて、表面に焦げが軽くつくまで焼いた。


「いただきます!」


 齧り付いた肉からは肉汁が溢れ、口の周りを脂がテカらせる。


「うまい。うまいよぉ」


 エルフの目からは涙が止まらなかった。


 その後は、肉が尽きるまでエルフは無言で肉を貪り続けた。


 その肉が尽きた後、立ち上がったエルフは脂でテカった唇をペロリと舐めた。


「ご馳走様でした。美味かった。確かに美味かった。でも、これは料理と言えない。塩さえかかっていない。ただ焼いただけだ。

 俺はこの里を出る。もっと、人間らしい飯を、うまい飯を食べる旅に出るぞ!」



 決意を新たに、エルフは里を出て旅を始めるのだった。




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