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第1話 これでやっと、自由になれる

 ある商店の一室で一人の老人が店主に頼まれた商品の鑑定を黙々と熟していたが、いきなり胸を押さえ苦しみだす。

「うっ……い、息が……ハァ、ハァ~」

 老人は最初は苦しそうにしていたが、その内に全てを諦めたのか苦痛の表情から柔らかい優しい表情へと変わる。

「これでやっと楽になれる。これで……」

 そう言って、老人はゆっくりと瞼を閉じる。

「今度こそ真っ当な人生が送れたらな~ハァハァ……ハァ……ハァ……ハッ……スゥ」

 そして、息苦しさから荒かった呼吸音がゆっくりと段々と小さくなり、そして止まる。


「じいさん、鑑定は終わったか? じいさん? あ~くたばったか。しゃあないな~おい、誰かこのじいさん片して」

「「はい……」」

 二人の男が床に横たわり、まだ暖かみの残る老人を抱えて部屋から出る。

「さてと、一応旦那に報告しておくか」


 老人だった男が体を揺さぶられている感覚に目を開ける。

「おい! 何をやっているんだ! 起きろよ!」

「え? あ! またこれか……」

「何を言ってるんだよ。早く逃げるぞ! (わたる)!」

 恒と呼ばれた少年は、目の前に広がる光景を「もう何度目かな」と、回りで慌てるクラスメイトとは違った冷めた眼で見ている。


 その光景は教室の床一杯に広がる魔法陣の紋様が光り輝き、クラスメイトは近くの窓や教室の戸を開けようとするが、窓はおろか、教室の戸すら開かない。

 机や椅子を使って窓を割ろうとしても見えない何かに弾かれる。

「なんで割れないんだよ! ふざけんな!」

「もういや! なんで私がこんな目に合うのよ!」

「誰でもいいから助けてよ!」

 怒号と悲鳴が飛び交う中、一人、また一人と魔法陣の光に包まれ消えていく。

「そろそろ、俺の番かな」

「何言ってんだよ! 恒! 逃げないのかよ!」

「どこに逃げるってんだ。窓も戸も開かないんだぞ」

「そ、そりゃそうだけど……何か出来ることがあるだろ。諦めるなよ!」

 どこか冷めている恒に少しイラつきながら、恒の数少ない友人でもある『渡辺(わたなべ) 明良(あきら)』は掴んでいた恒の肩を離すと、ここから逃げ出すことが出来ないかと回りを探す。

 だが、その内に明良の番が来たようで、明良は魔法陣の光に包まれ消えていく。

「で、俺……と」

 恒がそう言うと恒自身の体も魔法陣の光に包まれて消えていく。

「こんどは長生き出来るかな……」


 そして、恒がいた教室には誰もいなくなった。


「はぁ~また、あの生活が始まるのか……」

「いいえ、なりません!」

「え?」

 恒が目を開けた場所は何もない白い空間だった。そして、声のした方向を見るとそこには白いワンピースを着た女性がいた。


「えっと……」

「こうやって会うのは初めましてですね。私はあなたが喚ばれた世界を管理している女神で、名をイスカといいます」

「はぁ、そんな女神様が俺になんの用です?」

「誠に申し訳ありません!」

 恒に向かってイスカと名乗った女神が綺麗な土下座を披露する。

「えっと、これはなんの真似でしょうか?」

「はい。では、説明させて頂いてもよろしいですか?」

「ええ。そもそも土下座で満足するのはした方だけで、された方は余程の奴でもない限り満足することはありませんからね」

「ぐっ……痛いことを言いますね」

 土下座の状態からゆっくり起き上がると何もない空間にテーブルと椅子が現れ、イスカが恒に座るようにと勧める。

 恒は椅子に座るとイスカに向かってぶっきら棒に言う。

「いいから、早く、その説明ってのをお願いしますよ」

「あっ、そうでした。実はですね。ご存知かもしれませんが、あなたはこれで一万と一回目の異世界転移となります」

「はぁ? 一万回だぁ?」

 イスカが言う『一万と一回目の異世界転移』に恒が反応する。そして恒は長いこと繰り返してきた異世界転移のことを思い返すと呆れてしまうが、イスカは涼しい顔で恒に対し話しかける。

「ええ、あれ? ご存知ありませんでした?」

「ご存知ありませんよ! なんかやたらと繰り返すとは思っていたけど十回目以降は考えるのも馬鹿らしくなって、数えるのは止めたよ!」

「そうなんですね。出来ればちゃんと数えて欲しかったですね」

「出来るか! そんなことより、説明は!」

 どこかのんびりした様子のイスカの話し方に恒の言葉も少しばかり乱暴になる。

「おっと、そうでした。実は我々も恒様の異世界転移を『今度こそ』という気持ちで見守っていたのですが、そう願っている内に一万回を超えての異世界転移となったことで、これはなんとか対策を練らなければとなり、些少ですが私が恒様の異世界生活をサポートさせて頂くこととなりました」

「はぁ? ちょっと待て!」

「はい! なんでしょう。恒様」

「いやいや、なんでじゃないよ。なんで一万と一回目になる訳? そこは切りよく一万回で終わればいいじゃない。な? もういいだろ? もう、俺を自由にしてくれよ」

 恒はイスカに対し、もう自由にしてくれと懇願するが、イスカはそれをにべも無く断ると話しを続ける。

「我々もそうしたいのですが、そういう訳にもいかず、苦肉の策で私がサポートすることになりましたので。恒様には是非、一万と一回目の異世界転移で長生きして頂きたいのです」

「訳分かんねぇ。なら、その理由はなんなんだよ! 俺に一万と一回目の異世界転移させる理由はなんだよ!」

「その理由はですね……」

 恒はゴクリと生唾を呑み込むとイスカが話し出すのを待つ。



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