出会いの前
第1話
もう無理だ…
時間が無い…
ここからゴールを狙っても届かない。
「いっけー!やまと~~~。」
静寂の中、響き渡る。
その瞬間足が勝手にボールを蹴っていた。向こうのゴールキーパーも声の方に意識が行っていたのか、ほんの一瞬出遅れたようで、俺の放ったボールは一直線にゴールに吸い込まれて行った。再び静寂。声の方を見ると、小さな女の子がぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。その後は大音量の歓声が俺を飲み込んで行った。もう、彼女の姿は見つからない。
焦った声が聞こえる。
「ねえねえ今ボール蹴ってる人、だれ?」
「えっ?やまと先輩?」
「やまとって言うんだ。」
「いっけー!やまと~~~。」
「やまとは知らないのか、1年生のアイドル。」
「なんだ、それ?」
「今年、首席で入った子で入学式の時には既にファンクラブが出来てて、代表の挨拶の時、写真を撮ろうとファンが押し寄せて大変な騒ぎだったのに。」
「ああ、俺、入学式パスした。」
「そうか、やまとが入学式出席したらやばいことになるもんな。ってか結局とわちゃんのことでやばいことになったけどな。」
「とわちゃん?」
「かんざきとわ。アイドルの名前。とわちゃんに名前叫ばれたから、やまと今後やばいよ。」
「今、森園くんの名前叫んだの誰?」
女の子たちが一斉に騒がしくなる。森園和斗は先程のサッカー部のエースストライカーだ。その上成績優秀、容姿端麗で星宮学園のアイドル、3年生なので今回の大会が高校生最後の大会となる。地方大会の決勝戦、勝てば全国大会という大事な試合で森園和斗の蹴ったボールは優勝を勝ち取った。その決め手となったのが、神崎斗和という入学したての1年生にして、これまた学園のアイドルとなった少女の一声だった。