三つ眼の竜
迷宮が、どこまで続いているのかは、まだ誰も知らない。
最深部には、誰もたどり着いていないからだ。いや、少なくとも、生きて帰ったものはいない。そういうことになっている。
それでも、いま、……迷宮にチャレンジしているものたちの間では、ここが最奥ということになっている。
なぜなら、ここには竜がいるからだ。かれらの知るかぎり、この竜を倒したものはいない。
「この間は、……」
階段を一段おりるごとに、緊張が強まっていく。
「……生きてて良かった! ってカンジだよね」
「何も持って帰れなかったから、怒られたけどな」
「せめて、爪でも剥がしてこれたらねー」
「無茶言うなよ」
くすくすと、うしろの二人が笑う
階段をおりきると、そこには扉があった。
古めかしい、大きな門。鍵穴の上には、4頭の蛇がからみあったような紋章が、大きく描かれている。
「あれ、もとに戻ってる。こないだ外したのに」
「竜がかけ直したんだろ」
美香のつぶやきに応えて、航が軽口をたたく。
扉のまえに、4人はそれぞれ荷物をおいて、武器をかまえた。
美香は、ちょっと緊張したおももちで、杖のはしを鍵穴にあてて、小声で呪文を詠唱した。
かちゃん、と小さな音をたてて、鍵がまわり、ゆっくりと扉が開いていく。
明るい部屋だった。
かんてらのうす灯りに目が慣れていた4人は、思わず目をつむって、それから、あわててまぶたを持ち上げた。
竜は、そこにいた。
学校の体育館ほどありそうな、広い空間。その中心部を、円形にとりかこむように、たくさんの柱が建っている。
真ん中に、竜が寝そべっていた。
白い。
4つ足の竜である。鱗は細かくて、天井からの光を受けてぎらぎらと加輝いている。ふたつの目のほかに、額の角の下に、第三のまぶた。
良二が、スマートフォンを竜にむけて確認する。
……まちがいなく、この前と同一の個体。