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怪物の巣

 暗闇の、すこし先。

 かんてらをさし入れても、ほんのわずかしか明るくならない。

 左側の壁、地面の近くに、小さな横穴がある。

 大人が四つん這いになって、かろうじてくぐれるくらいの高さ。

 その、入り口のところに、……赤い、なにかの跡。

「小鬼は?」

「もう、いないよ。」

 心配そうにつぶやく美香に、良二は、もう一度、かさねて言った。ためらわず、両手をついて横穴に入っていく。


 そこは、小鬼の巣であったらしい。


 なにかの食べ残し、壊れた陶器、刃物のかけら、まき散らされた排泄物。 それから、血のにおい。

 4人は、しばらく沈黙して、

「……あ、宝箱!」

 さつきが高い声でさけんだ。航はちょっとうわずった声で、「本当だ、」といって、入り口近くの、ちいさな物体をみた。

 ちいさな、立方体。不自然につるつるした、……まるで影みたいに真っ黒な。

「むこうで開けよ、ね!」

 さつきに促されて、良二が、立方体を左手につかんで、横穴に戻っていく。

 それから、さつきが横穴に入ろうとする寸前、美香が、目を伏せたまま、さつきの右袖をつかんだ。

 さつきは、なにか言おうと唇をひらいて、……美香の口もとを見て、また、口をとじた。

「おい、」

「……これ、持ってて」

 航の手に、上着の内側から取りだした自分のスマートフォンを、ぐいと押しつける。

「先に行ってて、ね!」

「だって……、」

「いいから!」

 ぐいぐいと、ふたりを穴に押し込んで、……さつきは、ため息をついた。

 杖を、とん、と構えて。

 ……さっきから、聞こえないふりをしていたうめき声に、耳をすませる。

 巣の奥。さらに奥。

 がらくたの破片がまき散らされた暗い空間。かんてらをさし入れると、……いや、なにも見なくても、はっきりとわかる。べったりと広がった血のにおい。

 さつきは、……ほんの少しためらってから、……杖を、床のすみに転がっている、血だらけの体に、そっと触れさせて、

 ちいさく、呪文をとなえた。


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