小鬼の群れ
地下への階段を、降りる。タイルの段は途中で消えて、石だたみにかわる。じきにそれもなくなり、土の坂道に。
腰に銃をつけた警備員に目礼して、4人はぞろぞろと穴を下っていく。
どこもかしこも、指で押せば穴があきそうな、ただの土。天井をささえる梁も、柱もない。それなのに、漆喰で固めたみたいに平らかで、つるつるしている。
歩く。
ほんの少し中に入ると、もう真っ暗闇である。
さつきは、荷物のなかから取り出したかんてらを、左手にかかげている。この、かんてらも、迷宮で発掘されたものである。どういう仕組みになっているのか、燃料の補充はいらないらしい。
光が届くぎりぎりのところに、先行するグループの背中が見える。むこうも4人。こちらも4人。迷宮にそれ以上の人数で入ることは、禁じられている。内部での合流も、ご法度だ。
だから、魔物に襲われていても、基本的には助けない。
遠くで、かちんかちんと、なにかが交差する音がきこえる。光が届く範囲より、わずかに先。
先行グループの背中が、いつのまにか消えている。
「……あ、」
「このへん、」
ちいさな声で、さつきと航が声をかわす。
良二が、ちいさくうなずいた。
……あれが、出るんだっけ。
4人は、さっと緊張した面持ちになって立ち止まった。さつきは、かんてらを地面において、杖をかまえる。
しゅっと、小さな音がした。
いや、音を耳にしたのは、良二と航だけだ。少女ふたりの耳は、そこまで鋭くない。とにかく、音の主は、瞬時に空中を走りぬけて、こちらに向かってきた。
航の指が、ぴくりと動く。が、剣を抜くいとまがない。あいての向かってくるコースが、見えないのだ。
動けずにいる間に、となりで、良二が地面を蹴って、跳んでいる。
両脇にさしていた二本の剣が、左右の手に握られている。とん、と回転しながら剣をふって、──
いつのまにか、それぞれの剣に、1体ずつ、小鬼が串刺しになっている。
角のはえた、みにくい、20センチほどの小人。右手に、からだの大きさからするとずいぶん長い、包丁のような刃物を握っている。
しゅっ、しゅっ、とまた擦過音。
こんどは、跳んだのさえ見えなかった。……気がつくと、良二の剣先に、3体の小鬼が、また、串刺しになっている。
最初の2匹は、床に落ちている。つごう、5体。
「危ないよ、」
と、良二がすずやかな声でいう。
「ありがとーっ」
さつきは、屈託なくわらって、かんてらをまた床から拾いあげた。
「……もう、いないの?」
杖をかまえて前をにらんでいた美香が、ちいさくつぶやく。
「いないよ。」
良二は、かるく言って、細い目でにっこりと笑った。