駅前の地下迷宮
迷宮への入り口は、もより駅の道向かい。
3階建ての、小さな灰色のビル。1階は受付と待合、それに倉庫。2階から上は管理事務所。
18年前、迷宮が発見された年に、建てられたものだ。
入り口の自動ドアをくぐって、4人が入っていくと、受付前には、また別の、4人の男女。先客がいたらしい。
見覚えのある、ブレザーの制服。たしか、同じ市内の、川むこうの私立高校の。
しばらく、待つ。前のグループが先に進んで、それから10分ほども待たされてから、ようやく、受付の、スーツ姿の二人組が、こちらを見る。
「……どうぞ、」
それぞれ、小さな顔写真入りのカードと、揃いのスマートフォンを差しだす。
迷宮立ち入り許可証。
このカードを持てるのは、迷宮が発見されてからこの町で生まれた子どもだけ。魔力のある人間のあかしだ。
カードの氏名欄にある名前は、
長屋航、
牧良二、
沼田さつき、
川角美香。
受付の男は、無愛想な顔のまま、スマートフォンとカードを、それぞれ大きなスキャナーに通して、画面を確認した。
どうぞ、と奥にあるドアを手で示す。ここでは、スマートフォンをパネルにかざして通るようになっている。一人通るごとにいちいち閉じて、スキャンのし直し。
ドアを通ると、待合の廊下。ソファに座ってしばらく待つと、灰色の制服をきた係員が、4つの大きな箱が乗ったカートを押して、やってくる。箱は金属製で、それぞれ、大仰な鍵穴がついている。
係員は、若い男女ふたり。カートは、女性のほうが押している。
「名前を確認してくださいね」
「はーい」
「うっす」
4人は、それぞれ、自分の名前のラベルが貼られた箱をかかえた。
廊下をほんの少し進むと、男女別の更衣室。係員も、一緒に入ってくる。
……それから、およそ10分後。
「おまたせぇ」
とっくに着替えて廊下で待っていた男たちのところへ、少女たちが合流する。
4人とも、さっきまでの制服とはうってかわって、はなやかな格好。
男ふたりは、鎧だ。
体格のいい少年──航は、むかしの騎士のような全身鎧。金属にしては少しざらついて軽そうな、くすんだ水色の素材。腰のところには、獅子と竜が向かい合ったような意匠がきざまれている。兜はなく、そのかわりに額あてを身につけている。
腰には、大きな剣。……大きすぎるようにも見える。刀身は女の腕よりも太く、とても長い。
もうひとりの、痩せた少年──良二は、航よりも軽装だ。肩と胸まわりを守る銀色の部分鎧と、脛あてに、ブーツ。腕から指先にかけては、素肌が露出している。鎧の下は、ぴったりした黒のズボンと、シャツ。
腰のベルトには、2本の剣をたばさんでいる。こちらは、航のものにくらべるとずいぶん短くて、肘から指先くらいの長さしかない。
「それ、こないだ見つけた剣でしょ。使えそう?」
ロングヘアの少女、──さつきが、良二の腰の剣をみて、たずねた。
さつきは、鎧を身につけてはいない。脛までの厚めのズボンに、同じ生地の上着。肩まで下ろしていた髪の毛は、今は茶色の紐でまとめている。それから、杖。というより、おもちゃのステッキのような。短い、先に丸い球のついた、金属製のきれいな棒。
「いいと思うよ。すごく軽いし、切れ味もよさそう。二本セットで使うようになってるみたい」
「前の剣はどうしたの?」
と、美香。彼女は、さつきとは対照的に、動きにくそうな格好をしている。袈裟のようなぞろりとした服を、腰紐でゆるりと留めて。左手には、杖を持っている。さつきのものとは違い、枝をそのまま折りとったような、節くれだった木製の杖。
「置いてく。荷物、軽くしたいし」
「売っちゃえば?」
「予備もいるしさ、一応」
そう言いながら、荷物袋を持ちなおして、またすこし廊下を歩く。
最後のゲートの前で、もういちど、身体検査。
迷宮には、迷宮で手に入れたものしか持ち込めないことになっている。4人が着ている服も、持ち物も、全て、迷宮で発掘されたものである。
例外は、ひとつだけ。