海岸沿いの夜道
線香のにおいは、きらいだ。
航とさつきは、無言のまま、夜の道を歩いていた。
ふたりは、制服姿である。通夜のあとだから、当然だ。
航の頭には、包帯が巻かれている。
「ねえ、」
「ん、」
海のにおいがする道を、堤防ぞいに進む。駅からは、反対方向。迷宮からも、遠ざかっている。
「……どこ、向かってんの。」
「おれんち。」
「逆方向じゃん」
「……べつに。」
不機嫌を隠そうともせず、大股であるく。そのうしろを、さつきは早足で追いかける。
「ねえ、止まってよ。」
「うん、……」
航は、ぴたりと脚をとめた。
さつきは、ちいさくため息をついた。……かるく目を伏せたまま、口を開く。とにかく、なにかを話したかった。
「お通夜、……何回目だっけ?」
「……いつから?」
「いつからって……じゃあ、今年に入ってから」
「じゃ、まだ4回」
「5回じゃなくて?」
「今日のは、1回? 2回?」
「2回でしょ。……ふたり、死んだんだから。」
「じゃ、5回だ。」
「……その前は?」
「おまえが入る前ってこと?……ええと、おれが入部してからは、2回かな」
「ベテランじゃん」
「まあね」
ふたりは、また少し黙ってから、
「……良二と美香、付き合ってたんだってな」
「へえ。……だれに聞いたの?」
「良二の妹。……おまえ、知らなかったの?」
「知ってたけど。……妹さん、号泣してたじゃん。いつ聞いたの」
「昨日。電話で」
「ふうん。……」
さつきは、もう一度、今度は深呼吸みたいに大きなため息をついて、
「……良二のお父さん、泣いてなかったよね」
「妹が泣いてただろ」
「うん、」
それから、またしばらく沈黙。
「……お焼香のとき、わたしたちの少しあとにさ、4人組、いたじゃん」
「うん、」
「あれ、……今日、迷宮にいた人たちだと思う」
「……そうだな、」
そこで、またさつきは黙った。
航も、なにもいわない。
ふたりは、道路のほうをむいて、ただ、立ったまま。
たがいに、目も合わせずに。