決着
良二は、血まみれになって地面に落ちていた。
ひ、と美香が声にならない悲鳴をあげる。ほんの1秒、肺に空気が入りきるまで息を吸って、それから、
もう一度、大きな悲鳴。
竜が口をあけて、こちらをむいた。
「じっとして!」
さつきは、……さきほどまでとは少しちがう呪文を、早口で唱えなおした。不可視の壁ではなく、ほんの少し青みがかった、ガラスのような半透明の壁が、曲面状に出現する。
竜が、一瞬こちらをにらむように前のめりになって、熱線を放つのとほとんど同時に、地面を蹴ってとびだしてくる。
竜の脚で、3歩。
がん、がん、がん、と大きな足音をたてて、ふたりが身を寄せている柱にむけて、跳んでくる。
悲鳴をあげる間もなく、爪が、魔法の壁に突き刺さった。
ぎしり、ぎしり、と嫌な音。
竜のあぎとが、壁ごしに、ふたりを睨んでいる。
さつきは繰り返し呪文を唱えながら、睨みかえした。魔力が、もうほとんどない。もって、あと30秒。
それから、気づく。
竜の第3の目が、こちらを見ている。壁にさえぎられて熱線は感じられないが、狙いをつけているのだ。
ぞっとする。
爪の圧力に加えて、この至近距離でブレスを受けたら、……もう、壁は消えてしまうだろう。
美香のほうを見る。彼女は、まだ魔力を残しているはずだ。
目があわない。……美香は、顔を伏せて震えている。ぺたりと、地面に座って。
なにか言おうと思う。呪文で口が塞がっている。
ぎん、と金属音がした。さっきまでの音とは違う。爪が、魔法の壁に、半ばまで突き刺さっている。硬度を維持しきれなくなっているのだ。
死を覚悟する。
それから、一瞬後。
こう、と、空間を切り裂く独特の音が、あたりにひびいて。
航が投げた、虹色に輝く大剣が、竜の首をきれいに斬り飛ばして、落ちた。