墜落
ち、と良二が舌打ちをした。
地上におりる。さっきまでなら、すぐにまた跳んでいたところである。が、跳ばない。
ひゅっ──、と右手が動いた。
つぎの瞬間、良二の持っていた二本の剣のうち片方が、竜の額の目に、深々とつき刺さっていた。
いや、……そうではない。
一瞬のち、深く刺さっていたかに見えた短剣は、ぬぷりと押し出されるように抜けて、地面に落ちた。
目には、傷ひとつついていない。
額の目が、ふたたび熱線を放ってきた。こんどは、良二にむけて。
ちりちり、と髪の毛がこげる匂いがする。
心臓が、大きなおとをたてて跳ねている。
跳ばない。
ぎりぎりまで、待つ。
竜がブレスを吐く寸前まで。
「良二!」
美香が悲鳴をあげた。杖をぎゅっと握りしめて、前に出ようとする。それから、はっとした顔で、
「壁! 止めて!」
とさけぶ。
さつきは、一瞬ためらってから、詠唱をやめた。
壁が消える。美香は早口で、短い呪文をつづけざまにとなえた。杖から、ダーツほどの大きさの炎の矢が、次々に飛んでいく。
竜の目のまわりに、円をえがくように命中する。が、一瞬、光っただけで、竜の顔には傷すらつかない。
「こっち向いたら、壁!」
呪文のあいまに、さつきに向かってさけぶ。竜の第三の目は、まだ、良二のほうを向いている。
竜が口をひらいた。同時に、良二が跳ぶ。一瞬おくれて、ブレスが床を焦がして、……そのまま、上にむかって軌道をかえていく。
良二の手が、……天井についた。ブレスに追いつかれる寸前、天井を斜めに叩いて、横っとびに逸れる。
竜の息は、一瞬前まで良二がいたところをこんがり焼いて、煙とともに消えた。
そうして、天井から離れた良二が、地上に落ちていくところを、
爪が、薙ぐ。
ぎん、といやな音がした。
堅いものが、頭蓋骨にぶつかる音だった。