ダンジョン部
北校舎の3階。空き教室がつらなった一角、端から2番目。雑に書かれた張り紙が、ドアに貼ってある。
その、教室の窓際。詰め襟の学生服をきた、細おもての痩せた少年が、にィっと幼児みたいに笑う。教室の椅子に、だらしなく腰かけて。
「見てよ、これ!」
てのひら大のゲーム機を、とり出して見せる。体育ジャージの入ったサブバッグから、じゃーん、と自慢げに。
「買ってもらったんだ。昨日」
「おッ、いいじゃん」
そう答えたのは、同じ冬服をきて目の前の椅子にすわっている、体格のよい少年。短髪に、するどい目。
ひきしまった腕で、さっと奪うようにゲーム機を受け取って、
「これ、……デラックス版じゃん。いいなぁ」
心底うらやましそうに、つぶやく。
「あんたも買ってもらえば?」
となりにいた、黒いカチューシャできれいな黒のロングヘアを留め、赤いスカーフのセーラー服をきた、背の高い少女が、からかうように肩を押す。
「だめ。うち、親が渋いんだよ」
「ふうん。……美香ちゃんとこは?」
「あたし、貯金してるからー」
4人目は、耳までかかったボブカットの、小柄な、色の白い少女。かすかに丸みをおびた顔の輪郭と、大きな目のせいか、高校生にしては幼くみえる。
……かたかたかた、と遠慮がちな足音が、廊下から聞こえてきて、4人は、ぴたりとおしゃべりをやめた。
ドアが、からりと開く。
「……すいませーん、」
と、おずおずと。
顔を出したのは、男子生徒がふたり、女子生徒がひとり。
「アノ、入部したいんですけど、」
「定員があるの知ってるだろ?」
体格のいいほうの少年が、立ち上がりもせず、つめたい声で。ドアをあけた女子生徒は、視線にけおされて黙ってしまった。
「ごめんねぇ、」
色白の少女──美香が、かすかに微笑みながら手をふって、3人をおいだす。
そうして、部外者がいってしまったのを足音でたしかめてから、
「……さ、行こ、行こ。閉まっちゃうよ」
ロングヘアの少女が、立ち上がって、大きな声でいった。
「おう、」
「うん。」
ふたりの少年が、鞄を肩にかけて、ぞろぞろと教室を出る。
さいごにドアをくぐった美香が、教室に鍵をかけようとしたところで、
「スマホ、忘れんなよ」
と、体格のいい少年が、ちょっと緊張した声音で声をかけた。
「あ、」
美香はさっと青ざめて、あわててドアを開いた。
「あっぶない。……鍵、閉めちゃうとこだった」
はは、とかすかに笑って、もう一度ドアを閉じる。
……ドアのまんなかの張り紙には、マジックペンの雑な字で、
『ダンジョン部』と、書いてある。