091 話
「レオナさんは魔法を使う時に、どうして剣を持ち替えるの?」
「魔法を使う時は魔法陣をイメージしなければいけないので、やりやすい右手でやるのは当然ですよね?」
「でもそれだとせっかく剣と魔法が使えるのに、同時に使えないじゃない」
「でも、左手で魔法を出すのは無理じゃないですか」
え?無理なの?私出来るけど……。
そもそも毒針で生成した魔素を操るだけだから、手とか足とか関係無いし。
もっとも、私の魔法はリスイ姉のやり方を模倣してるから、普通のスキルで発動する魔法とは違うのかも知れない。
「じゃあ、ちょっとやって見せるね」
「え?何をですか?」
私は透明な足場を毒で生成して、自分の体を少し浮かす。
「う、浮いてるっ……!?」
浮いたのは見やすくする為だから、そこで驚かないでほしい。
私は両手両足に仕込んである針から魔素(毒)を生成して、水魔法の魔法陣を両手と両つま先に形成する。
合計4つの魔法陣から同時に水魔法を打ち出すと、うねる水流が飛び出して山の木を数本ボキリと折った。
「嘘……魔法を4つ同時に撃ち出した……」
ぴょんと足場から飛び降りる。
「右手でしか魔法を放てないってのは思い込みだよ。イメージ次第で両手両足どころか、お尻からだって出せちゃうんだから。レオナさんはまず剣の動きを阻害せずに、どこからでも魔法を出せるように訓練した方がいいよ」
「なるほど、勉強になります。ただ、私は魔力量が少ないのであまり魔法に重きを置きたくないのですが……」
「じゃあ魔力増強しちゃおっか」
「はい……?」
よし、その『はい』は『YES 』のはいだね。
「ちょっとチクッとするだけだから」
「な、何をするんですか?ちゃんと説明してから——あばばばばばばばば!!ぷひゅー……」
その場に突っ伏してビクンビクンと痙攣するレオナさん。
こんな光景、前にも見た事あった気がするなぁ。
痙攣が収まると、幽鬼の如くゆらりと立ち上がる。
「……何でもやるとは言いましたが、やる前にちゃんと説明してください」
「ご、ごめんね……」
顔に影が差して、めっちゃ怖いんですけど……。
とりあえずアホにはなってないようなので、成功だね。
魔力測定機で測ると魔力は15万程になっていて、レイアさんがパワーアップする前ぐらいの魔力にまで増えていた。
「どう?魔力増えたでしょ」
「は?え?魔力が増えたっ!?」
先日に続き、茫然自失としてしまったレオナさん。
なんか戻って来なくなっちゃった。
じっと自分の手を見つめたまま動かない。
「それで存分に魔法が使える筈だよね。まぁレイアさんに勝つには剣もおざなりには出来ないと思うけど」
「は、はい……いや、全然何が起こったのか理解出来ないんですけど」
「とりあえずレオナさんの当面の目標は、どこからでも魔法が撃てるようになることだよ」
「そ、そうですね。がんばります……」
困惑が先に来ちゃって、返事が尻すぼみになってるし。
まぁ後は本人の努力次第だからね。
とりあえずレントちゃんも復活しないし、帰る事にした。
レントちゃんに回復薬(毒)を投与してあげようと思ったけど、ヴェリー軍曹に訓練後は自然回復させないと意味が無いと言われたので出来なかったのだ。
何でも回復薬で回復させると、成長を促す超回復を阻害するらしい。
要は訓練前の状態にまで回復しちゃうから、辛い思いした意味が無くなるとのこと。
いくらなんでも、それは可哀想だもんね。
帰るべく訓練場になっている山を下りると、一人の男が待っていた。
正確には一人じゃなくて、隠れている護衛らしき人が数人いるんだけど。
「昨日の事で少し話したい。時間を貰えるか?」
昨日の金髪リーゼント——確かリーゼルトだっけ?が話しかけてくる。
「嫌ですけど?」
「なっ……!」
私には別に話したい事なんて無いもの。
「こ、この俺が頼んでいるんだぞっ!!公爵家に逆らう気かっ!?」
えー、面倒くさ。
今後も付きまとわれるのも嫌だし、話だけ聞いといた方がいいのかな?
そんで話を聞いた上で敵対するなら、公爵家と全面戦争かな?
それまでにレントちゃんをリーサルウェポンとして仕上げておかないとね。
「分かったよ。で、何の話でしょうか?」
「こ、ここでは人目につく。あっちで話そう」
人目があるとこでは出来ない話?
ま、まさか告白か……!?
なわけないか。
昨日ボコられた相手に告白するとか、かなりヤヴァい奴だもんね。
とりあえず金髪リーゼントに付いていくと、校舎の裏の、その更に奥の森みたいな場所に出た。
そこの少し開けた場所で、金髪リーゼントが振り返る。
「実は昨日の事を詫びたくてな」
おや?意外と殊勝なことを言い出した。
まぁ、改心したのはいい事だね。
「それで、これお詫びの印として受け取ってくれないか?」
何やらリボンのついた箱を差し出して来た。
そちらが事を荒立てる気が無いなら、私としてもキャサリン姉に迷惑かけたくないから手打ちにしてもいいかな。
「わかったよ」
私が受け取ると、さっと手を引っ込めてモジモジし始めた。
まさか、本当に私に惚れたの?
「それは……」
緊張した面持ちで金髪リーゼントが告げる。
「お前を地獄に送る為の転移装置だっ!!」
突如箱から魔法陣が出現して私を包み込むと、私の見る景色が一瞬で暗転した。
……ちょっとぉ、前にもこんな事あった気がするんだけど?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふ……ふははっ!!やったぞ、ざまぁみろっ!!」
リーゼルトは昨日の復讐の為に、大金をはたいて高価な転移魔導具を購入していた。
そして、その転移先に選んだのは……
「物理攻撃も魔法攻撃も効かない金属スライムばかりのダンジョンに転移させてやった!あいつがいかに強いスキルを持っていても、素早い上に攻撃が効かなく、更に金属の不透明度からコアの位置も分からないスライム相手に生き残る術など無いっ!金属スライムに骨まで溶かされてくたばれっ!!あはははははっ!!」
スライムの上位種である金属系のスライムは、勇者であっても倒すのが困難と言われている程の魔物。
そんな魔物ばかりが徘徊しているダンジョンは、生還率が著しく低い。
幸いな事にこのダンジョンの入り口は学園の近くにあるのだが、救助要請を出したところで潜れる者は数少ないだろう。
そもそも、アイナがそのダンジョンに送られたと知る者は、ここにいる公爵家の子息とその護衛だけなのである。
彼らが救助要請を出す事など絶対にあり得ない。
「さて、明日が楽しみだ。どんな騒ぎになってるかな」
リーゼルトは悪逆な笑みを浮かべてその場を去った。
この物語はファンタジーです。
実在する魔素及び回復薬とは一切関係ありません。




