089 圧倒
風切り音と共に鋭い突きが飛んでくる。
でも、クリティカルポイントで動作は予測できちゃうので、首を軽く捻って躱す。
ねぇ、今顔面狙って無かった?
容赦無い人だなぁ……。
煽り過ぎたかな?
「ちっ!」
舌打ちして顔を顰めるレオナさんは、次に連撃を放つようだ。
右に避けて、左に避けて、くるっと回って、
「ワン」
「ふざけているのかっ!?」
じゃあそろそろ真面目にやりますか。
初手は隙だらけの左脇にミドルキック。
おっと、辛うじて防いだね。
次はそれを防いだ事で意識が逸れた右脇へ、空中で体を捻ってジャンピングキック。
「ぐっ!」
見事にヒット。
だけど両足が宙に浮いてしまったところに、レオナさんの剣が振り下ろされる。
左足に力を込めて、レオナさんの体を蹴りながら体を捻ってそれを躱す。
そのまま回転の勢いを利用して拳を突き出し、右肩のクリティカルポイントを殴る。
右腕を一瞬使えなくして、次は空中で一回転して、左腕のクリティカルポイントに刺突。
着地後、左足、右足と順に蹴り、全部使えなくしたところで、顎のクリティカルポイントを擦るように拳で打ち抜く。
脳が揺らされて、更に足に力が入らない事で、レオナさんはその場に尻餅を突いた。
「うわぁ、えげつねぇ」
「スキルや魔法どころか、気も魔力も使っておらんのぉ」
「技だけで倒してしまいましたね」
「アイナお姉ちゃん凄いっ!!」
ギャラリー受けもいいし、まずまずかな?
ちなみにスキルは使ってないようで、クリティカルポイントを視てるから厳密に言えば使ってる。
でもパッシブな能力だからオフに出来ないし、いいよね?
まぁそれだけで充分チートなんだけど。
通常、反射神経と呼ばれるものの速度は良くて0.2秒程度。
0.1秒で反応できる人がいたらトップアスリートになれると言われている。
ところが私の場合、直接脳内にクリティカルポイントの動きが描かれるので、反射神経速度は0.01秒未満なのである。
更に流路が見える事で、どこに力を入れているかも視えるので、未来の動きも予測しやすい。
私の反応速度を越えるには、それこそレイアさんの『閃紅』ぐらいの速度が必要なのだ。
……って、あれ?
そっか、レオナさんってどっかで見た事あると思ったら、『閃紅姫』レイアさんに似てるのか。
「くっ、いい気になるなっ!私がスキルを使ったらお前なんかにっ!!」
「どうぞどうぞ。存分に使ってください」
「舐めるなぁっ!!」
レオナさん、煽り耐性低すぎ。
外見は似てるけど、性格はけっこう違うみたいで怒りっぽいなぁ。
いや、レイアさんも割と怒りっぽかったようね気もするけど……、まぁあれはジっちゃんが悪いんだし。
今レオナさんが怒ってるのは私が悪いのか?
そもそも先に煽ってきたの、レオナさんじゃん。
生まれたての子鹿のようにプルプルと立ち上がったレオナさんは、左手に剣を持ち替えて、右手に魔力を込めだした。
魔力が魔法陣に変換されて炎系魔法が発動されると、私に向かって炎の塊が飛んで来る。
魔法の規模が小さすぎて、歩法だけで簡単に避けれるし。
そこへ身を屈めながらレオナさんが迫る。
「三連突っ!!」
ほぼ同時に3つの斬撃が私を襲う。
それを順番に避けていくと、レオナさんの目が驚愕に見開かれた。
「ば、ばかなっ……」
魔法と剣の両方で攻撃するスタイルなんだろうけど、別々に使ってたら避けられるに決まってるでしょうに。
3つの斬撃も普通なら同時に見えるんだろうけど、私にとってはスローモーションで順番に飛んで来てるだけだし。
私は、もう一度レオナさんの顎のクリティカルポイントを打ち抜いて、脳を揺らしてあげた。
クラリと柳のように揺れて、再び尻餅をついてその場に崩れ落ちた。
「勝負有りでいいかな?」
茫然自失としているレオナさんにではなく、後ろで見ていたキャサリン姉と王女に確認を取る。
「そうね。圧倒的にアイナちゃんの勝ちよ」
「目の前の光景が信じられませんが、私もアイナさんの勝ちでいいと思います」
2人のジャッジにより、私の勝利が確定した。
さて、牡丹鍋を食べますか。
王女達も食べてくつもりなのかな?
姿を消してる護衛の人達はどうするんだろう?
可哀想だけど、隠れてるって事は居ないものとして扱った方がいいんだろうね。
護衛の人の方に哀れみの視線を送ると、またビクリと流路が乱れた。




