088 赤髪の護衛
「なるほどね。級友がケガさせられたから怒ってやり返した訳ね」
「ちゃんと証拠隠滅してあるから大丈夫」
「貴族相手にそんなの意味あるわけないでしょう」
だよねぇ……。
「まぁそこは王族の権力で」
「申し訳ありません、公爵は王族とほぼ同等の権力を持ってまして、王太子でも無い私には抑えきれるかどうか分かりません」
王女使えねぇ……。
「まぁ、最悪アタシが何とかするけど、アタシの庇護下にいるって知られたらそれこそ学園には居づらくなるわよ」
さすが我らがキャサリン姉!
もともとぼっち気質の私は、例え周り全部が敵になっても平気ですが?
「居づらくなっても別にいいけど?なんかFクラスは校舎の外で訓練してるから他のクラスの人と顔合わせないし」
「アイナちゃん……それじゃ学園に通ってる意味無いでしょうが……」
キャサリン姉がめっちゃ呆れてるよ。
だから私は学園なんて通いたくないんだってば。
「キャサリン様、お話中失礼とは思いますが。そろそろ私の話も進めていただきたいのですが?」
説教を中断するように王女の護衛の赤髪の人が割って入って来た。
いいぞ、その調子でうやむやにするんだっ!
「はぁ、分かったわ……。アイナちゃん!」
「は、はいっ!」
あれ?赤髪の人の話になるんじゃないの?
「彼女があなたと戦いたいそうよ」
もう訳が分からないよ……。
「……えーっと、どういう事か説明してもらっても?」
「私があなたを気に食わないからです」
端的っ!経緯とかないんかいっ!いじめっ子の理論じゃん、それっ!!
そこへ王女が追従する。
「レオナ、それでは説明になってませんよ。私がアイナさんの事をレオナに話してしまって、尊敬するキャサリン様に手解きを受けている事を知って嫉妬しているのです」
あぁ、何となく分かった。
キャサリン姉ほどの武人に師事したい人は世界中にいるだろう。
そんな中、偶然出会っただけの私が妹分として手解きを受けていると知ったら、そりゃ嫉妬もするよね。
「Fランク程度の者がいくら教えを受けても時間の無駄でしょう。私のようにAランクのスキルを持っている者の方が教えを受けるに相応しいと思ったまでです」
ほほう、言いますなぁ。
ちょっとカチーンと来ちゃったよ。
って言うか、何か物言いというか雰囲気が誰かに似ている気がするんだよなぁ、この人。
赤い髪とか顔立ちとか、どっかで見たような……?
「まぁいいけど。どこで戦うの?庭だと近所迷惑じゃない?」
「この家の地下に訓練場があるわ。魔法障壁も張ってあるから多少の攻撃でも壊れないわよ」
へぇ、そんなのあったんだ。
お腹も減ったし、さっさとやる事にして、私達は地下の訓練場へと移動した。
何故か九曜達とユユちゃんまでみんな付いて来た。
この世界って娯楽少なそうだから、いい見世物にされそうだよ。
幅数十mはあろうかという訓練場は、地下にあるのに魔導具で照らされてかなり明るかった。
こんなに広い空間が地下にあったら陥没とかしそうだけど、どんな工法で建てられてるんだろう?
魔法がある世界だから支柱無しでも広い地下室が作れちゃうのかな?
レオナさんという赤髪の女性は、訓練場にあった木製の剣を手に取った。
私は針が武器なんだけど、別に素手でもいいかな。
「そちらはスキルだろうが魔法だろうが、何をしてもいい。なんなら私は魔法を使わずに手加減してやってもいいが」
「え?寧ろ私が手加減して、スキルも魔法も使わないようにしてあげようと思ってたんだけど?」
「……っ!少しキャサリン様の手解きを受けたぐらいで図に乗るなっ!!」
わー、めっちゃ怒ったぁ。
「ねぇ、ソフィア様。あの子まったくアイナちゃんの実力読めてないみたいだけど大丈夫かしら?」
「レオナはAクラスでもかなり強い方なのですが、アイナさんはそれほどまでに強いのですか?」
「あらぁ、ソフィア様もアイナちゃんの実力読めてなかったのねぇ。はっきり言って天地がひっくり返っても勝てないわよ、あの子じゃ」
「えっ……?ルールーから強いと聞いてはいましたが、さすがにそれは無いでしょう?」
後ろの方でキャサリン姉と王女様が何やら話してるけど、これは分からせた方がいい案件なのね。
私はレオナさんに手招きして煽ってみる。
「じゃあ私が手解きしてあげるから、さっさとかかって来て」
「き、貴様ぁっ!!」
挑発に乗りやすい時点で護衛として失格じゃない?
レオナさんは怒りに目を血走らせて私を睨む。
それでも剣は正中に構えて、体軸にブレも無いから、基礎はしっかりしてるようだ。
けど残念ながら、圧倒的に気も魔力も流路が弱いんだよねぇ……。
この程度でAクラスの強い方なんだとしたら、学園のレベルが低すぎる気がするんですが?
昨日の馬鹿貴族もBクラスでけっこう上位のクラスなのに、大した魔法も使って来なかったし。
オラ、ワクワクしなくなってきちゃったぞ。
これなら影で王女を護衛してる人達の方が数十倍強い。
ちらりと姿を隠蔽している王女の護衛の方を見ると、ビクリと流路が乱れた。
ごめんね、隠れてても私にはどこにいるのか視えちゃうのよ。
たぶん九曜達も位置は掴めなくても、気付いてはいると思う。
その護衛達にすら全く気付いてないレオナさんは、はっきり言って実力不足なのである。
これは是非とも、スキルのランクに胡座をかいてるようじゃダメだって、教えてあげないとね。
 




