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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第三章『学園編』
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087 行軍訓練

 ヴェリー軍曹の訓練は熾烈を極めた——私以外にとってはだけど。

 私の筋力は、獣人化とヴァンパイア化でかなり強化されているので、はっきり言って荷物を担いで山道を歩く程度の行軍は散歩並にぬるい。

 なんなら更に荷物を背負ったレントちゃんを背負ってもいいぐらいだ。

 実際そうしないとヤバそうなぐらい、レントちゃんは千鳥足でフラフラだった。

 ちなみに私は道が全然分からないので、レントちゃんに付いて行くしかない。

 倒れられたら私も帰れなくなるので、回復してあげようか?って聞いたら、


「それじゃ訓練の意味がありません。もうちょっとがんばりますから」


 と断られた。

 すごく真面目でいい子なんだけど、ちょっと心配になってしまうね。

 なんというか、庇護欲を掻き立てる子だなぁ。

 などと考えながら歩いていると、私の索敵範囲に魔物のクリティカルポイントが現れた。

 形的に猪かな?

 それが猛烈なスピードでレントちゃんに向かって駆けてくる。


「やらせねーよ」


 当然レントちゃんに到達する前に、私の前蹴りが猪の顔面を捉えて吹き飛ばす。


「ふわっ!?な、何っ!?」


 行軍中は周囲にも気を配らないとダメだと思うんだけど。

 猪はまだ息があるようだったので、眉間のクリティカルポイントを打ち抜いて止めを刺しておいた。

 首筋の動脈を切断して血抜きを行うが、血が全部出切るのを待つのも面倒なので、傷口に毒で作った袋を付けて背負っていく事にした。


「い、猪の魔物をあっさりと……。アイナさん、なんでFクラスなんですか?」

「スキルがFランクだからかな?」

「Fランクのスキルで魔物が倒せる訳ないじゃないですか……」


 ん?そうなの?

 スキルなんて使い方次第だと思うけどなぁ。


「レントちゃんのはどんなスキルなの?」

「わ、私のスキルは『水操作』っていうスキルです……。水を自由に操れるスキルですけど、近くに水が無いと使えない弱いスキルなんです」


 はぁ?何それチートスキルじゃん。

 リスイ姉並の大魔法使いになれる可能性を秘めてるのに、何でそんなに自信なさげなの?

 ひょっとして使い方分かってない?

 あ、魔力が少ないからいまいち使いこなせないのか。

 これは中々の逸材を見つけてしまったかも知れない。

 将来王国と戦争する事になった時に備えて、育てておくのも悪くないね。


「じゃあ私が後でレントちゃんのスキルの使い方を教えてあげるよ」

「え?使い方は分かってますけど……?」

「あぁ、正確には使いこなし方かな?」

「なんですかそれ?」

「ふふふ、レントちゃんは魔王にだってなれる素質があるという事だよ」

「いや、魔王にはなりたくないですけど……」


 スキルの凶悪性から、勇者ってよりは魔王的存在になっちゃうと思うけどね。

 それはひとまず置いといて、猪を背負って歩き出す。

 程なくして行軍訓練は終了した。

 レントちゃんはもう息も絶え絶えだったけど、トイレで泣いてた時の悲壮感はもう無かった。

 やれば出来る子だ。

 と、そこへヴェリー軍曹がやって来る。


「アイナ二等兵っ!その猪は何だ!?」

「行軍の途中で襲ってきたんで、仕留めましたっ!訓練中に狩ったものは持って帰っちゃダメですか?」

「いや、特に決まりは無いので、持ち帰りを許可する!」

「ありがとうございます、軍曹殿っ!!」

「うむっ!!」

「アイナさん、なんでもうそんなに馴染んでるんですか……?」

「あ、あいつだけ何でピンピンしてんだよ……」

「猪担いで行軍とか、化物か……?」


 よーし、今日は牡丹鍋だぁっ!!




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 学園の門の前で九曜は素振りをしながら待っていた。

 挨拶だけのつもりが、行軍訓練にまで参加してたから遅くなってしまって、申し訳ない。


「お嬢、遅かったな。なんだよその猪?」

「校舎裏の山で狩ったの」

「なんで登校初日から猪狩ってるんだよ?他に何か問題起こさなかっただろうな?」


 はて?何か忘れてるような気もするけど、特に何も無かったように思う。


「たぶん大丈夫だったんじゃないかな?」

「……今俺は、姉君に怒られる覚悟を決めたぞ」

「なんでよ?」


 全く不可解な事言うなぁ、九曜は。


 しかし家に戻ると、そこにはこめかみに青筋を浮かべたキャサリン姉と、何故か満面の笑みの王女が待っていた。


「ア〜イ〜ナ〜ちゃ〜ん?さっそく初日から学園でやらかしてくれたらしいわね〜?」


 こ、怖い……。

 Fクラスになったのはやらかしなのかな?

 だって、私全然悪くないよ?


「アイナ様、私の婚約者候補の馬鹿……もとい公爵家子息のリーゼルトをボコボコにしてくれたそうで。私、今最高に気分がいいですわっ!」


 あ、そっちかぁ……忘れてた。

 恍惚とした表情でとても嬉しそうな王女と、それをドン引きした目で見つめる護衛の赤髪の女性。

 王女の婚約者候補って聞いてたけど、王女的にも好感度は低かったようで何よりだよ。


「そんな事より、猪狩って来たから牡丹鍋にしよう」

「それはいいわね。説教の後でいただきましょう」


 説教回避ならずっ!!

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