086 Fクラス
レントちゃんの様子を見に戻ると、鼻が折れているらしく出血がかなり酷かった。
たぶん呼吸も相当苦しいだろう。
直ぐに魔力多めの治療薬(毒)を鼻に注入してあげると、レントちゃんの顔が輝き、瞬時に鼻が元に戻った。
ついでに浄化液(毒)で血糊も消してあげた。
ふふふ、ルミノール反応すら出さない特別製の毒なので、証拠は完全に隠滅できるのだよ。
「ふぁっ!?あれ?私、鼻血が出てたはずなのに……?」
「大丈夫?」
「あ、アイナさん?うわ、なんでこんな事に……」
リーゼント達が白目を剥いて気絶してるのを見て、レントちゃんが若干引いている。
私的にはまだ全然やり足りないのに。
「リーゼルト様は公爵家のご子息ですよ?こんな事して大丈夫ですか……?」
「あぁ、大丈夫だと思うよ。私にはこの国の王女って言う後ろ盾があるから」
王女は何かあったら自分の名前を出していいと言ってたし、こんな時こそ印籠だよね。
「リーゼルト様は王女殿下の婚約者候補なのですが……」
……マジか?そんな引きあるぅ?
キャサリン姉に怒られる要因が増えちゃったじゃないの……。
まぁ候補なら平気かな?
とりあえず、こっちも証拠隠滅しておくか。
私は金髪リーゼントの足も、不本意ながら治療薬(毒)を注入して治してやった。
ケガを負わせたという事実が無ければ、相手も何も言えまい。
何か言ってきたら次はコーヒーミルク(エイリアン形毒)だけどね。
「さて、じゃあ今度こそFクラスに行こうか。大丈夫、レントちゃんがいじめられてたら私が守ってあげるから」
「いえ、別にいじめられてる訳じゃないんですけど……」
「ん?いじめられてるんじゃないの?じゃあ、何でトイレで泣いてたの?」
「そ、それは、訓練がキツくて……。逃げ出したいけど、両親が無理してお金を出して入学させてくれたから。少しでも頑張らないとと思ってるんですが、時々どうしても辛い時はトイレに逃げ込んでました……」
あぁ、そゆことか。
それだと私が口出す問題じゃないよねぇ。
頑張って耐えて貰わないと。
「とりあえず、私は今日のうちにFクラスに挨拶に行かなきゃいけないから、今度はちゃんと案内してね」
「ひっ!は、はいっ!ご案内しますっ!!」
にっこり微笑んだのに、レントちゃんは盛大に顔を引き攣らせた。
解せぬ。
ようやく校舎裏にたどり着き、割と傾斜の急な山を登って行った。
木々は生い茂ってるのに、足下の茂みは少なくて意外と歩きやすい。
訓練に使われてて、人が踏み均してるからかも知れない。
暫く登ると、小さめの山小屋みたいな物が見えたけど、そこには今は誰もいないようだった。
更に歩いて登って行くと、数人の人が倒れているのが見えてくる。
何があったの?
そしてその中で只一人佇む、キャサリン姉並の筋肉ムキムキな男。
頭は完全なスキンヘッドで、肌は日に焼けて浅黒く、サングラスとタンクトップという、どこかの軍でブートキャンプとかしてそうな風貌である。
ひょっとしてこの人がFクラスの先生なのかな?
「くおらぁっ!!レント二等兵っ!!どこへ行っていたぁっ!?」
「ひいっ!ごめんなさい、トイレに行ってましたぁっ!」
「トイレなら良しっ!!」
いいんかい。
まぁ生理現象だし、しょうが無いよね。
「貴様は何だっ!?」
「はいっ!自分は今日からFクラスに所属する者です!名前はアイナですっ!」
思わず敬礼で応えてしまった。
「よし、アイナ二等兵っ!これから行軍訓練を開始するっ!即時参加せよっ!」
え?今日は挨拶だけって聞いてたのに、参加しなきゃなの?
九曜を待たせてるから、早めに帰りたかったんだけど……。
でも、初日から教官殿に異を唱えるのは良くないだろうし、とりえあず合わせとこう。
「サー、イエッサー!!」
「うむ!!良い返事だっ!!」
茶番だと言う事は分かってるから、そんなジト目でみないでよレントちゃん。
「はぁはぁ……なんだあいつは?新人か?」
「はぁはぁ……あんな弱そうな奴がヴェリー軍曹の訓練に付いて来れるもんかよ」
地面で死屍累々と化している生徒らしき人達が何か言ってる。
軍曹という事は、教官じゃなくて上官だったようだ。
……っていうか、Fクラスって軍隊なの?
でも、他のクラスの人と顔合わせる事無さそうだし、これはこれでいいのかも知れないね。
この物語はファンタジーです。
実在する治療薬及び浄化液及びコーヒーミルクとは一切関係ありません。
 




