085 リーゼント
トイレで出会った少女の名はレントちゃんというらしい。
挙動不審な動きで、私の後ろをビクビクしながら付いて来る。
私は校舎裏へ行く道を知らないんだから、前を歩いて欲しいんだけど……って、まさか行きたくないから適当に歩いてる私の後ろ付いて来てるの?
この子、どんだけクラスに行きたくないのよ?
でも困ったな……Fクラスの場所に行けないと、いじめっ子をいじれないじゃないか。
「ねぇ、レントちゃん。Fクラスの集合場所はこっちでいいの?」
「え、えっと……あっちだと思います」
目がキョロキョロと忙しなく動き、大量の汗をかくレントちゃん。
その汗、絶対ウソをついてる味がすると思うよ……。
しょうがない、その辺にいる人に聞くとするか。
しばらく歩くと、ちょっと独特な髪型の人達の群れが歩いてきた。
この世界では珍しいリーゼントの集団だ。
いや、前世の世界でも珍しかったけど……。
黒髪じゃなくて金やら銀やら緑やら、カラフルな髪ばかりだと威圧感より面白さが先に来ちゃうよ。
丁度良いから、あの人達に道を聞いてみよう。
「何故落ちこぼれのFどもがこんなところにいる?雑魚は校舎内を彷徨くなっ!」
うわぁ、声を掛ける前に罵声を浴びせられたよ。
何なのこの人?
腕にはBと書かれた腕章があるからBクラスの人だと思うけど、この学園のランク至上主義に毒され過ぎじゃない?
「す、すいませんっ!直ぐに立ち去りますのでご容赦をっ!」
うわわ……、レントちゃんが無理矢理私を引っ張って、元来た道を帰ろうとする。
そっちはトイレに逆戻りじゃん。
それにしてもレントちゃんの怯え方が尋常じゃない。
もしかして、こいつらもいじめっ子のうちの一部なの?
しょうがないので、どこか落ち着いた場所で話を聞こうと、レントちゃんの進む方に倣って行こうとするが、
「おおっと、足が滑ったぁ!」
「きゃんっ!!」
先程罵声を浴びせて来た金髪リーゼントの男が、レントちゃんを背後から足蹴にした。
顔面から地面に突っ込んだレントちゃんは鼻血を出して呻いている。
私はそれを見て、危うく怒りで獣化するところだった。
咄嗟に鎮静剤(毒)を腕に打ち込んだから猿にならなくて良かったけど、腸は煮えくり返ったままだ。
「ぎゃはははっ!ちょっと足が当たっただけで転ぶなんて、鍛錬が足りないんじゃないのかぁ?しょぼいスキルしか持ってないんだから、もっと山で鍛えて来いよ!」
あぁ、もう帰ってからキャサリン姉に説教される覚悟は出来た。
なので、容赦はしない。
私はキャサリン姉に教わった歩法で、音も無く金髪リーゼントに近づいた。
そして、そいつの脛のクリティカルポイントに目一杯気を練り込んだトゥーキックをお見舞いしてやった。
ボキリという音とともに膝と踝の中間で、金髪リーゼントの足は折れ曲がった。
「ぎゃあああああっ!!あ、足がああああああぁっ!!」
足を抱えて転げ回る金髪リーゼント。
「ちょっと足が当たっただけで折れるなんて、鍛錬が足りないんじゃないの?」
そのまんま言い返してやったら、周りの取り巻きらしきカラフルリーゼント達がいきり立つ。
「て、てめぇっ!!」
「この方が誰だか分かってんのかぁ!?」
「公爵家のリーゼルト様に手を出して、只で済むと思うなよっ!!」
侯爵の次は公爵かぁ……。
目を付けられる貴族の格が最大まで上がっちゃったよ。
このまま行くと王族にも目を付けられちゃうんじゃないの?
もうね、この国と戦争する未来しか見えない気がするんだけど、相性悪いのかなぁ?
「き、貴様……許さんぞっ!!」
足を押さえて涙目になりながら、金髪リーゼントは片方の手に魔力を込め出した。
魔法陣の形から、炎系の魔法だと推測できる。
「我が『獄炎魔法』で塵と化せっ!!」
金髪リーゼントが魔法陣に魔力を込めると、獄炎が……発生せずにプスンという音を出して消滅した。
「……は?」
何が起こったか分からずに呆ける金髪リーゼント。
リスイ姉に教わった『魔法ジャミング』が成功した。
これは魔素を操って、相手が構築した魔法陣を発動しないようにジャミングする技だ。
ただし、普通はかなりの魔素量と緻密な操作を必要とするので、リスイ姉ぐらい自在に魔素を操れないと出来ない。
リスイ姉ほど緻密に魔素を操作出来ないけど、私はファンタジージャミング魔素(毒)で相手の魔素を掻き消すという裏技を使えるので、一応遜色無いぐらいに再現できる。
だから私の前では、魔法はいっさい発動できないのだよ。
「お、お前らっ!魔法を撃てっ!!」
「は、はいっ!!」
金髪リーゼントが取り巻き達に命じると、皆一斉に魔法陣を構築する。
全員魔法系スキルの所持者のようだ。
さすがBランクと言いたいとこだけど、どいつもこいつも魔力量がしょぼすぎる。
そんなんで魔物とか狩れるのかな?って思っちゃうよ。
「く、食らえっ!!」
もちろん既にジャミングは完了しているので魔法が発動する事は無い。
そして、次々にリーゼント達がその場に突っ伏していく。
「な、何が……」
「か、体が動かない……」
「魔法も発動しないし、何が起きてるんだっ?」
もちろん、私が既に周囲に漂わせていた一酸化炭素(猛毒)を吸い込んだから、体が動かなくなっているんだよ。
後遺症が無いタイプにしてあるから10分経てば動けるようになるけど、もちろんそのままで終わらせる気など無い。
女の子を足蹴にするような馬鹿は徹底的にいたぶっておかないとね。
簡単に足が折れちゃうし、カルシウムが足りない様なのでミルク(毒)を生成してあげた。
ミルクは白いので蛇や芋虫の形にしても、いまいちおどろおどろしさが足りないよね。
という事で、学園七不思議にあやかって、霧状にしてレイスっぽくしてみました。
「ひいいいいぃっ!!」
「ぎゃあああああああっ!!」
「た、助けてぇっ!!」
不気味な顔でケタケタと笑いながら、リーゼント達の口から体内に入り込んでいくレイス達。
でもやっぱり白だとグロさが足りないなぁ。
次回はコーヒーミルク(毒)でいこうっと。
この物語はファンタジーです。
実在する鎮静剤及びファンタジージャミング魔素及び一酸化炭素及びミルク及びコーヒーミルクとは一切関係ありません。




