表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第三章『学園編』
79/258

079 説教

「なるほど、その獣人の子供を先に保護しに行った訳ね」

「はい、そうです……」


 説教を聞く体勢とは、今も昔も正座と相場は決まっている。

 しかし、前世ですら滅多にした事のない正座は地味にきつくて、畳じゃない硬い床での正座はもはや拷問だよ……。

 でも九曜達は割と涼しい顔で、何事もないように正座していた。

 和装だから、この座り方に慣れているのかな?


「それで、さっきの消える技は何なの?あんなの、以前は使って無かったわよね?」


 キャサリン姉の目が鋭くこちらを射貫く。


「えっと……、吹雪達が隠密行動できる妖術を使ってたので、それを出来るようにするために、吹雪の遺伝子情報を元に私の遺伝子を組み換えて、妖術を使えるようにした」

「イデンシ?組み換え?もう、何言ってるか理解出来ないんだけど……?」

「要約すると、ヴァンパイアになった時みたいに、私のスキルで吹雪と同族になったって事」


 キャサリン姉は頭痛の状態異常になったようで、こめかみを押さえている。

 どこかから攻撃でも受けた?


「妖術ねぇ……。東方の国の一部では、公儀隠密が魔法とは異なる体系の術を使うと聞いた事があるけど……」


 それを聞いた九曜達が、一瞬ビクリとしたのが伝わってきた。

 それに呼応するようにキャサリン姉の気が膨れ上がり、それが威圧として放たれる。

 抵抗力の弱い者は気絶してしまう程の気だが、九曜達はなんとか耐えきったようだ。

 私はもちろん気の圧力には耐えきったが、足の痺れは限界に達しており、そっちが耐え切れそうにない。

 こっそり回復薬(毒)を足に注入しようと思ったけど、たぶんやったらもっと怒られるので、今は我慢だ。


「和装だからそうかもとは思ってたけど、この国に潜入していたスパイだったの?」

「ち、違いますっ!私達はもう国とは関係ありませんっ!」


 吹雪が必死に弁明する。


「あぁ、勘違いしないでね。私は国同士のいざこざに関与するつもりは無いの。でも知っての通り、アイナちゃんのスキルは規格外過ぎて、信用出来ない者を近くに置いとけないのよ。この子は結構抜けてるとこあるから、心配でね」


 あれ?九曜達の話をしていたはずが、何故か私がディスられてるんですけど?解せぬっ!そして、足痛いっ!!


「私達は東方の扶倭国ふわこくの元公儀隠密こうぎおんみつです。ですが、国主の継承問題で任を解かれ、今はただの流浪の身でしかありません。それに、拾っていただいた主殿への忠誠に偽りはありません」

「同じく、俺も忠誠に偽りは無い」

「同じく、儂も忠誠に偽りなどありませぬ」


 吹雪の説明に加え、3人が真摯に忠誠を訴えたからか、キャサリン姉は気を解いた。


「分かったわ。東方の武人が偽りの忠誠を誓うはずがないものね」


 一同ほっと肩から力を抜くが、そこに追い打ちが来る。


「でも、忠誠を誓ったのなら、尚更この子を止めるべきだったでしょう?」

「そ、それは……」

「うむぅ……そうなんだが」

「おっしゃる通りじゃ……」

「いやいや、それは私が我が儘を押し通したんだから、3人は悪くないよっ!」


 なんか劣勢になったので3人を庇ってみたが、キャサリン姉の眉間に皺が寄ったので、藪蛇だったかも?


「主の『愚行ぐこう』を諌言かんげんできなくて、何が忠誠かっ!?」


 愚行をめっちゃ強調されたし……。


「はい……」

「面目ない」

「ぐうの音も出ん……」


 全員正座のまま項垂れてしまった。

 と、そこで獣人の子供が目を覚ます。


「……んぅ。ここどこ?」


 寝ぼけ眼で辺りを見回して、キャサリン姉を見た瞬間に少しビクッとした。

 ちょっとキャサリン姉が悲しそうな顔しちゃったじゃない。

 すぐに吹雪が駆け寄って、獣人の子供を抱きしめた。


「あれ?狐のお姉ちゃん?」

「もう大丈夫よ。ここに居れば心配無いからね」

「う、うん……」


 まだ状況が飲み込めてないのだろう。


「ねぇ、キャサリン姉。とりあえず、この子の事を先にしない?」


 若干ジト目で見られるが、呆れたような溜息をついて説教を終わりにしてくれた。

 窓から見える空が、僅かに漆黒から薄まって来ていた。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 王城の中の一間、広めの部屋の中央の対になった長椅子に、美しい少女と仮面を被った2人が向かい合って座っていた。


「どうでしたか?」

「情報通り、真っ黒じゃな」

「私達が行く前に一悶着あったようで、調べるまでもありませんでした。既に捕縛隊を向かわせましたので、伯爵はもう捕らえられた頃でしょう」

「そうですか、ご苦労様でした」


 労いの言葉を少女が掛けると、仮面の2人は満足そうに頷く。


「それでじゃ、例の娘を見つけたんだが」

「あら、本当ですか?」

「偶然にも伯爵邸の騒動を起こしたのが、その……」

「え……?ぷふっ、あははははっ!それは面白そうな子ですね。会うのがとても楽しみだわ」

「それが、彼女は今『拳聖』と『魔操』の家にいるらしく」

「あら、そうなのですか?丁度お礼もしたかった事ですし、それならば今日にでも伺いましょう」

「きょ、今日ですかっ!?」

「善は急げと言いますでしょ?」


 まだ窓の外は薄暗いというのに、ニコリと笑った少女は、いそいそと支度を始めるのだった。

この物語はファンタジーです。

実在する回復薬とは一切関係ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ