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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第三章『学園編』
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076 伯爵は語る

「おりゃああああっ!!」


 九曜が上段から切りつけると、咄嗟に戦士風の男は剣を抜き、攻撃を逸らす。

 九曜の動きに反応できるって、かなり優秀な使い手のようだ。

 同時に叢雲も低い姿勢から仮面の人を狙うが、もう一人の男が薙ぎ払うように剣を振ったため近づけなかった。

 こちらも相当な実力者なのだろう。

 逆に仮面の人の力が計れない。

 でも今は、悠長にそんな事を気にかけてられない。

 私は念のために、私と吹雪も忍装束(毒)で包み込んだ。


『吹雪、天井壊して突入するよ』

『そ、そんな事したら人が集まってくるのでは?』

『もう見つかってるし、遅かれ早かれ集まってくるよ。時間が無いから強行突破する』


 『伝心』で会話しつつ、毒針で魔法陣を形成した。

 クリティカルポイントを探って、天井の人が居ない場所へ向けて魔法を放つ。

 収束された炎が上方へ放たれると、轟音と共に、天井どころか屋根まで突き破って直径1m強の穴を開けた。

 天井の厚みとか良く分からないから強めに撃ったけど、予想外に薄くて屋根まで突き抜けちゃったよ。

 伯爵邸だけじゃなくて、周囲の貴族邸にまで音が響いたかも知れない。

 やり過ぎたかな?


『い、急ぐよ吹雪っ!』

『主殿、もうちょっと加減を……』


 呆れた顔してる場合じゃないでしょ。

 クリティカルポイントの動きで表情も分かるんだからねっ!


 私と吹雪は直ぐに飛び上がり、屋根裏へと上った。

 僅かな明かりに照らされた薄暗い部屋には、血の臭いが混ざった悪臭で満ちていて、嗅覚をこれでもかと刺激する。

 顔を顰めつつ、我慢して周囲を探る。

 そこには四肢を切断された人達が、無数に横たわっていた。

 直ぐにでも治療してあげたいけど、下手に力を見せるとどこから情報が漏れるか分からない。

 姉達にも力をなるべく隠すように言われてるし、迂闊に治療は出来ないんだよ……。

 はがゆい想いで、目的の獣人の子供を探すと、小さな体が台座の上で拘束されているのを見つけた。

 近づこうとしたところで、この部屋に於いて、その先にいる人物だけが平然と直立している事に気付く。


「あぁ、新しい玩具が来たようだね。歓迎するよ」


 それが薄明かりの中で、ニヤリと不気味な笑顔を見せたのが分かった。


『あの声……恐らく伯爵です』


 吹雪が苦々しげに伝える。

 これが伯爵か……。

 思ったよりも大きく、体格の良い九曜よりも一回り大きいように視える。

 僅かに照らされた光が反射して、伯爵が手に斧のようなものを持っているのが分かった。


 それをどうする気だった……?

 まさか、そこに縛られてる子供へと振り下ろそうとしてたんじゃないだろうな?


 私の中で猛烈な怒りが膨れ上がる。

 それが感情の振り幅を大きく越えてしまったため、もはや無意識に駆け出していた。

 そして伯爵と肉薄する前に、既に体は獣へと変貌と遂げており、右の拳には目一杯の気が集中していた。

 輝きを放つ黄金の右拳が、伯爵の左頬を完全に捉える。

 首を吹き飛ばすぐらいの勢いで殴ったのだが、伯爵の首は繋がったままで、頭が体を引っ張るように後ろへ吹き飛んで行った。

 そのまま後ろにあったガラクタを巻き込み、後方の壁に猛烈な勢いで激突した。

 かなりのダメージを与えたつもりだったが、何故か伯爵の流路はほとんど乱れていないのが不気味だ。

 追撃を!と思ったが、それを遮るように吹雪からの伝心が来た事で、私は我に返った。


『主殿、私が奴を抑えるので、子供を保護してください!』


 吹雪が新たな妖術を発動すると、黄金の鎖が現れて伯爵の手足を拘束する。

 余計な追撃をしている時間は無いので、この場を吹雪に任せて、私は獣人の子がいる所へと急いだ。


 獣人の子は、台座に鉄の錠のようなもので繋がれていて、頬には涙が流れた痕があった。

 どうやら気絶しているようだ。

 その姿を見て、再び私の中で怒りが湧き上がるが、なんとか無理矢理感情を押さえつける。

 最優先はこの子を保護する事なのだからと。


「そこの子供を助けに来たのか?残念ながら、その鉄錠は私が持っている鍵が無いと開けられないよ」


 何事も無かったかのように、鎖に繋がれている伯爵が告げた。

 やはり、ダメージが少ない……どうなってるの?

 でも吹雪が拘束してくれてるから、今はほっとく。


 私は鍵穴に液体金属(毒)を注入して中を探る。

 形を把握したら、鍵の形状に凝固させ、そのまま回して鉄錠を開けた。

 ふふん。こんな古いタイプの鍵なんて、スキルがある世界じゃ何のセキュリティにもならないよ。


「鍵を開けたのか……?どうにも厄介なスキル持ちのようだね。では、ここで纏めて片付けておく事にしようか。その後で生きたまま切り刻んであげるよ」


 そう言った伯爵の気が急激に膨らみ、押さえつけていた吹雪の妖術を弾き飛ばした。


『なっ!?私の拘束術を破るなんてっ……』


 抵抗出来ない弱者をいたぶるような奴だから、もっとひ弱な精神異常者だと思ってたけど、達人級の流路を持つ精神異常者だったようだ。

 それだけの力を身につける過程で、もっと精神的に成長できなかったのだろうか?


「私のスキルは、『自己回復』なのだよ」


 自らスキルを開示するなんて、余程の自信家なの?

 私が殴った傷がもう回復しているのは、そのスキルのせいか……。


「この『自己回復』 、残念ながらFランクスキルでね……。そのおかげで随分と苦しめられたよ。家督は弟に継がせる事になったし、家でも学園でも私の居場所は無かった」


 なんか急に語り始めた。

 あぁ、この国では直接的な攻撃力でスキルのランクを定義してるもんね。

 私のスキルもFランクだし。

 あれ?家督は弟に継がせる事になったのに、何でこの人、伯爵になれてんの?まさか……。


「あぁ、私が現在伯爵の地位についてるのが疑問かい?もちろん、障害になる者は全て粛正したからね」


 やっぱり。


「私はFランクスキルである事に苦悩し、スキルを成長させる為に自傷行為を繰り返した。傷が治る速度が少しずつ速くなっていくのが最初は嬉しかったんだけど、その喜びの感情が、いつしか別のベクトルへと歩み始めたんだ。傷を治す力を得る為に、傷をつける喜びを得るなんて面白いよね」


 全然面白くないですけどぉ!

 寧ろ怖いんですけどぉ!


「そして、ある事に気付いたんだ。私のスキルは傷を治す度に、体を成長させるって」


 超回復か……。

 それは誰もが持ってる成長の力だけど、スキルがそれを促進してるとしたら、かなりヤバい事になりそうだね。


「その後、私は魔物を狩りまくった。自分を傷つける喜びと、魔物を傷つける喜びの両方を得られる狩りが、楽しくてしょうが無かった。しかし、人というのは楽しい事が続き過ぎると、飽きてくるものでね。より快楽を味わいたくなってしまうんだよ。そして、より人の道から外れた行為がこの上ない愉悦となって、私の心を満たしてくれた。それが人を切り刻む事だよ」


 はいはい、全く理解できませんよー。

 ようやく自分語りが終わったのか、伯爵の気が一気に高まった。

この物語はファンタジーです。

実在する忍装束及び液体金属とは一切関係ありません。

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