071 液体金属と治療
購入した奴隷達は、私との奴隷契約が完了した後も、まだ困惑している。
「こう言っちゃ何だが……嬢ちゃん正気か?」
「これ、ご主人様に失礼じゃぞ。……だが、その意見には同意せざるを得ん」
「私達に出来る事は限られると思うのですが、本当によろしいのですか?」
三者三様の言葉ではあるけど、内容は後悔しないか?という事で一緒だね。
「大丈夫。3人には私の護衛としてしっかり働いてもらうから」
「いや、まともに動くだけでも難しいのにそれは無理だろ」
「五体満足でない我々では期待に応えられませんぞ」
「今の私では足手まといにしかならないと思います……」
不安気な表情を見せる奴隷達に、キャサリン姉とリスイ姉も表情を暗くする。
「とりあえず話は場所を移してからね。ここじゃ出来ない話もあるから」
「それでは、奴隷達を運ぶ者を手配しましょう」
「あ、それは必要無いです」
奴隷商のおっさんが、奴隷達は自分で移動出来ないので誰かに運ばせようとしてくれるが、私はそれを断った。
「どうやって連れて行くの?まぁ、アタシが背負ってもいいけど」
筋肉をムキっとさせながらキャサリン姉が提案してくれるけど、私は首を横に振って必要無いと伝える。
私は針から液体金属(毒)を生成して、奴隷達の欠損部位付近に纏わり付かせる。
それを、未来から来た液体金属ベースの殺人機械のごとく、人体を模して腕や足に形成していった。
「うわっ!金属の腕と足!?」
「ぬおっ!?こ、これはっ……」
「何かが私の肩に纏わり付いてる?」
奴隷達が驚いているが、一番驚いているのは奴隷商のおっさんだった。
目玉が飛び出そうな程目を見開いてるし。
「どう?立ってみてくれる?」
自身の体と繋がってる訳じゃないから感覚は無いだろうけど、私が流路を視て動作を補助するので普通に動けるはずだ。
「えっ!?俺の意思を汲んだように動いたぞ、これ!?」
「若干の違和感はあるが、儂の動きに追従してくれる」
「え?あれ?腕があるかのようなバランスで立てました」
とりあえず応急処置だけど、日常的な動きには問題無さそうだね。
これで移動できるようになった。
「じゃあ、家を買いに行こう」
「相変わらずぶっ飛んだ事するわね、アイナちゃん……」
「アイナのスキルの底が知れない……」
姉達に呆れられ、奴隷達には驚愕され、奴隷商は強力な魔物でも見るかのように畏怖していた。
その後、奴隷達を連れて、私達は商業ギルドへ家を買いに来た。
男性2人は普通に歩けるが、女性の方は目が見えていないので、私が金属の手を引いて歩く。
商業ギルドでも、姉達はかなり恐縮されていた。
そして、姉達に随行している私達は訝しげな目で見られていた。何故だ?
家に関しては、私は寝る場所さえあればいいので、特に口だしする事も無い。
でもキャサリン姉とリスイ姉はセキュリティにかなり拘っていた。
その為、一般市民が住むような場所じゃなくて、貴族街と呼ばれる豪華な邸宅が並ぶ地域の家を購入する事が決まってしまった。
セキュリティ万全でも、逆に落ち着かないんですけど?
貴族相手に粗相したら、また面倒くさい事になりそうな気がする……。
外出するのが怖いので、この日、私が引き籠もる事が決定した。
購入した家に着いてみると、更に驚愕の事実が。
「でかすぎ……」
3階建てで部屋数50以上あると思われる程の、正に貴族の豪邸。
キャサリン姉とリスイ姉は留守にする事が多くなるらしいので、実質私と奴隷の3人で住む事になるのに、いくら何でも広すぎるでしょ。
庭もかなり広く、大型犬が運動不足にならないぐらいの広さがある。
邸宅の中に入ると、これまた豪華なシャンデリアやら芸術品やらで飾られていて、一般庶民の私には住む場所という感覚が芽生えない様相だった。
「ここは貴族がお金に困って売りに出したところらしいわ」
「魔導具でセキュリティも万全。侵入者は消し炭になる」
「ならないわよ」
リスイ姉の冗談が分かりづらいから、キャサリン姉が速攻否定してくれて助かる。
私達はひとまず広めの談話室に腰を落ち着ける事にした。
豪華なソファーに、奴隷達も含めて全員で座る。
「とりあえず彼らが動けるようになったのはいいのだけども、これって結局アイナちゃんが動かしてるんでしょ?それじゃ護衛にならないじゃない」
「動きを見てると、とても戦闘まで出来ると思えない」
キャサリン姉とリスイ姉の指摘に、奴隷達3人も黙って首肯する。
「金属の義手と義足は、あくまでも応急処置だよ。これから治療するんだから」
「「「「「治療!?」」」」」
奴隷達が驚くのは分かるけど、なんで姉達も驚いているの?
そういえば、2人に出会ってから大きなケガもしてないし、多少の傷はヴァンパイアの能力で自然治癒するから、毒針での治療を見せた事は無かったっけ。
とりあえず奴隷達に付けておいた液体金属を解除して、元の状態に戻す。
3人いっぺんに治すとなると、多分魔力が足りなくなりそうなので、ブーストする事にする。
以前リスイ姉が見せてくれた体全体に描く魔方陣で魔力の流路を爆発的に高めると、私はゆらめく赤いオーラの膜に包まれた。
そして3人のクリティカルポイントに、目一杯魔力を注ぎ込んだ回復薬(毒)を打ち込んでいく。
「うがああっ!!」
「ぬおあああっ!!」
「きゃああああっ!!」
奴隷達が目映い光に包まれ、欠損した部位から手や足が生え始める。
お爺さんの脇腹も復元されて行き、お姉さんの目にも光が宿っていった。
暫くすると、五体満足な姿に戻った奴隷達は、ぐったりと倒れるようにソファーに体を預けた。
治癒は私の魔力だけじゃなくて本人の体力も使うから、欠損部位を修復する程だと相当疲れるはずだ。
それでも達人級の流路を持つ3人は意識を失う事無く、治療を終える事ができた。
逆に私の意識はどんどん遠ざかっていく。
「ふへへ、どうよ……」
ドヤ顔と共にソファーに倒れ込む私を、5人の驚愕の視線が追った。
「これ、ダメなやつじゃない……?」
「うん、これ絶対ダメなやつ……」
薄れゆく意識の中で、キャサリン姉とリスイ姉の真剣な声が聞こえた気がした。
この物語はファンタジーです。
実在する液体金属とは一切関係ありません。




