070 奴隷達
途中残酷な描写があります。
ご注意ください。
奴隷商館の地下はむせ返るような悪臭が蔓延していた。
私はキレイな空気(毒)を生成して自分の体に纏わせ、呼吸に影響が出ないようにした。
「アイナ、ずるい。私にもそれやって」
魔力感知が鋭いリスイ姉にはバレていたか。
キャサリン姉とリスイ姉、ついでに奴隷商のおっさんも空気の膜で包んであげた。
「ふぅ……これなら臭くないわね。ありがとアイナちゃん」
「さすがアイナ、とっても便利。ありがと」
「こ、これは……恐れ入ります」
感謝されるのは気分いいのだけど、便利ってのだけ何か引っかかるんですが?
僅かに壁が発光しているけど、地下なのでそれなりに暗く、足下に気をつけながら進んだ。
それぞれの部屋は鉄格子で区切られていて、さながら牢屋のようだ。
たぶん、実際に犯罪奴隷等を収容するための牢屋の役目も担っているのだろう。
それ以外の役目としては、精神に異常をきたした奴隷の自由を封じるとかかな……?
いずれにしてもあんまり気持ちいい場所でない事は確かだ。
そりゃあ、上客である姉達に足を運ばせたくないよね。
途中下卑た笑みを浮かべた奴隷がちょっかい掛けてこようとするが、軽く威圧しただけで静かになった。
やっぱり私って弱そうに見えるのかな……?
暫く歩いてたどり着いた先、地下の最奥の鉄格子の向こうに目的の人物達が居た。
その姿は直視するのも憚られる程酷かった。
一人目は女性で、白い獣の耳と尻尾が生えている獣人だった。
顔立ちは美しいと思われるのだが、両目には包帯が巻かれ、肩から先の腕が両方とも無かった。
二人目は若い男性だが、左腕と両足が無い。
しかし筋肉質な残った右腕で逆立ち状態で腕立て伏せをしていた。
三人目は白髪の老人で、片目は大きな傷で抉れており、残った瞳はもの凄い眼光を発してこちらを覗っていた。
しかし、左腕と左足は無く、脇腹も抉れていて、よく生きていられるなと思うほど状態が酷い。
三人共普通であれば、その状態になる前に息絶えるのではないかと思える程の体の欠損を抱えているが、体内の流路は常人の域を越える程の強さを秘めていた。
それと私の目を引いた一番の特徴は、彼らの着る衣服が和装だった事だ。
この世界では初めてみる服だけど、和を感じる服装に前世の成人式を思い出し、少しだけ親近感が増した。
「この3人は、嗜虐趣味の貴族に弄ばれたようで、処分しろと押し付けられた奴隷です」
胸クソ悪くなるような話に、キャサリン姉とリスイ姉の目が鋭くなる。
「それはどこの貴族だ?」
キャサリン姉が男ボイスになってる。
これはめっちゃ怒ってるな。
「も、申し訳ございません。足取りを掴ませないためにか仮面を被った者が連れてきたもので、誰なのかは存じ上げません。かなり強い護衛も連れていて、逆らう事が出来なかったのです」
「奴隷達に聞く事は出来ないの?」
「それが、特殊な奴隷紋が刻まれていて、貴族の情報に関して話せなくなっているようです。他者に譲渡する事は出来るのですが、譲渡した相手の命令であっても話す事は出来ないらしく……」
徹底してるって事は常習犯か……。
そんな貴族は野放しにしたくないけど、手掛かりも無いんじゃどうしようもない——私以外だったらね。
後で奴隷紋破壊して聞き出してやんよっ!
「なんだ、そんな幼い子をこんなとこに連れてくんなよ」
若い男が腕立て伏せしながら奴隷商のおっさんに鋭い視線を向ける。
「お嬢さん、儂らになんぞ用かのぉ?」
おや?この白髪のお爺さんは、私が主となってここに来た事を理解しているっぽい。
私の外見に捕らわれないなんて見所あるね。
「貴方達3人を購入したいと思って、ここに連れて来てもらったの」
3人の雰囲気が突然剣呑なものになる。
「冗談はよせ。今の俺達に価値なんてねぇぞ。嗜虐趣味のあるクソヤローでも飽きて手放す程だ」
「悪い事は言わん。他をあたりなさい」
男性とお爺さんは私を遠ざけようと、わざと悪態をついてるように見える。
その態度に、逆に私は好感が増したよ。
そして、もう一人の女性は……
「お願いがあります。私の命を捧げても構いませんので、どうかこの2人に安息の日々を与えてください」
自らを差し出して、男性とお爺さんを助けて欲しいと懇願する。
その言葉に、男性は目を見開き、お爺さんは嘆息する。
自己犠牲か……とても美しいね。
「だが断る!」
様式美として一応言ってみた。
なんか全員ドン引きしてるんですけど?
他の関係無い奴隷達まで引いてるけど、盗み聞きしないでよ。
「3人とも買うし、3人とも幸せになってもらうからね」
「はぁっ!?」
「何を言っとるんじゃ!?」
「ええっ!?」
理解できないと困惑の表情を見せる奴隷達。
まぁ、買わないという選択肢は無いのよね。
とりあえず私のものになってもらわないと、奴隷紋破壊出来ないし。
「という訳で購入したいんだけど、おいくら?」
奴隷商のおっさん、目を丸くして驚いている。
「え?あの……本当にご購入なさるので?」
「はい。本当に購入します」
キャサリン姉とリスイ姉は、やれやれと言った表情を見せるが、もう止めるつもりも無いみたいだ。
おっさんも姉達を見て腹を括り、購入の手続きを進めてくれた。
3人で金貨1枚という格安で購入できた。
金貨の価値とか知らんけど、私が持ってるお金で一括で買えたから、スマホより安いんじゃないかな?
前世で、スマホ一括で買うのなんて上流階級の人だけだったし(個人の見解です)。
お金を懐から出して支払った私を見て、キャサリン姉が一言。
「奴隷購入するお金は、私達が出してあげるつもりだったのに」
それを先に言ってよっ!!
この物語はファンタジーです。
実在するキレイな空気とは一切関係ありません。




