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【完結】毒針クリティカル  作者: ふぁち
第二章『冒険者編』
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066 討伐完了

 キャサリンさんの繰り出す拳を金色のミノタウロスは斧や腕で防ぎ、時折反撃して斧を振るうも、キャサリンさんは余裕を持って躱す。

 一見均衡した攻防に見えるけど、クリティカルポイントが視える私には、キャサリンさんの凄さが理解できた。


「フンっ。噂の『拳聖』もパワーアップした俺の前じゃ、大した事ねぇなぁ」


 あぁ、力に目が行ってるだけのミノタウロスには、何をされているのか感じ取る事すら出来ないのか。

 私はキャサリンさんの真似をして増強した力を、ただの膂力として使っていただけだった。

 でもキャサリンさんの隆起した筋肉は、膂力を生み出すというよりは、より正確な動作をするために使われているのが視えた。

 達人級の武術は、あんなにも流麗で美しいものなんだね。

 一切の無駄無く、攻防一体の動きでミノタウロスに相対している。

 あの動きは長年の鍛錬によるものだろうから、私には真似出来ないものだ。

 そして、当のミノタウロスは気付いてないけど、少しずつ急所に気が打ち込まれている。

 防御しているつもりが、いつの間にか体の各所の自由が奪われているはず。


「な、なんだ!?急に体が重く……」

「終わりよっ」


 正拳がミノタウロスの眉間を捉え、白目を剥いた金色のミノタウロスはその場に伏した。

 筋肉隆々のオネエさんは、残心までが麗しく魅力に溢れていた。


「くっそぉ、金兄貴までやられたぁ!?」

「他の心配してる場合じゃないと思う」


 リスイさんはさっきの私のレーザーを真似て、炎の光線を複数放つ。

 しかし私はリモートで撃てるのに対して、リスイさんは手元からしか魔法を発動できないので、若干苦労しているようだ。

 それでも鱗を貫けるので、ミノタウロスは防御する訳にもいかずに、躱し続けるしかない。


「くそ、鬱陶しいっ!!」


 当然の如く攻めあぐねるが、リスイさんの方も決め手に欠けている。


「魔方陣を小さくすると大きなダメージを与えづらい……」


 収束しないと鱗を貫けないから、必然的に攻撃範囲も狭まり、小さなダメージを重ねていくしかない。

 ……と思いきや、リスイさんは小さな魔方陣を、数百にも及ぶ数で一度に展開した。

 私は自分で出した魔素しか操れないから、針の数で制限を受けるけど、周辺の魔素を自在に操れるリスイさんは無制限に魔方陣を展開できるのか。

 全ての魔方陣に魔力を込めて、広範囲に放射されたレーザーを避ける術はない。

 ミノタウロスの上半身は蜂の巣にされ、おそらく何が起きたのか感じる間もないまま、命の幕を閉じた。

 魔操士という名からは想像できない、キャサリンさんとは対称的な力業ちからわざでごり押ししたリスイさん。

 私とそれほど変わらない体格なのに、溢れ出す魔力のせいか、とても雄々しく見えた。


 それにしても2人とも、やっぱり化物級に強い。

 ぐったりとして動けなくなっている私と違って、戦闘が終わった後も身体強化による後遺症も無いかのように平然としている。

 連戦になった時に備えて、無駄に力を使い切らない戦い方を心得ているんだろう。

 その辺、私は戦いに関しては素人だし、力に頼りすぎてて甘い部分があるよね。

 でも、それはこれから学んでいけばいい事だ。

 暫くはこの2人が保護してくれるんだし。


「大丈夫、アイナちゃん?」

「アイナ、平気?」


 キャサリンさんとリスイさんに心配そうに覗き込まれる。

 私はこの2人をかなり信頼できると思っている。

 全裸で寝ている無防備な私に無体なことはしなかったし、力尽くで私を『監視対象』とする事もできたはずなのに、『保護』を申し出てくれるあたり、優しさを感じる。

 実際は監視もしているんだろうけど、『保護』をのたまった以上、見捨てられる事も無いだろうと思うし。

 長い逃亡生活の中で、力を手にしてからある程度は余裕を持てていたけど、心まで安心できるのは両親と生活していた時以来かも知れない。

 暫くは一緒にいてくれるみたいだし、2人を姉のように慕える関係になれたらいいなと思った。

 一人は生物学的におすだけど……。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 はるか上空を飛ぶ飛龍の眼を通して見ていた龍王は、嘆息せざるを得なかった。


「力だけ魔王級になっても話にならんな。有象無象が相手ならともかく、勇者を相手にするには不足でしかない」


 それなりに名のある魔物を選んで『限界突破薬』を渡したのはいいが、基礎的な能力に欠けているものがあった。

 膂力にのみとらわれている者は、どれだけ力を得ても奮い方が拙すぎるのだ。

 だが、前例の伯爵ほど我を失ってしまう訳では無かったので、それが分かっただけでも良しとする事にした。

 ある程度以上の力量の者ならば、『限界突破薬』に飲み込まれる事は無い。

 あとは魔導王が龍族にも適用できる薬を開発するのを待つだけだ。


「それにしても、あの小娘……徐々に力をつけて来ている。勇者の保護を受けてしまって厄介だが、手に負えなくなる前に必ず潰す」


 近い将来、大きな動きがあると龍王は感じていた。

 『獣王』『闇王』が不在となり、『魔導王』が動きを見せた。

 そして先日、ある者の動向も偶然捉えた。


「『不死王』も動いた……。来たるべき日までに間に合わせねばな」

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