061 保護
目が覚めると昨日まで味わっていたベッドの心地よさは無く、ひんやりとした地面の感触に僅かな喪失感を覚えた。
そして何故か体に一枚の布が掛けられている。
ぼーっとした頭が徐々に冴えてくると共に、羞恥で顔が赤くなる。
スタンピードで思ったより疲れていたのか、ふて寝でそのまま寝入ってしまって……おそらく全裸を晒してしまった。
なんてこった!
まぁまだ子供の体だし、見られても恥ずかしく……恥ずいっ!!
精神年齢は普通に大人だし、オネエさんの方はたぶん生物学上は雄だから、見られちゃったらもうお嫁に行けない……。
「お嬢ちゃん、起きたはいいけど、変な事考えてなぁい?」
声のした方に顔だけで振り向くと、昨日のオネエさんが何か大きな魔物を解体していた。
私は手探りで針を探して、素早く服を生成して起き上がる。
「もうお嫁に行けなくなったので、お婿になる方法を考えてました」
「うん、訳分かんないわね。ちなみにアタシは一瞬しか見てないから安心してね」
「安心の要素がかき消えましたけどっ!?」
見ちゃってんじゃん!
まぁ、心が乙女なら大丈夫なのかな?
んなわけあるかぁ!
「それより、これは昨日怒らせちゃったお詫び。猪肉美味しいわよ」
そんなものでご機嫌とろうなんて……肉だ!ひゃっほい!!
猪は久しぶりだわー!
最近は熊ぐらいしか食べてないし。
蟹とかすっぽんもいいけど、がっつり獣肉も食べたくなるのよね。
「まぁ、許す……」
「ウフフ、ありがとっ!」
そういえばもう一人が見当たらないなぁ。
キョロキョロと辺りを見回すと、何か大きな物を引き摺るズルズルという音が近づいてきた。
「オークしか居なかった。でもオークジェネラルだから高級肉」
もう一人の方である少女が、自身の倍ぐらいあるオークを引き摺って来た。
本人は明らかに無傷だし、あんな大きなオークを簡単に倒すとは、正に化物。
まぁ人型相手なら私でも何とかなると思うけど。
それにしてもオークか……。
カタコトとは言え、人の言葉を話す魔物はちょっと食べるのに躊躇するなぁ。
「これ、昨日のお詫び。豚肉は美味」
豚肉が美味しいのは知ってるよ。
タレを生成して、生姜焼きとかしてみるのもいいかも……じゅるり。
「ま、まぁ、許す……」
「ありがと」
オネエさんがオークも解体してくれて、猪肉と豚肉の塊が出来上がった。
肉になってみると、オークも普通に食材だね。
私は昨日の蟹の甲羅を毒で加工して、お鍋とフライパンを作る。
鍋の方は猪肉で牡丹鍋に。
フライパンの方は生姜焼き用のタレ(毒)を生成して、オーク肉の生姜焼きを作る。
火加減が命なので、焚き火ではなくスキルで生成した炎で調節する。
「お嬢ちゃん……便利だわね」
「一家に一台欲しい」
調理器具ちゃいますよ?
よし、良い感じに出来たので炎を止める。
毒部分は消えちゃうから染み込んだ部分しか味しないと思うけど、そこは素材の旨味に期待しよう。
鍋の方を一口食べてみると……、
「うんまあああいっ!!」
牡丹鍋は汁も、出汁が効いててそれなりに美味い。
猪肉には充分に毒が染みこんでて、そこから溶け出した旨味が程良く調和している。
次に恐る恐るオーク肉に手を付ける。
パクリと口に入れると、
「なっ……なんじゃこりゃあああああっ!!」
別に撃たれた訳ではない。
常軌を逸した美味さに打ち震えたのだ。
タレは生成した毒なので消えてしまっているが、逆に染みこんだ味が肉の中で引き立って口の中で踊り狂う。
これが高級豚肉か……。
「ねぇ、もう食べてもいいかしら?」
「すごく美味しそう」
2人が食べたそうにしてるので、皿にした蟹足の殻に取り分けてあげた。
「うっ、うまああああっ!!猪肉もオーク肉も、どうやったらこんなに美味しくなるのっ!?」
「美味っ!!これこそが至高っ!!」
2人とも満足したようだ。
大量にあったお肉も、一食分として3人のお腹へと消えた。
なによこの森、めっちゃいい食材が揃ってるじゃない。
もう、この森に住もうかな?
お肉を食べ終わってまったりしていると、オネエさんが急に真面目な顔になった。
最後の晩餐を終えて、ついに引導を渡されるのか!?
「ねぇ、お嬢ちゃん。アタシ達と一緒に来ない?」
「……それは連行ですか?その先に待っているのは処刑ですか?」
「いやいや、違うわよっ!アタシ達はあなたを保護しようと思ってるの」
保護?
ヴァンパイアと獣人のハイブリッドという希少種だから、特別天然記念物に指定されたの?
「秘めている力は強すぎるのに、まだ未熟だから危うい」
「そうなのよ。だから、アタシ達がしばらくあなたの傍に居て、鍛えてあげようと思うのよ」
どういう心境の変化かは分からないけど、敵対しないなら、まぁいいのかな?
「私、寝首を掻くかも知れないよ?」
「ウフフ、掻けるものなら掻いてもいいわよぉ?」
まぁ化物相手にそんなの無理なんですけどね。
いずれにしても、今は迷子なので道案内は必要だよね。
「オネエさん達はどこか目的地はあるんですか?」
「まぁ色々調べる事はあるんだけど、今は手掛かりも無いし、あなたの望む場所へ行ってもいいわ」
「……じゃあ、メルヴェリア王国の王都へ行ってもらってもいいですか?」
「もちろん!あと、アタシの名前はキャサリンよ。よろしくねっ」
「私はリスイ。よろ」
「アイナです。よろしくお願いしますっ!」
ふふふ……、この超強力な2人が傍に居てくれれば、侯爵も手が出せまい。
この前の街の名前を聞き忘れたから、直接王都に行って貴族の動向を探ってやんよっ!!
「やったわ!これで毎日美味しいものが食べれる!」
「美味料理楽しみ!」
おい、私の保護は何処行った?
この物語はファンタジーです。
実在する生姜焼き用のタレとは一切関係ありません。




