006 ダンジョン
お爺さんの話によると、ダンジョンの中の空は天井に似たような模様が描かれているだけらしい。
昔、空飛ぶ魔導具で調べたんだって。
何その魔導具、めっちゃ欲しいんだけど!
そんな魔導具あれば逃亡も簡単だったのに……って無い物ねだりしてもしょうがないか。
お爺さんも今は持ってないらしいし、そりゃあったら迷ってないよね。
神官さんは街の外に出れるって言ってたけど、まさかダンジョンに飛ばされるとは……。
あれってやっぱり罠だったのかな?
神官さんが仕掛けたとは思えないから、別の誰かだろうか?
そうすると、私がここに居るって知ってる人が最低でも一人増える事になっちゃう。面倒だね。
逃亡の身としてはなるべく居場所を知る人を増やしたくないんだけど、既に変なお爺さんにも関わっちゃってるから今更かな。
それにしてもダンジョンかぁ……。
父と母はダンジョンに行ったまま帰って来なかった。
正確には、帰ってくる前に私が伯爵に攫われたというべきかな。
両親共に冒険者なので、二人揃って家を空ける事は珍しくない。
いつもなら両親の知り合いがうちに来て私の面倒を見てくれてたんだけど、たまたまその時は誰も来てなかった。
人里から少し離れた場所に住んでたので魔物が出たりするんだけど、私が生活する周囲には結界が張ってあるので一人でも問題無く生活出来ていた。
しかしある日、父の弟と名乗る伯爵がやってきて、私の両親がダンジョンで消息不明になったと告げた。
まぁ帰還予定より遅れているだけなので生きている可能性はあるらしいのだが、伯爵は「お前の面倒を見てやる」と高圧的な態度で私を拘束した。
スキルを得る前だったので抵抗する術も無く、そのまま伯爵領の領都まで連れて来られたのだ。
面倒を見るとか言っておきながら、食事は最低限だし、家の雑用はさせられるし、伯爵家の人には嫌味を言われるし、はっきり言って家で一人で居た時の方が快適だった。
ようやく逃げ出せたはいいけど、家の場所は知られているから戻る訳にはいかない。
両親が帰って来てれば保護してもらえるだろうけど、他に頼れる伝手も無い。
いつも来てくれていた両親の知り合いは、名前を知ってる程度でどこの誰かも分からないから頼ろうにも頼れないし……。
追っ手が来なくて、食べ物があって、雨風が凌げる場所があれば……ん?ここ!?
あの魔方陣からだと来れちゃうけど、今のところ追っ手が来てる気配は無い。
レベルが上がったおかげでクリティカルポイントが視れる範囲が広がって、今は半径500mぐらいまで感知できるんだけど、近くにいるのは私とお爺さんだけだ。
ダンジョンの魔物は倒したら消えちゃうのかと思ったけど、あの亀は倒した後でも消えたりしなかったから、他の魔物も同様なら食べ物にも困らない。ある程度時間が経つとダンジョンに吸収されるらしいけど。
更に天井は空じゃなくてただの模様だから雨も降らない。
完璧じゃん!
「私、ダンジョンに住むわ!」
「娘っ子、気でも狂ったか?」
何よその残念な子を見るような目は?
あと、股間を掻くな!
あ……さっきのしっぽ、お爺さんが股間触った手で渡してきたんだった。食べちゃったよ……。
「どうした!?急に顔色悪くなったが、大丈夫か?」
焼いたから消毒されてると思うけど……、一応胃薬(毒)を生成して飲んどこ。
この物語はファンタジーです。
実在する胃薬とは一切関係ありません。